第29話「また次の街へ」
あれから2ヵ月後。
ダンジョンに挑み始めた頃はまだ残暑で暑かったが、今やすっかり肌寒くなっていた。
私達はダンジョンに挑むのを辞め、馬車で次の街、セントラル王都に向かう所だった。
別にダンジョンに挑むのから逃げたわけじゃない。
実は2ヵ月ほどダンジョンに挑み続けていたら、ある日を境にばったりと
モンスターが出てこなくなってしまった
受付嬢の人に聞いてみると、どうやらダンジョンマスターが倒されたらしい。
ダンジョンと言うのはダンジョンコアと言う特殊な魔結晶で成り立っていて、
そのダンジョンコアを核に持つダンジョンマスターと言う強力なモンスターが居るらしい。
そして、そのダンジョンマスターが倒されると、そのダンジョンは力を失い、
モンスターが出てこなくなって、普通の洞窟になってしまうんだそうだ。
ダンジョンコアは普通の魔結晶よりも遥かに高い金額で取引される為、
それを狙ってダンジョンに潜る冒険者も多いんだそうだ。
要するに、私達がダンジョンに挑んでる間に、別の人がダンジョンを攻略してしまった
と言う事だ。
そして、そのダンジョンを攻略した人は、今、私達と一緒に馬車に乗っている。
「それでだ!俺の必殺剣がゴーレムの右腕を吹っ飛ばして……」
私達に冒険譚を話してくれてる人がその人だ。
彼の名前はジャンゴ。ボサボサの茶髪をした若い青年だ。
私とリーナがダンジョンを攻略したのはどんな人なのか喋ってたら
話に横入りしてきて、現在に至る。
どうやら彼は修行の一環として、色々な所に冒険して回っているらしい。
私達2人でも苦労したダンジョンを1人で突破したあたり、腕は確かだろう。
実際彼をよく観てみると、かなり強い魔力を持っていてた。
私はリーナよりも強い魔力を持っているが、彼はそれよりも更に強い。
これならあのダンジョンを1人で突破できるのも納得できる。
ちなみにこの技術は2ヵ月間ダンジョンに潜って会得した技の1つで、
相手の魔力の強さを光のように感じ取る事ができる。
魔力が強ければ強いほど、その光は強く、眩しく感じ取れる。
相手の力量をある程度把握できるこの技は、ダンジョンでの特訓で非常にお世話になった。
「それにしても1人でダンジョン攻略なんて大変でしょ。荷物とか」
「確かに、ジャンゴさんのバッグってそんな大きくないですよね」
彼が持っているバッグは私のリュックよりも小さいものだ。
食料でも詰め込んだらすぐ一杯になってしまうだろう。
「ああ、その点は大丈夫だ。このバッグは時空魔法のエンチャントをしてるからな」
「時空魔法?エンチャント??」
「なんだ、時空魔法もエンチャントも知らないのか?
まああんな田舎なら知らなくても仕方ないか。
まず時空魔法ってのは、文字通り時空を操る事ができる魔法属性の事だ」
「魔法属性って、火、水、風、土、光、闇、無の7つなんじゃ」
「実際はそれに時空属性を加えた8つだ
ただ、時空属性に適正を持つ人は誰も居ないから、省略される事も多いんだ」
「誰も居ない?じゃあ誰も使えないって事?」
「いや、適正が居ないってのは、あくまで魔法陣無しで使える人が居ないって事だ。
魔法陣を使えば時空魔法を使う事ができる。
そして、武器や道具に魔法陣を描いて魔法の効力を維持する事をエンチャントと呼ぶんだ」
私は改めてジャンゴのバッグを見てみる。
最初はわからなかったが、よく見てみると確かに魔力で不思議な模様が
びっしりと描かれていた。
恐らくあれが時空魔法の魔法陣なんだろう。
「つまり、ジャンゴのバッグには時空魔法のエンチャントがかかっていて
中の空間が広がっている……と?」
「ああ。実際に見たほうが早いな」
そう言うとジャンゴは鞄を開けて中を見せてくれた。
「……凄い」
その中は見た目の大きさからは想像できないぐらい広い空間が広がっていた。
確かにこれなら十分色々な物が入るだろう。
まさかこの世界にそんな便利な物があるとは思わなかった。
今まではモンスターを1匹狩ったらギルドに戻って売って、
またモンスターを狩りに行くと言うのを繰り返していたが、正直言って面倒だった。
これがあればそれも解決できるかもしれない。
「時空魔法がエンチャントされたバッグって、どこに行けば手に入るんだ?」
「エンチャントされてる物自体は売られていない。
エンチャント屋って所にバッグを持って行って、エンチャントしてもらうんだ」
「なるほど……エンチャント屋ってセントラル王都にあるかな?」
「もちろん!俺もセントラル王都のエンチャント屋でエンチャントしてもらったからな。
ただ、高いぞ?」
「どのぐらいかかりそう?」
「そうだな、広げるサイズにもよるけれど、俺のバッグぐらいで120万ガルだ」
「なるほど……確かに高いな」
とは言え、今の私達には盗賊ジードの懸賞金と、キラーベアの懸賞金、
そして2ヵ月間ダンジョンで集め続けた魔結晶、
更にそのダンジョンで死んだ冒険者の荷物を売った代金がある為、
相当な額のお金を持っている。
多少冬服を買うために使ったけれど、おそらく十分買えるだけのお金はあるだろう。
「まあ確かに高いけど、その分便利だからな。
上級冒険者ならみんな持ってるって話だぞ」
「そうだね。街に付いたらエンチャントして貰う事にするよ」
そんな話をしながら馬車の旅を楽しんだ。