第4話「お金とギルド」
日が昇り、ミサキが目を覚ますと、リーナが心配そうにミサキをのぞき込んでいた。
「よかったです……もし目を覚まさなかったと思うと……」
リーナは目から涙をぽろぽろと流す。
一瞬どうしたのかと思ったが、昨夜の事を思い出し、横を見る。
そこには胸にナイフが突き刺さったゴブリンの死体があった。
あの戦いは夢では無かったのか……
今思い出しても吐きそうだが、なんとか堪えた。
死ぬほど怖く、辛い経験だったけれど、モンスターが存在するような世界で生活するなら
モンスターを殺すことは避けては通れない道だろう。
むしろ今のうちに経験しておいてよかったのかもしれない。
「大丈夫だよ。ありがとう、リーナ」
私はリーナの頭を優しく撫でた。
リーナは安心した顔をして撫でられていた。
◇◆◇◆◇
「ねぇリーナ、大事な話があるんだけれど、聞いてくれるかな?」
「はい、何でしょうか?」
しばらくしてリーナが落ち着いた所で、ミサキはこの世界の事を何も知らない事を打ち明けた。
と言っても、流石に異世界から来た、と言う点は信じてもらえるとは思わなかったため
そこは遠くのド田舎から来て迷子になってしまった事にして話をした。
リーナは嫌な顔を1つしないで、真剣に私の話を聞いてくれた。
「分かりました、ミサキさんには色々助けられた恩がありますので、
出来る限りご協力します!」
「ありがとうリーナ」
正直言ってこんな未知で危険な世界で一人になりたくなかったので、
リーナが協力してくれるのはとても嬉しかった。
そして、ミサキ達は今後どうすればいいか話し合った。
まずリーナにこの世界のお金の事を教えてもらった。
この世界の通貨は「ガル」と言い、
1ガル銅貨、10ガル大銅貨、100ガル銀貨、1000ガル大銀貨、1万ガル金貨の
5種類の硬貨がある。
今リーナが持っている硬貨を数えてみると合計64250ガルあることがわかった。
リーナ曰く2人だと半月もしない内に無くなってしまう程度の額らしいので、
無くなる前に早く仕事を見つけたい所だ。
仕事は支援ギルドと呼ばれる所に行けば貰えるらしいので
街に付いたらそこに向かうことにした。
また、支援ギルドに行けばモンスターを買い取ってもらえると言う事なので
あのゴブリンの死体を持って行く事にした。
正直気持ち悪いけれど、他にお金を稼ぐ手段が無い今、背に腹は代えられない。
今後の事も話し合ったところで、ミサキ達は道沿いに山を抜けることにした。
道の無い山を下るよりは遥かに歩きやすい道だったが、それでも
ゴブリンを担いでるせいで進むペースは半分以下になってしまった。
それでも日が昇り切る前にはなんとか山を抜け、見通しのいい草原が一面に広がった。
正直リーナ達やゴブリンの方がこちらの世界に迷い込んだのであって、
スマホが圏外なのは壊れてしまったから、と言う展開をわずかばかり期待していたが
この光景でその幻想は完全に破壊されてしまった。
「見えました、あそこがサーショ町です」
リーナは道の真ん中には家が何件か集まる小さな町を指さした。
異世界に来て初めての町……
余所者どころじゃない。異世界人の自分を受け入れてくれる所なのか、
そして自分がちゃんと生活できる環境なのか、
ミサキは不安でいっぱいだった。
◇◆◇◆◇
日がすっかり昇り切った頃に、ミサキ達はその町に辿り着いた。
石畳に木やレンガで建てられた建物でその街は構成されていて
オシャレな雰囲気がそこにはあった。
ぐぅぅぅぅぅう
「お腹空いた……」
「ゴブリンを売ったら何か食べましょうか」
「そうだね……」
……とにかくこの重くて邪魔で目立ちそうなゴブリンを早く売ってしまいたい。
そして何か食べたい。今朝から何も食べてなくて、もう腹ペコだ。
ゴブリンを担いだミサキ達は目立ちはしたものの、特に何か厄介事に巻き込まれる事は無く
リーナの案内で、1つの大きな建物の前までたどり着いた。
「着きました。ここが支援ギルドです」
そこには他の建物よりも一回り大きな建物があり、
黄金のGの文字に剣が2本交わっている看板があった。
なるほど、あれがギルドのマークと言う事なんだろうか?それならわかりやすい。
ギルドってどんな所だろうか?仕事をくれると言うのなら、役所のような所なのだろうか?
そんな事を考えながら、私はギルドの中に入った。
建物の中は意外と綺麗で清潔で明るかった。
床はタイルで敷き詰められ、広々な空間が広がっている。
人は少なく、職員さんもカウンターの奥で暇そうにしている。
「あの、少しいいでしょうか?」
「はい、何でしょうか?」
リーナがカウンター越しに声をかけると、1人の受付嬢が優しく笑顔で返事を返してくれた。
「ゴブリンを狩って来たので、買い取ってもらいに来ました」
私はカウンターにゴブリンを置いた。
疲れた……ゴブリンは結構重かったから大変だった。
「ゴブリンですね、少々お待ちください」
受付嬢は人を呼ぶと、ゴブリンを持たせてギルドの奥に引っ込んだ。
「ねぇリーナ、ゴブリンっていくらぐらいで買い取ってくれるんだろう?」
「ええと、ゴブリンなら大体7~8000ガルほどでしょうか?」
「7~8000か。結構高値で買い取ってくれるんだね」
そんな事を話していると、受付嬢が小さな袋を持ってきた。
その中には7000ガルが入っていた。これが買い取り金って事だろう。
7000ガルもあれば数日は暮らすことが出来る。
大変だったけど、わざわざ持ってきたかいがあるってものだ。
「それと、この街で働ける所を探してるんですけれど……」
「ごめんなさい、お仕事は今は募集が無いんですよ」
「そうなんですか……」
仕事が無いのか……それはちょっとマズい。
さっきも確認したように、今はあまりお金を持っていない。
ゴブリンの代金を合わせても、1カ月生活できるかどうかもわからない。
だから早く仕事を得て生活を安定させたかった。
「ゴブリンを倒せる実力があるのなら、モンスターを狩るのがいいと思いますよ」
「えっ!?ゴブリンとまた戦うなんて、勘弁してください!」
ゴブリンとの戦いはまさしく死闘だった。
だからあんなのとまた戦うなんて、可能な限り避けたい所。
あの時はたまたま勝てたけど、今度は本当に死んでしまうかもしれない。
「いえ、モンスターはゴブリンだけではありませんよ。
この近くならホーンラビットが狩りに最適かと思います
ホーンラビットならばゴブリンよりも一回り弱いモンスターなので
偶然でもゴブリンを狩る事ができたのなら、問題無いかと」
そう言えばここの途中の草原にチラチラと白い物が居た記憶がある。
あれがそうなんだろう。
ホーンラビット……名前からしてなんだか強そうだ。
ミサキはユニコーンのような角が付いた大きなウサギを想像する。
……うわ、戦いたくない。
いくらゴブリンより弱いと言っても、あまり気は進まない。
「どうしますか?ミサキさん」
「とりあえず、考えておくよ……」
ミサキは言葉を濁して答えた。
とりあえずモンスター退治は本当に最終手段、最終手段として考えよう。