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第5話「文字と休息」

「仕事は見つからなかったけれど、とりあえずお金は手に入ったし、何か食べたい」

「そうですね、じゃあ宿の食堂でご飯を食べましょう」


ミサキ達はもう空腹で限界だったので、ギルドの側の宿に入り食事を取る事にした。


「いらっしゃいませ、ご宿泊ですか?1人1泊1200ガルになります」

「それじゃあ2人でお願いします」


ミサキ達は受付嬢にお金を支払う。


「それではお名前をお願いします」

「リーナです」

「ミサキで」

「はい、受け付けました。この鍵の番号の部屋をお使いください。

左手にお風呂と食堂がありますが、ご宿泊とは別料金なのでお気を付けください。

それと、もし汚れた服がありましたら、ここに預けてくれれば有料で洗濯いたします」


服も洗濯してくれるのか。

今は夏と言う事もあって暑くて汗でベトベト、

おまけに野宿もしたので服がかなり汚れているから、洗濯してくれると言うのはありがたい。

後で服を買って、ここで洗濯してもらおう。

ミサキ達は鍵を受け取り、食堂に向かった。


食堂に付くと、ウェイトレスが席に案内してくれた。

どうやら食堂と言うよりはレストランに近い形式の様だ。

やっとちゃんとした食事を取れる……

そんな期待をしつつメニューを手に取った瞬間、ある不安が頭をよぎる。

そういえばこの世界の文字はどうなっているんだろうか?

話言葉は不思議なことに日本語で通じてるが、文字も通じるかどうかわからない。

メニューが読めなかったらどうしよう。リーナに頼んで注文してもらおうか?

そんな不安を抱えつつ、ゆっくりとメニューのページを開いた。


そこに書いてあったのは、見覚えのある文字だった。

SANDOITTI CO-NPOTA-ZYU SUTE-KI

それぞれ「サンドイッチ」「コーンポタージュ」「ステーキ」と書かれている。

間違いない。この世界の文字はローマ字だ!


言葉も文字も通じる世界だと分かってほっとした所で、改めてメニューを確認する。


「私はトマトソースパスタで。ミサキさんはどうしますか?」

「じゃあ、私もそれで」

「わかりました」


ミサキ達はメニューを一通り見た後、500ガルのトマトソースパスタを2人分注文した。

ホカホカと湯気が立ち上り、美味しそうな香りがお腹を刺激する。

もう空腹で限界だ。ミサキ達は勢いよくパスタをかっ込み始めた。


美味しい!


濃厚なトマトソースの味が口の中に広がる。

麺もしっかりと柔らかい。

異世界だから食文化はどうなんだろうかと少し不安だったけど、

普通に美味しい。これなら味の心配はなさそうだ。

私は満足してトマトソースパスタを平らげた。


◇◆◇◆◇


あの後、服や石鹸と言った生活用品を買いそろえ、宿の風呂場に来ていた。

時間帯が早いからか、お風呂には人が居なくて、実質私達の貸し切りのような状態だった。


「ミサキさん、体を洗ってあげます!」

「いいの?」

「はい!任せてください!」


リーナは、ミサキの背中を、頭を洗う。

ミサキは胸は無いが、背は高く、しっかりと筋肉の付いた、

良く言えば頼りがいのある、悪く言えば女の子らしくない体つきと言った所か。

そんなミサキの体を、リーナは力は入れず、優しく丁寧に洗う。

誰かに体を洗ってもらうなんて何年振りだろうか。

その気持ちよさをミサキはじっくりと味わっていた。


「ありがとうリーナ、とっても気持ちよかったよ」

「それはよかったです」

「じゃあ、今度は私がリーナを洗う番だね」

「いいんですか?」

「もちろん。ほら、後ろ向いて」


今度はミサキがリーナを洗う。


「んっ……うぅ……」


リーナはくすぐったそうに声を出す。


リーナの体は小さく、胸は大きく、顔は可愛く、まさに理想的な女の子像と言う感じで

ミサキとは対照的な体つきだった。

なんだか力を入れると壊れてしまいそうで、ミサキも慎重にリーナを洗う。


「きもちいいです……」


とりあえず力加減は丁度よさそうで、リーナは気持ちよさそうな声を出す。


石鹸の泡を洗い流すと、ミサキ達はゆっくりと湯に浸かる。

ああ……疲れた体に染みわたる。

異世界に来てようやく一息入れられた気がする。


◇◆◇◆◇


お風呂に入ってスッキリした後、私は脱いだ服を宿に預け、自分の部屋に向かった。


やっと部屋の中で休める……


キャンプが趣味な私としては本来野宿なんて慣れっこだけど、

今回ばかりは屋根の下で休める事が、こんなにありがたいと思ったことは無かった。


私は借りた部屋の扉を開ける。

そこは小さな部屋だったが。ベッドもテーブルも洗面台もあり、普通の生活はできそうだ。

私はベッドの上に倒れ込むように横になる。

布団はしっかり柔らかい。ご飯も美味しいし、理不尽に辛い世界ではなさそうだ。

とは言っても、完全に不安が消えたわけではない。

今はリーナの協力があるからいいけれど、いつまでも頼り続けるわけにもいかない。

いくらご飯が美味しくても、布団が柔らかくても、ここは私の全く知らない

世界である事に変わりはない。

仕事だってまだない。

そんな世界で、はたして私はやっていけるんだろうか……?


コンコン


そんな事を考えていると、扉を叩く事が聞こえてきた。


「……誰?」

「あ……あの……ミサキさんと一緒に居てもいいですか?」


扉を叩いたのはリーナのようだ。

リーナは恥ずかしそうにそうお願いしてきた。

もしかして1人になって寂しくなったんだろうか?

しっかりしてるように見えてもやっぱり女の子なんだ。

ミサキは扉を開けて、リーナを迎い入れた。


「いいよ。おいで」


そう答えると、リーナは嬉しそうに部屋の中に入ってきた。

それを見ると、さっきまで不安でいっぱいだった私の心が少しやわらいだ気がする。


「リーナ」

「何ですか?」

「明日も頑張ろう」

「はい!」


不安だらけな異世界の生活だけど、リーナと一緒なら頑張れそう。

そんな気がした。

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