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茶トラ、ニケ、グレ

作者: 海保リコ

普通の何処にでもいるような主婦のお話しです。一番表現したかったところは、動物を飼ったときの楽しみや面白みです。


秋から冬へ移り変わるとき、寒さと共に季節の匂いも変化する。葉城勢津子は毎朝の散歩の途中で、季節がもう一段深くなろうとしているのを匂いで気づいた。

もうすぐ雪虫が飛ぶかも知らないわね、見かけると二、三日中には雪が降る小さな白い虫を思い描く。

ここ最近の長雨による気温の落差に身体がついてゆけず、今朝のピッチの散歩も迷ったが愛犬の必死な催促に重い腰を上げる。

ピッチはまだ二歳の若い雑種で、先代のプッチが老衰で亡くなり寂しくしていたところへ向かいの光野さんから、仔犬を飼わないかと話しがあった。

娘の依は大喜びで「私が全部面倒みるからお願い」と言いきっていた割には、自分の仕事が早番か、休日の夕方にしか散歩をしてくれない娘に、事あるごとに引き合いに出してはチクリチクリと嫌味を言っている。

いつにもまして引きずられるように後を小走りで着いて行き、テレビの動物番組で観た犬が飼い主より前に歩くのは、上下関係をはっきりさせる犬の性質であり、飼い主を下にみている証拠だという内容を思い出した。

意識してリードを引き近くに寄せるが、中型犬のまだまだ若く力は強い、いつのまにかまた引きづられる。


いつもの公園のベンチで一休みをしていると、草むらを向き吠えた。

「どうしたの?何かいた?」顔を近づけて聞いたその時、掴んでいたリードを離してしまう

迷わず吠えた方向に走る。

追いかけると、大きな木の下にシッポを振りお座りしていた「ダメじゃないの、逃げたら」なるたけ怖い声を作った。

ピッチの前にダンボールがあり、中では三匹の子猫がかすかな声で鳴いている。

おそらく生後二ヶ月ほどだろう、どんな事情があるにせよ、こんな寒い日に子猫を捨てるなんて、、、三匹は暖めてあうように身を寄せ合い二匹は顔を中に入れ寝ていたが、一匹は起きて頭を精一杯あげ、緑色の瞳でこちらを見ている。

まだ大きく鳴けない高い声を張り上げ、気づいて欲しいと言うように鳴いていた。

家にも猫はいるが、ノラ猫から飼い猫にした子で今も外に出たがるが、事故や病気が心配で極力外へ出さないようにしている。

家猫にむかえる時に、病院の検査時では推定5歳くらいだろうと聞いた。

飼い犬の名前はプッチ、ピッチと付けたのでパピプペポの行でいこうと家族会議で決め、パルと依が名付けた。

この寒空に子猫を置いては行けないが、一番心配なのはパルの反応だった。

プッチは元々人間でも動物でも物しおじせずに初めから懐っこい性格だが、パルはピッチに慣れるにも長く時間がかかった。

ピッチは数えきれないくらい引っ掻かれたが、めげずに遊びたい一心でかまい続け、今ではフッと気付くと一緒に寝ているほど仲良くなった。

取り敢えず病院で検査だわ、小さなダンボールをかかえ上げると、何故かピッチがまだ見たりないと言うように立ち上がり吠える。

歩こうとしても下ろせと言うように、足にじゃれ付きなかなか前へ進めない。

やはりしつけ教室に通おうかしらと思いながら、ピッチをなだめつつ家へと急いだ。

動物病院の診療時間まで時間を潰し、お世話になっている病院へと急ぐ。

一通り検査をしてもらい、感染症や寄生虫にはかかっておらずホッとする。

先生から子猫に必要なペットフードや用品を買い、注意しなければいけない点など細かく説明を受けるが、年のせいか物覚えに自信が無い。メモ用紙を頂いて一つ一つ忘れないよう書き留めた。

