第13話 規格外な母
(とりあえず、この契約書どうしたらいいですか?)
俺は恐ろしいことが書かれた契約書を爆発物であるかのように扱う。もしなにかの間違いで自分にあんな雷が降り注げば一瞬でこんがりとなってしまうだろう。
『私を信用できるまでは《アイテムボックス》に入れておけばいいよ。おまえ自身がその契約書を破棄する意思を持って破かない限りその契約書はどうなろうがいずれ再生する』
(わかりました)
言われた通り契約書を《アイテムボックス》に入れると、木から降りてシールドを一撫でする。
生まれて初めて目にしたであろう雷でかなり怖がっていたシールドだったが、撫でるとすぐに安心した顔を見せてくれた。
(なぁシールド。俺が居てもあんな雷落ちてきたら防ぎ切れないぞ)
理屈ではないのだろう。例え俺が害を防ぐだけの力を持たなくともただそこにいるだけで無条件に安心ができる。そうシールドの心理に刷り込ませてしまった。シールドを俺の手元にずっと置いておくというのはシールド自身の成長の妨げになる。そう、思った。
『その様子だと決心がついたようだな。おまえがシールドを私に守らせるための契約内容を考えておけ。その間に私は頑張ってシールドを説得するとしよう』
俺と母の間に繋がるパスみたいなものが途切れた。
そして、シールドが俺に初めて《念話》を使用されたときと同じくらい慌てふためく。母は俺との《念話》を切り、直ぐさまシールドに繋いだのだろう。
シールドが俺の方を向くが俺はゆっくり首を振る。《念話》の主が俺でないことを知ったシールドは母に何かを伝えられたのか会話に集中するようにゆっくり目を瞑った。
母は本来俺がやるべきだった説得さえやってくれるという。それをさせるのは母に対して少し申し訳ないという思いもあったが正直ありがたかった。俺がシールドを説得しようとしたらまた押し切られてしまうかも知れないし、情に流されてしまいそうだった。シールドの説得にはある程度時間がかかるだろうからできるだけ隙の無い契約内容を考えよう。
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考えている最中俺の視界の端に目に涙を溜め、首をイヤイヤとばかりに振っているシールドが見え、心が痛んだ。
しかし、これはシールドにとって必要なことなのだと必死に自分に言い聞かせた。
気が散るので見ないようにしていたが、どうしても気になってしまい考えながらもシールドの方を見ていると最初は首を振っていたシールドが時間が経つにつれ段々と首を振らなくなった。そして俯きしばらくしてゆっくりと目を見開き決意に満ちた目を俺の方に向けた。
(やばい。何を話していたかは分からないけどそれでも泣けるんですけどー)
俺がシールドが大人になったような気持ちになり、感動に浸っていると、感動する映画を見終えた後みたいな様子の母が話しかけてきた。
『シールドの説得は……ズビ……終わったよ。あとは、おまえの……ズビ……契約内容だな……ダメだな最近涙腺が緩くて。チーン!』
母はまるで人間のように感受性豊かだった。というかなんだ、最後の鼻をかんだような音は。この世界にティッシュでもあるというのか?
(契約の神よ。“母のロサはシールドが危機に陥れば、手段を問わず助けなければならない”。罰は、罰は……)
罰はまだ考えられていなかった。どうすれば罰となるか、どうすれば約束事を守ろうという気になるのかが分からなかった。
『……罰は“私の命を支払う”でいいだろう。まどろっこしい』
(!?)
また母はとんでもないことを何ともないように言い放つ。確かに一瞬頭に浮かびはしたが、これはないなとすぐに切り捨てた案をあっさり繰り出してきた。
『どうせ私は条件破るつもりはない。私の目が届くこの島で、私の目の黒いうちにシールドが死ぬことなど絶対にありえん』
なんと頼もしく説得力のある言葉だろうか。伊達にあの雷を受けて平気にしている訳ではない。
(では罰は“母のロサの命が失われる”でお願いします)
契約書が降りてきた際に魔力がごっそりと削られた。どうやら契約魔法は契約を結ぶとき以外に契約書を召喚するときにも魔力を消耗するらしい。契約書が召喚されるときに色々と設定をいじれるようで、前回の嘘をついたら雷の契約書は俺が一方的に破棄できるように作成されたものだった。俺は契約をシールドが破棄できるように設定しておく。そうすると契約書が消え去った。そしてすぐに母の同意が刻まれた契約書がシールドの目の前に現れる。
『ほう、驚いた。もう契約魔法を使いこなすか。冬の間に魔力増大と魔力制御に力を入れていたのが分かるぞ。よく頑張ったな』
(えっ? 俺が契約魔法を使えということじゃなかったんですか?)
『私は契約内容を考えておけとしか言ってない。契約魔法をいきなりやれだなんて無茶振りはしないぞ。結構な魔力を使っただろうし、魔力の扱いが相当難しかったはずだ。大丈夫か? 今魔力不足で死にかけていたりはしてないか?』
確かに冬前というか冬中盤でも死んでいたかも知れない量の魔力をこの魔法に吸い取られた。今必死に《変換》で魔力を補充しているがこれが間に合っていなかったら俺は倒れていただろう。今も少しだけ体が怠い。
『順調に育ってくれている様子でなによりだ。まあ少し順調すぎるようにも思えるけどね』
鋭い言葉にビクッとする。今思えば俺は生まれてこの方明らかにおかしい動きしかしていなかったように思える。だからバレても仕方がないとは思うが、自分からひけらかしていくのも変だ。ここは普通にスルーしよう。
(そういえばここって島だったんですね大きいから陸だと思ってました)
『もうその言葉からしてバレバレなんだけどねぇ。そうだ、そこは大陸ではない。けど、そこは島というには語弊があってね。私は言いやすいから普段から島って言ってるけど』
(……というと?)
『そこって私の背中の上なんだよね』
(……アレ、オカシイナ。ナンデ雷ガ落チナインダ?)
俺はそう思いながら《アイテムボックス》から契約書を取り出して現実逃避気味に眺める。
『さてはおまえ信じてないな? ……今から雷を落としまーす。私の体重は千五百トン未満!』
そりゃそうだろうと油断しているとさっきと同じ方向に特大の雷が落ちた。シールドが俺にしがみつく。
『地面を揺らしまーす!』
またもや予言通のことが起こり、地面がものすごく揺れて立っていられなくなる。痛いぐらいシールドのしがみつく力が強まる。
(分かった! 分かったから! もう止めてください!)
『了解。いやー久しぶりに体を動かした。少しだけ凝りがほぐれたよ』
揺れが少しずつ収まっていく。母は体を少し動かしただけなのだろうがまだ地面が揺れているような感覚がする。シールドなどまだ固く目を閉じたままだ。
(心臓に悪いことしないでくださいよ!)
『こうした方が分かりやすいと思ってね』
どうにもこうにもさっきから驚かされっぱなしだ。対する母は相変わらずケロッとしている。強大すぎて小さい者の気持ちが分かり難くなってしまったのか。おそらく母は【ミディアムタートル】から進化していったのだろう。失礼だが、こんな動くだけで災害を起こしてしまいそうな窮屈な存在にはなりたくないなと思った。
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