第34話「修行の成果」
あれから数日間、セントラル王都を散歩し、そして今日、久しぶりに冒険を再開した。
今日は雲一つない、絶好の冒険日和だ。
目の前には大草原が広がり、非常に見晴らしがいい。
長い間、魔法の光が無いと何も見えないほど暗い洞窟ばかりに居たので
こういう明るく、広々とした所を探索するのは久々の事で、気持ちがいい。
今回の目的地はセントラル王都の北にある大きな森、ジューカ森だ。
なんでもその森の中に、妖精の出る聖なる泉があるそうだ。
「妖精ってどんな姿をしてるんだろう」
「噂だと、凄く小さくて、凄く綺麗な姿をしてるらしいですよ」
「なるほど……見てみたいね!」
「はい!」
私はワクワクしながら草原の中を歩いていた。
ちなみにセントラル王都の周辺に出るモンスターはサーショ街でも見たホーンラビットと
小さな狼、と言うよりは犬のような姿をしたリトルウルフの2匹だ。
ホーンラビットはもちろんの事、リトルウルフも憶病なモンスターらしく
私達には全く近寄ろうとはしない。
まぁ、今更ホーンラビットあたりを狩っても効率が悪いので
襲ってこないのはむしろありがたかった。
その結果、特に何の問題も無く、私達はジューカ森に辿り着いた。
「……聖なる泉ってどこにあるんだろう?」
「ハルさんも詳しい場所は知らないって言ってましたし……」
「って事は、しらみつぶしに探すしかないって事か、これは骨が折れそうだね……」
外から見ただけでもジューカ森は凄く大きい森だ。
テンセ山やクレン山は道なりに歩けば山頂にたどり着いたけど、今回はそういう道も無い。
つまり、この広い森の中から目印も無い目的地を探し出す必要があるわけだ。
これは本当に骨が折れそうだ……
でも、どうしても妖精を見てみたかったので、気合を入れる。
幸い今は時期的に木の葉はもう散っていて見通しがいい。
何かを探すなら丁度いいだろう。
その代わり、見通しが良いと言う事は、モンスターからも見つかりやすくなる
と言う事でもあった。
「ミサキさん!コボルトです!」
森に入って最初に襲ってきたのは、二足歩行をした狼のモンスター、コボルト2匹だった。
コボルト達はこちらに向かって素早い動きで突っ込んでくる。
そのスピードはダンジョンに居たハイゴブリン並みだ。
しかし、今の私達なら問題なく対応できる速度だ。
魔力の強さ的にも、苦戦するような相手では無いだろう。
「シャインショット!」
リーナの掛け声と共に杖から光の球が放たれる。
その光の球はコボルト1匹に命中し、閃光と共に弾け飛び、コボルトを吹き飛ばした。
もう1匹のコボルトは構わずに突っ込んでくが、私は冷静にナイフを2本取り出し構える。
ナイフ二刀流、長期間のダンジョンでの特訓で
私が1番戦いやすいと判断したスタイルがこれだ。
私は剣よりもナイフの方が手に馴染み、上手く扱う事ができる。
しかし、ダンジョンのモンスターはタフで、ナイフで1回切り付けただけでは
死なない事が多く、何度も反撃を貰っていた。
かと言って魔法で攻撃しようにも、素手では中々強い魔法が使えず
それならただ強化したナイフで攻撃したほうがまだ強かった。
ならばどうするか、1回で足りないのなら、何度も切り付ければいい。
私はコボルトの爪による攻撃をナイフで弾き飛ばすと
目にもとまらぬ早さで両手のナイフでコボルトを3回切り付ける。
コボルトは声すら上げず、その場に崩れ去った。
「やりましたね!」
「うん。これならこの山も問題なさそうかな」
私はコボルトの死体を袋に入れる。
今まではこれで一旦街に戻っていたが、今の袋には空間拡大のエンチャントをつけてあるので
まだまだ全然余裕がある。
「じゃあ、先に進もうか」
「はい!」
こうして私達は森を探索し続けた。
あれからキラースネークと言う巨大な大蛇とか、
トレントと言う動く木と言ったモンスターにも襲われたけれど
特に問題無く撃退し、順調に森を歩き続けた。
本当に最初の頃と比べると、かなり強くなったと思う。
「そろそろご飯にしようか」
「はい」
強くなったとはいえ、流石に空腹はどうしようもできない。
一旦歩くのを止めて、リュックからサンドイッチを取り出そうとする。
「あっ、凄い、暖かい」
リュックの中のコロッケのサンドイッチは朝に買ったものなのに
まるで出来立てのように暖かかった。
「そんなに暖かいんですか?」
「うん。ほら」
「熱っ!本当です、出来立てみたいに暖かいですね」
「これが劣化防止エンチャントの効力か……思った以上に便利だね」
「外でも暖かいご飯が食べられるっていいですね!」
サンドイッチのコロッケは暖かくサクサクで非常に美味しかった。
冷めたのも美味しいけれど、やはり出来立ては格別だ。
外でもこんな食事ができるなら、冒険の活力も上がると言う物だ。