コイン2枚の温かさ
時々、都内の駅構内や地下街で見かける「3 coins」という店。
この店を見かけると思い出すことがある。
私にとっては、「3」ではなく「2」coinsが懐かしくて暖かい響きを持つ。
学生時代、まだ携帯電話が、ほんの一部の限られた人達にしか持てない時代だった。
携帯の厚さが5センチはあり、契約預かり金が10万円ほど、月の基本料金は1万5千円ほどだった。
駅にはズラリと公衆電話が並び、特に夕方以降は、それぞれの電話の前に人々が列をなしていた。
私は、どんな用件かは忘れたが、たぶんアルバイト先に報告の連絡をするつもりだったのかと思う。
あと2人で、私の順番になる。
私は、鞄から財布を出して10円玉を出そうとしたが、10円も100円も入っていなかった。
後ろの方の方を向き、理由を話して50円玉を10円5枚と両替してもらおうとお願いをした。
その方は、若いサラリーマンかと思われる。
スーツ姿で、ポケットに手を入れて、ガムをクチャクチャさせていた。
私が説明してる間、貧乏ゆすりをしていたのも覚えている。
”無理そう・・・。”
でも、もう振り返ってしまい、どうしようと。ばつが悪い。
頭を下げて去るしかない・・・。
その方の手が動き、差し出した50円玉を持った私の手をグイと私側に押して、掌に10円玉を2枚のせてくれた。
”50円は、不要ですよ。”、と気がつくまでに時間がかかり、私はハッとして50円を渡そうとすると、男性は首を振る。
お礼を言って順番を待った。
1枚でなく、2枚・・・思わず、ぎゅっと握ったような記憶がある。
感謝の気持ちで一杯だった。
そして、とても驚いた。
1枚でなく、2枚。
私が電話をする時に、3分間で話が終わらないかもしれない。(当時、3分間で10円)
慌てて、電話番号を間違えてかけ直してもいいようにと。
きっと、そんな理由なんだと思う。
短い時間で咄嗟にそんなことを考えて下さったのだ。
私なら、思いつかないだろう。
終始無言で、面倒な顔をされていたのは、夕方で仕事に疲れていたのでしょう。
人は見かけでは、わからない。
私は30年近く経った今でも、あの時の、あの方の温かさが忘れないでいる。