第23話「骨折とポーション」
顔に何か冷たい水の様な物を感じて私は目を覚ました。
そこには涙で顔をぐしゃぐしゃにしたリーナが居た。
「ごめんなざい……私の魔法が未熟なせいで、ミサキさんに大怪我を……」
……この感じ、前にもあったな。
前回は盗賊ジードに襲われた時、そして今回は……そうだ、キラーベアに襲われたんだった。
死んだかと思ったけれど、どうやら助かったらしい。
今はどこかの部屋の中に居るみたいだ。
「リーナのせいじゃないって。むしろ私は何回リーナの魔法に助けられてるか……」
私はゆっくり体を起こそうとする。
「うぐっ!」
しかし、体に鋭い痛みが走り、起き上がれない。
「リーナ……ちょっと私に回復魔法をかけてくれないかな?痛くて動けない」
私はリーナにそう頼む。しかしリーナは申し訳なさそうな顔をする。
「ごめんなさいミサキさん、今の私の力ではこれ以上傷を癒す事ができないんです」
「そ、そうなの?」
「はい……ある程度の切り傷や打撲程度なら治せるんですが、
今のミサキさんは骨が何本も折れてるらしいので……」
そうだったのか。なんとなくリーナの回復魔法は万能だと思っていたけれど
よく考えたらいくら魔法とは言えど、そこまで万能であるはずが無いか。
「目を覚ましたみたいね」
扉から入って来たのはギルドの受付嬢の人だった。
「貴方は……どうしてここに?ここはどこですか?キラーベアはどうなったんですか?」
「落ち着いて、1つずつ話しますね。ここはミチク村の宿です。
貴方がキラーベアと戦ってる所に偶然出くわした狩人達が居て、
その人達がここまで運んで来たんです」
私は最後の光景を思い出す。キラーベアに突き刺さる何本の矢。
「キラーベアを倒すなんて、凄い狩人達ですね……」
「いえ、その人達もキラーベアがかなり弱ってたからこそ倒せたと言ってました。
実際キラーベアは本来は何人も犠牲にしてやっと討伐できるぐらいのモンスターなんです。
貴方がキラーベアと戦ってくれたおかげで
誰も犠牲が出ずにキラーベアを討伐出来ました。ありがとう」
彼女はニコリと私に向かって微笑み、お礼を言った。
「ど、どういたしまして」
正直言って実感が湧かないけれど、とりあえず返事をしておいた。
「それと、大怪我をしてると聞いたから、これを持ってきたんです」
彼女は鞄から青い液体の入った瓶を取り出す。
「それはなんですか?」
「これはハイポーションです」
「ハイポーションって……要するに薬ですか?」
「はい。飲めば体力や魔力を回復して傷を癒す事ができるんです。
ただ骨折ぐらいの重症となると、普通のポーションでは効き目が無いので……」
彼女はそう言うと、瓶の蓋を開けて、私に飲ませようとする。
「そ、それって貴重な物じゃないんですか!?」
「気にしないでください。貴方が居なかったらもっと被害が甚大になってたでしょうから」
……とりあえず、ご厚意に甘えることにしよう。
骨折はきちんとした設備が整えられた病院でも、治るのに1ヵ月以上はかかる怪我だ。
リーナの治癒魔法も効かない以上、ここで断るとみんなに迷惑がかかる。
私はハイポーションを飲む。
……苦い。子供の頃に飲んだ粉末の風邪薬の様な味だ。
私は我慢してハイポーションを飲み干した。
すると体の中が暖かくなったと思うと、痛みがスッと引いてきた。
私はゆっくりと体を起こす。
さっきは痛みで動けなかったけど、今はもう痛くない。
「……これがハイポーション、凄い」
骨折と言う大怪我を一瞬で治してくれるなんて、ものすごい薬だ。
こんな薬があったら、今後の冒険も絶対に役に立つ。
「あの、ハイポーションってもっとありませんか?」
「ありますよ。よかったら何本かお譲りしましょうか?」
「いいんですか!?」
「はい。さっきも言ったように、貴方はこの村の恩人ですから」
「あ、ありがとうございます!」
「それでは後でギルドに来てください。ポーションをお渡しします」
「わかりました」
そう言って、彼女は部屋から出て行った。
「やった!あんな凄い薬が手に入るなんて」
「よかったですね。ミサキさん」
「これで大怪我しても安心だね」
「……そうですね」
リーナは少し悲しそうな顔をする。
……しまった、この言い方だと、これからも大怪我をする無茶を続けると
捉えられても仕方ない。
「……ごめん、リーナ、少し無神経だったよ。
大丈夫。あんな無茶は出来る限りしないから」
「私にもっと力があったら骨折でもなんでも治してあげるのに……」
「リーナは今でも十分役に立ってるよ。リーナのバリアが無かったら
骨折じゃ済まなかった。だからそんなに自分の事をダメって思わないで」
私はリーナをぎゅっと抱きしめる。
「ミサキさん……ありがとうございます」
そう言うと、リーナはいつもの笑顔を私に向けてくれた。