帰り際先生から馴染みの飼い主さんで、飼ってくれそうな人に声をかけようかと提案してくれたので心よくお願いした。

家へ戻るとプッチは玄関前に待機していたであろう速さで迎えてくれ、まとわりついてダンボールを下ろせと私を見上げる。

「ちょちょっと落ち着いて、びっくりしちゃうから吠えないでね」

娘の依にピッチへの細かい注文は伝わらないから」とからかわれるが、その度に「伝わらないとどうして分かるの?伝わるわよ」と言い返す。

ダンボールを静かに下ろすと伝わったのかピッチは吠えずに覗きこみ、鼻を動かし挨拶しようと顔を近づける。

肝心の子猫達は三匹でかたまり、頭をすっぽりと隠しているので気づいていないようだ。

飽きずにしばらく覗きこむ様子を何であんなに見たいんだろうと、私はただぼんやり眺めていた。

三匹は全員違う模様をしており、茶トラの子は他の二匹より一回り大きく長い尻尾にも綺麗にしま模様がついていた。

ニ毛の子は白地に薄いベージュの楕円模様が背中から短い尻尾にかけて雲のように繋がっている。

灰色一色の子は靴下を履いたように、足先と鼻と口の周りだけが白かった。

一番大きな茶トラでも両手にスッポリと収まる大きさで、抱き上げると手足をばたつかせ早く戻してと言うように泳ぎ空中をこいだ。


夕食の準備を終えると同時に帰宅した依と一緒に子猫を見に行く。

驚いたことにピッチは、まだダンボールに頭を突っ込み子猫を覗いていたが、依に気づき喜んで駆けて来る。

勢い良く前足でタックルするように飛んで来たが、依も慣れたもので倒れないよう両足で踏ん張り受けとめた。

ひと通りの挨拶の後、子猫へと呼んでいるように、振り向き止まってはこちらへとうながす。

「わかったよ、まて」依の一言で静止してお座りをした。

随分と私に対する態度と違う。

ピッチは確かに私の位置を自分より下に置いている。

グレを抱き上げ「小さい、手のひらに収まるね」

「その子は男の子、他の二匹は女の子だって」

「男の子だってさ」ピッチの鼻先に子猫を近づけるとシッポを大きく振り、依の手を舐めてお気に入りだと伝えているようだ。

「どうする?新聞に載せて里親募集する?」

「納津動物病院の先生がね、飼ってくれそうなかかりつけの飼い主さんに、声を掛けてくれるそうよ」「そう、チラシを作って動物病院に貼ってもらう?」

「いい案ね」依はデジカメで写真を撮り、すぐにパソコンでチラシを作ってくれた。

「三根さんとこのコンビニでも貼らせてもらったら?」

「他にも知り合いのお店に貼り紙お願いしてみるわ」

どのお店も快く引き受けてくれて後は連絡を待つだけになった。

一週間後、里親に関する連絡は無かったが、毎日のように呑んで帰った依が、子猫の面倒をみるようになると早く帰宅し、まめに子猫の世話をしている。

ピッチやパルを飼うときには見せなかった、かいがいしさに変わるものだと嬉しく思う。


一週間もすると呼び名も自然とついて、二毛と茶トラはそのままの呼び名となり、グレーの白ソックスはグレと呼んでいた。

性格もそれぞれ異なり、茶トラは大きな体にあわず臆病で小さな音にも驚き、大きな体を小さくして縮み込んだ。

ニケはよく甘える子で抱っこも嫌がらず、依の膝の上でいつのまにか寝てしまうこともあった。グレは活発に動き食欲も一番あった、ピッチにじゃれつき遊ぶようになった。


数日後、朝ご飯をあげようとゲージに近づくと扉が開けられ子猫が二匹しかいない。

子猫がカンヌキの鍵を開けられるはずもなく、私がカギをかけ忘れたのかとも考えたが、昨日鍵が何回も外れていたことを思い出した。

おそらく犯人はピッチだと思われたが、現場を押さえていないので、怒ることも出来ずにいた。

ピッチが犯人だとすると、居間いると予想をつけたが、そこには居なかった。

部屋を一つ一つ探して回る。

何処にもいない、徐々に焦りとピッチに対する苛立ちがつのる。

ほぼ小走りになり「ピッチ」と呼ぶと、すぐに吠えて答えた。唯一探していない玄関の方向だ。

