第9話「次の標的と探求心」
この街に来てから早半月が経過した。
私達は毎日魔法の練習をしつつ、ホーンラビットを狩っていた。
最初の頃に比べると、かなりスムーズにホーンラビットを狩れるようになってきた。
しかし、今日は未だに1匹もホーンラビットを狩れてない。
何故かと言うと……
「見つけ!あっ……逃げられた」
「また逃げられちゃいましたね」
「なんでだろうなぁ……昨日まではあっちの方から襲い掛かってきてたのに」
ホーンラビットが私を見ると逃げ出すようになってしまったのだ。
昨日の時点では私に近寄ろうとしないホーンラビットも少し居たが、
大抵のホーンラビットは近づけば攻撃して来た。
しかし、今日は全てのホーンラビットが私から逃げ出すようになっていた。
ホーンラビットを狩るのに慣れたとは言っても、それは相手の方から向かってくるならの話。
相手が逃げ回るようになったらそううまくはいかなくなってきた。
◇◆◇◆◇
「それは貴方がホーンラビットにとって脅威と感じられるようになったからでしょうね」
結局今日は2匹しか狩る事ができず、流石に今のままだと困るので
ギルドに買い取ってもらうついでに相談に乗ってもらっていた。
「脅威……ですか?」
「ええ。ホーンラビットはモンスターとしては憶病な性格で、
ある程度の強さを持った人からは逃げ出してしまうんですよ
つまりそれだけ貴方が強くなったって事です」
「強くなった……か」
強くなった事自体は嬉しい。しかしそれによって狩りに支障が出るのは流石に困りものだ。
またお金に困る生活に逆戻りする事になる。
ちなみに仕事の募集は未だに1つも無い。
あの時にモンスター狩りを決意してなかったら、きっと今頃お金が尽きてただろう。
本当にあの時決意しておいてよかった。
「強くなったんですから、もう少し遠くに行ってみるのはどうでしょうか?
テンセ山とかお勧めですよ」
「テンセ山?」
「はい、この街の北側にある山の事です。そこのゴブリンなら丁度いいかと思いますよ」
「そこってまさか……」
「私達が出会った山ですね……」
北の山、私がこの世界に迷い込んだ山であり、ミサキとリーナが初めて出会った山であり
ミサキが初めてモンスターと出会い、倒した山でもある、
2人にとって色々と思い出深い山だ。
かつては1匹でも苦労した相手、ゴブリン。
でも今は戦いにも慣れた。リーナも付いている。
もう1度戦ったらどれぐらい戦えるんだろうか?
「どうしますか?ミサキさん」
「どうするって言っても……行くしかないよなぁ……」
どちらにしても逃げ回るホーンラビットを狩るのは効率が悪すぎる。
仕方ない、明日、またあの山に行くしかなさそうだ。
あの思い出の山に。
◇◆◇◆◇
翌日、ミサキ達は次の獲物、ゴブリンを狩りにテンセ山に向かい出発した。
今やすっかり歩き慣れた道を通り、いつもならここらで横道に逸れて
ホーンラビットを狩りに行くところを、更に奥に進んでいく。
次第に草木が高くなり、歩いていた所が草原から森の中に移り変わっていく。
しかし静かで綺麗な山だ。異世界である事を忘れてしまいそうだ。
かつては緊張と不安でいっぱいいっぱいだったが、今はそんな事を考える余裕も出来ている。
でも、今はここに狩りに来ている。ピクニックやキャンプでは無い。
森の中と言う事は、自分から相手の姿は見えにくいと言う事でもある。
いつゴブリンに襲われてもいいように、あまり気を抜き過ぎないように気をつける。
山道だけあって、草原の道に比べたら道がデコボコして角度もあり歩きづらい。
おまけに今は夏なので、じりじりと焼けつくような太陽が私達の体力を奪っていく。
「ふぅ……リーナ、ちょっと休もうか」
「はい……ちょっと疲れました……」
「そうだね」
ミサキ達は体力を減らし過ぎないように、ちょくちょく休憩を挟んだ。
実を言うとミサキはデコボコした山道も、照りつける日の暑さも
登山やキャンプでもう慣れっこの上に、何度もホーンラビットと戦って
更に体力がついたため、そんなに疲れてはいなかった。
でも、リーナの方はそうはいかない。あくまで魔法での後方支援タイプな為
ミサキほどの体力は無い。
登山と言うのはペース配分が大事だ。無理のないペースで歩いて、疲れたら休む。
そして今は夏なので、水分補給もしなければならない。
なので、ミサキ達はちょくちょく休憩を挟みながら、ゆっくりと山を登って行った。
◇◆◇◆◇
「出ないなぁ……ゴブリン」
「そうですねぇ……」
あれからしばらく山道を登り続けたが、未だにゴブリンは姿を現さない。
そうしているうちに山の頂上が見えて来てしまった。
「ミサキさん、頂上です」
「頂上か……結局1匹もゴブリンとは出会わなかったな……」
ゴブリンを1匹狩ったらすぐ戻るつもりだったので、これは想定外だった。
もしかしたらゴブリンは本来あまり出てこないモンスターなんじゃないだろうか?
「とりあえずあそこでご飯を食べたら、下りてゴブリンを探さないと」
「はい」
正直ゴブリンとはあまり戦いたくはないけれど、収穫0は流石にマズい。
そんな事を思いつつ、山を登り切る。
「……!!」
私はその風景に思わず息を飲んだ。
それはまさしく絶景だった。
遠くに所々に人が住んでるであろう街がぽつりと存在するだけで、見渡す限りの大自然。
その光景は現代日本では見られないような幻想的な世界だった。
「凄い……」
私の中の探求心が、ふつふつと燃え上がって来た。
この世界に来てからすっかり忘れていた、私の中の好奇心。
「……ねぇリーナ」
「何でしょうか?」
「ここの風景……凄く綺麗だね」
「そうですね。凄く綺麗です」
「……私はね、昔は色々な所に行って、色々な風景を見るのが好きだったんだ。
今まですっかり忘れていたけど、この景色を見て思い出した。
私はこの世界をもっと知りたい。もっと見て回りたい。
リーナは……それでも私と一緒に居てくれる?」
我ながら無茶な要求だと思う。
これからはもっと危険な所に行くかもしれないと言ってるようなものだ。
愛想を尽かれてもおかしくない。
「もちろんです。それがミサキさんの願いなら、私はそれについていきます!」
しかし彼女は優しく、でも力強く、一緒に居てくれると答えてくれた。
「ありがとう」
未知の世界で1人になりたくないと言うのもそうだけど、
今となってはそう言うのとは関係なく、ただリーナと離れたくなかった。
だから、その言葉は本当に嬉しかった。