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第2話「魔法の存在」

あれからどれぐらい経っただろうか。

彼女の泣き声は聞こえなくなったが、それでも彼女は悲しそうに俯いたままだ。


「ねぇ……悲しいのはわかるけど、いつまでもここに居ると危ないよ」


ミサキはそっと彼女に声をかける。

彼女の辛さは痛いほど伝わってきた。下手に何かをしても逆効果になってしまうと思い

今までそっと見守ってきた。

しかし、ここは大きな山では無いとは言え、流石にそろそろ動かないと

ふもとに付くころには夜になってしまう。


「……そうですね」


彼女はゆっくりと起き上がる。


「……もう大丈夫?」

「……はい、泣くだけ泣いたので」


彼女は涙をぬぐうとしっかりした表情を私に見せる。

両親が死んでまだ数時間だ。悲しくなくなったわけがない。きっと空元気だろう。

それでもミサキに迷惑をかけまいと気丈に振る舞っている。

……強い子だ。


「とにかく今は山を下りよう。歩ける?」

「はい。あ、少し待ってください」


彼女はそう言うと、彼女の父親の死体から革の袋を、

母親の死体から先端に宝石の付いた杖を取って来た。


「パパ……ママ……安らかに眠ってください……」


そして彼女は小さく、ささやくようにそう言った。


「お待たせしました。それでは行きましょうか」

「……うん」


ミサキは彼女の手を取ると、この山を降り始めた。


◇◆◇◆◇


山下りは難航した。

なにせ道も無い、木々の生い茂った所を歩くのだ。歩き辛いに決まっている。

それでもミサキは何度も登山を行ったことがある為、体力はあるし、下山も慣れている。

しかし彼女はそうではない。登山に慣れていないし、体格だってミサキより小さい。

そんな彼女に合わせると、ペースは非常にゆっくりになっていった。

おまけに今は夏だ。定期的に水分を補給しないと熱中症にかかってしまう。

その為、ミサキは彼女を気遣い何度も休憩を挟み、その度に水筒の水を彼女に飲ませた。

そうやってゆっくりと、ゆっくりと山を下りた為、

道のある所に辿り着いたときにはすっかり日が暮れてしまった。


「よかった、道に出た」


彼女の歩きに合わせてゆっくり歩いていた事を差し引いても。まさか道のある所に

辿り着くまでここまで時間がかかるとは思わなかった。


ぐぅぅぅぅぅ


彼女の方からお腹が鳴る音が聞こえる。


「あっ……」


彼女が恥ずかしそうにお腹を押さえ、顔を赤らめる。

でも無理はない。彼女達はもう何時間も歩き続けている。

その間に何度か水分補給はしたけれど、食事は一切してない。

道のある所まで来たところで気が緩んでしまったと言う所だろう。

かく言うミサキの方も空腹ですっかりくたびれていた。


「ごはんにしようか」


ミサキはそう言うと、背中のリュックからおにぎりを2つ取り出す。

本来はお昼の為に作って来たものだけど、こんな遅くに食べることになるとは思っていなかった。

多少潰れてはいるけれど、味には問題ないだろう。

ミサキはおにぎり1個を彼女に渡す。

彼女はおにぎりを受け取ると、不思議な顔をして、そのおにぎりを眺めた。


「これは……何ですか?」


どうやら彼女はおにぎりを知らないらしい。

見たところ彼女は外国人みたいだし、おにぎりは初めてなんだろうか?


「これはおにぎりって言う食べ物だよ。こうやってホイルを剥がして食べるんだ」


ミサキはホイルを剥がし、おにぎりを食べる。

中身は好物の鮭だ。空腹も相まって凄く美味しく感じる。

彼女も少し戸惑っていたが、ホイルを剥がし、意を決してかぶりつく。


「美味しい!」


そう言うと、彼女は夢中になっておにぎりを食べる。

とりあえず喜んでもらってよかった。

ミサキはおにぎりを食べつつスマホを動かす。

……ダメだ、ここまで来れば繋がるかと思ったけれど、圏外のままだ。


「珍しい魔法具を持ってるんですね」

「まほう……ぐ?」


スマホをいじってると、彼女がスマホをのぞき込み、そう話してきた。

魔法具……?何のことだろうか?もしかしてスマホの事を言ってるんだろうか?


「魔法具……って、これの事?」

「はい……違うんですか?」

「多分……違うと思う。魔法具ってどういう物なの?」

「えーと……魔法具って言うのは、魔石と言う魔力の塊を使って動かす道具の事です」

「魔石……?魔力……?まさかそれって、魔法で動いてるなんて事はないよね」


そんな馬鹿な、そんなファンタジーな物、存在するわけがない。

……でも、彼女が嘘や冗談を言ってるようには見えない。


「そうですよ。……もしかして、魔法を見た事がありません?」

「……うん」

「魔法って言うのはこんな感じです。ライト」


そう言うと、彼女は杖を掲げる。

すると杖の先の宝石が光り輝くと、その光が球体となり

杖から数センチ離れたところでピタリと止まった。

これが……魔法?

正直すぐには信じられず、杖に何か仕掛けがあるんじゃないかと思った。

しかし、じーっと見つめても、特にスイッチみたいな物は見つからなかった。

そもそもこんな時に彼女が嘘をつく理由が無し、彼女が嘘をついてるようにも見えなかった。

信じられないが、恐らく……本物だろう。


「ねえ……貴方は何者なの?どうして魔法を使えるの?」

「ええと、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はリーナ、

私はママから魔法を教えてもらったから魔法を使えるんです」

「なるほど……私は美咲俊って言うんだ」

「ミサキシュン?」

「ミサキでいいよ。それよりリーナのお母さんも魔法が使えるの?」

「はい。ママは私の憧れの魔法使いでした。でも……」


リーナは寂しそうにうつむく。


「ご、ごめん……変な事聞いちゃって」


マズい、彼女はさっき両親を事故で亡くしたばかりだと言うのに

この質問はあまりにも無神経過ぎた。


「いえ、大丈夫です」


彼女は笑顔を取り繕う。本当に強い子だ。

……しかし、彼女の事ばかり心配はしていられない。

何故ならここはミサキの知る世界とは違う、いわゆる「異世界」なのかもしれないから。

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