玄関に着くと、お座りしているピッチの横でグレがシッポにじゃれついていた。

「何してるの」大きな怒鳴り声に驚きシッポを振るのをやめた。グレも低い姿勢になり怯えているようだ。

よくよく考えてみるとピッチは鍵を外したかも知れないが、グレが自らゲージを出たのをピッチが見つけ、見守っていただけなのかもしれない。

大声を出してしまい悪かったと、近づいて声をかけようとすると、低いうなり声をあげた。

初めて聞いたうなり声にショックを受け、すくみ後ずさる。

うなり声は収まったが、私自身のピッチに対する恐怖で動けずにいた。

目を合わせず子猫を抱き上げゲージへ戻して朝ご飯をあげる。

いつものように食後にボールや猫ジャラシで遊ばせていると、ピッチが重い足取りで居間へとやって来た。

普段は一緒に遊ぶところを通り過ぎ、寝はじめて、悲しそうにこちらを伺っている。

どうしたらいいのか分からず、しばらく様子を見ようと子猫達と遊びながら、ピッチを目の隅で追っていた。

怒っているのか上目使いでこちらを恨めしそうに見ている。

大好きな音の出るボールを子猫達に預けると、耳が動き視線はずっとボールを追っている。

目だけ動かしてはいたが、しまいには顔を上げボールの方向へと顔が動く。

遊びたい様子が見てとれ、テニスの試合を観るように動く顔が、可笑しくて声を出して笑ってしまった。

その笑い声とほぼ同時にピッチはボールへ飛びついた。

子猫三匹を踏まないよう大きな体を遠慮がちに動かし遊ぶ姿に「ごめんね、大声出して」と頭を撫で謝ると、仲直りだよと言うように手をなめてくれた。

数日後に納津動物病院から連絡があり、子猫の里親になりたい人が現れたとの電話だった。

早速その日の午後には家へ訪ねて来てくれた。

定年退職したばかりのご夫婦で、家にも猫が一匹いるが丁度もう一匹飼いたいと考えていたところに先生からお話しを貰ったそうだ。

以前は猫と犬どちらも飼っていたと聞いて安心する。

ピッチも構ってもらい喜んでいたが、子猫のゲージへ向おうとすると、邪魔するように前へ前へと行き先をふさぐようにじゃれつく。

しまいにはゲージ前にお座りをして、扉を開かないようにしてしまった。

「どけてくれる?」と声をかけてもどかない。

ご主人が「子猫を守っているみたいだね」と笑いながら言ってくれたからいいようなものの、冷や汗が出た。

どうにかピッチをどかして、やっと子猫を見てもらえた。

「この子家のカスケに似てるわね」奥さんが茶トラを抱き上げて「目の色まで一緒だわ、見分けがつかなくなっちゃうわね」ご主人はニケを膝の上に乗せて「この子は大人しいですね」

「一番甘えますね、抱っこも好きでよく膝で寝てしまいます」

奥さんがグレに手を伸ばそうとするとピッチが吠えた「何か訴えてるのかしら?」手を止めてじっとピッチを見つめると鳴き止む。

グレを抱き上げ「靴下はいてるみたいで可愛い」と膝に置こうとしたが、グレは動いて嫌がる様子を見せた。

「嫌われたかな」少し残念そうにゲージの中へ戻す。

ご主人に目をやるとニケは、すっかり落ち着き目を細めて今にも寝そうになっていた。

お二人は相談して懐いてくれたニケの里親になることを決めてくれた。

帰り際また邪魔するのではないかとハラハラしたが、行き先を塞いだりはせずに悲しげな声で鳴いただけだった。

ご夫婦は「ごめんね」と謝り、何度もピッチの頭を撫でて帰って行った。

次に引き取りたいと連絡があったのは、小学四年生の男の子とご夫婦の三人家族。

コンビニでチラシを見た男の子が両親を説得して、とりあえず子猫を見てから決めようと訪ねてくれた。

男の子がピッチを怖がったのと先日の妨害した行動から、別の部屋のゲージに入れる。

今まで大人しくお父さんとお母さんの後ろに隠れて、小さくボソボソと話していたのが嘘のように子猫を見つけると駆け出し、ゲージの前でしばらく見ていたが触ろうとはしない。

