第14話「獲物と新調」
今日は宿で朝食を取った後、この村を散歩していた。
改めてこの村は建物の数より畑の方が多い、特に見るようなものが無い田舎町だった。
「やっぱり何も無い所ですね」
「退屈?」
「ううん、私はミサキさんと一緒に居るだけで十分楽しいです」
「そう?ありがとう」
リーナは笑顔でそう言った。
ミサキは嬉しいけれど、恥ずかしいのか、少し頬を赤らめていた。
「ミサキさんはどうですか?退屈じゃないですか?」
「私もリーナと一緒に居るのは楽しいよ。
それに、偶にはこういう所も風情があって良いと思うな」
ミサキは現代都市みたいに建物が所狭しと並んでいる世界も便利で好きだけど
こういう何もないような世界も解放感があり、好きだった。
少し村を歩いていると、前から男の人達が荷台を運んで来た。
荷台の上には人の倍はありそうな巨大なイノシシが横たわっていて、
それを1人が前から引っ張り、後ろから2人で押して運んでいた。
「こんにちは」
前で荷台を引っ張っていた男の人がミサキ達に挨拶をしてきた。
「こんにちは」
「こんにちは」
ミサキ達も挨拶を返す
「……大きなイノシシですね」
「そうだろう。コイツはワイルドボアって言うクレン山に住み着いている大イノシシさ」
「クレン山?」
「クレン山ってのは、この近くにある山の事だな」
男の人は向こうにある山を指さした。
ここには視界を遮るようなものが何もないので、いつも視界に入っていた山だ。
「なるほど。ワイルドボアってやっぱり強いですか?」
「そりゃ強いな。よほど鍛えた人じゃなきゃ真正面からは戦えねぇ。
遠くから弓矢で弱らせて仕留める。これが基本だ」
「なるほど……ワイルドボアって高く売れますか?」
「そりゃ毛皮も肉も使えるから高く売れるが、ひょっとしてお嬢ちゃん達、冒険者か?」
「あ、はい。そうです」
「やっぱりな。だったらクレン山のモンスターは高く売れるぞ。
もちろんワイルドボアもな」
「そうですか。ありがとうございます」
「ただ、クレン山のモンスターはどれも強いから注意しな」
「わかりました」
そんな会話を交わし、ミサキ達は男の人達と別れた。
「そっか、クレン山のモンスターは強いのか……」
「そうみたいですね」
「そうだ、武器を新調してみるのもいいかもしれない。今はお金もあるし」
「新調ですか……」
リーナは少し思いつめた顔をする。
「……リーナはその杖の方がいい?」
「……はい、ごめんなさい」
リーナの杖は母親の形見だ。そう簡単に手放す事は出来ないんだろう。
「大丈夫。その杖はリーナにとって大事な物だって事はわかってるから。
じゃあ私のナイフだけ買いに行こう?」
「……はい!」
ミサキ達は1度、お金を引き出すためにギルドに戻り、武器屋に向かった。
しかし……
「ここがミチク村の武器屋か……」
「なんかかなり小さいですね……」
ミチク村の武器屋はサーショ街のと比べて一回りも二回りも小さかった。
中に入ってみるとやはり狭い。
そして扱っている武器に偏りがあり、弓矢は色々な物が売っているが、
杖は全く売られていなかった。
リーナは杖を新調をする気はなかったのでそこは問題では無かったが、
肝心のナイフも種類が少なく、高いのでも5万ガル程度と、
今持っているのよりも安いものしかなかった。
流石に今のナイフがまだ使えるのに、今のより安いナイフを買っても仕方がない。
弓矢に関しても、ミサキ達は全く使ったことが無い。
そんな不慣れな武器を使うよりは、慣れたナイフや魔法を使った方が良いだろうと判断した。
結局ミサキ達は何も買わずに武器屋を出た。
「まさかこんな品揃えが悪いとは思わなかったわ……」
「そうですね……でも、いくらクレン山のモンスターが強いって言っても
流石に盗賊ジードより強いなんて事は無いと思いますし、大丈夫ですよ」
「……そうだね」
なお、結局お金は使わなかったため、引き出した額そのままをまたギルドに預けた。