「抱っこしてみる?」と私が聞くと戸惑い困ったようにお母さんの顔を見た。

「この子は動物が好きなんですが、先程犬を怖がったように、あまり触れたことがありません。子猫も少し怖いの?」

「怖くはないけど、どうしたらいいのか分からなくて」私は活発なグレではなく、茶トラを抱き上げ「背中からお尻を片手で包むようにして、もう片手は前足に近いお腹の辺りに置くと子猫もバランスがいいから落ち着くかな」

男の子を座らせ膝の上に茶トラを置くと最初はおっかなびっくり抱いていたが、徐々に慣れてきたのか嬉しそうに子猫を見つめている。

茶トラも目を閉じゴロゴロと甘えた声を出していた。「グレーの子猫も抱っこしてみたら?」

そうお母さんが言ったので、グレを抱き上げようとすると「僕この子がいい、なんだか大人しくなついてくれているし」男の子の意見が通り、すぐに茶トラに決まった。

男の子家族が帰り、ピッチを部屋に入れると、グレ一匹しか居ないゲージの周りを茶トラを探すように歩き廻る姿が可哀想で見ていられない。

グレは家で飼おうかとも思い始めたが、子猫に一切近づこうとしないパルが心配だ。

夕方、依が帰宅したので茶トラと男の子のいきさつを話す。

「ゴロゴロが出たんだ、相性がいいのかもね」

「そうね、帰ってからピッチが一時間くらい茶トラを探してるみたいで可哀想になっちゃって」依は考え込み「グレは家で飼う?」

「私もそう思ったけど、パルが子猫がいると部屋に入ろうとしないのよ」

「ピッチの時もそうだったじゃない、時間かけたら慣れると思うよ」ピッチの時のように上手くいくといいけど、時間がたてば解決するだろうか?

ピッチとグレがボールで遊ぶところをボーっと眺めていると、こちらへボールが転がってきた。拾って追ってきたピッチに渡そうとしたが、ふざけてピッチがくわえたボールを離さずにいるとまた唸った。

すぐに依が静止して、それ程大きな声ではないがはっきり「いけない」と強い口調で怒った。

ピッチはすぐにボールから口を外し耳をたたんで反省したように伏せをした。

「依の言うことは聞くのよね」

「はっきりと短い言葉じゃないとピッチには伝わらないよ、特に他の人や動物を傷つける恐れのある場合はきつく止めないと、後々ピッチ自身が辛くなる」

グレがピッチにじゃれついているが、ピッチは依を見続け反省の姿勢を崩さない。

依はしばらく本を読み、ピッチと目を合わせないまま三十分が過ぎた頃、立ち上がり伏せをしたままのピッチへと「散歩に行こう」言った。

お許しが出て喜び、急いで玄関からリードをくわえ戻って来た。

依の前でお座りをしているピッチを指差し「お母さんリード取って」すぐには理解できずに驚いたが「ピッチ、リードを取るね」と横から声をかけ、ゆっくりとくわえているリードを取る

一瞬目が合ったが怒らず、すんなり離した。

リードを付けてあげてから依へと渡す。

「ありがとうね、いってらっしゃい」

「夕食さ、犬のしつけ教室授業料として大量のコロッケね、行ってきます」

じゃがいも大量にあるかしら、記憶を辿りながら台所へと向かった。


子猫の里親探しを中心に考えていましたが、書き進めていくうちに、主人公の主婦が犬のしつけが上手くいかないのを解決して、どうにか犬に認めてもらうようにしたいと思いました。

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