表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お仕事は繁殖させる事?  作者: 鹿熊織座らむ男爵
第二章 おまけ
44/54

イヴァンとメルの結婚

 本日は待ちに待ったイヴァンとメルの結婚式。

 途中何度か待ちきれなくなったイヴァンがメルを攫ってしまおうとしていたが、その都度アマデウスや即位したホルンが阻止し、無事この日を迎える事が出来た。


「旦那様! 見て下さいまし!」


 式までの間、イヴァンが教会の新郎控え室で待機していると、これまた色々と待ちきれなかったメルがドレスの裾を掴み控え室に飛び込んで来た。


「メル……ようやくイヴァンさんがメルの部屋に行きたがるのを食い止めた所でしたのに。母上にザミラさん、メルをしっかり押さえていて下さいと……」

「押さえていたのだけど、一度二人を会わせておかないと式の最中に暴走しそうだったんですもの」


 ホルンは椅子から立ち上がろうとするイヴァンに半ば乗っかるように押さえ付け、ついでに目を塞ぐ。

 見るからに疲労困憊なホルンに比べ、イレーネはあっけらかんと相変わらずの笑顔でメルの背中を押すと、レオを抱えたまま自身はアマデウスの元に。


「アマデウス様……本日の正装、素敵ですわ」

「イレーネこそ素敵だ。昔と変わらず美しい」


 扉を入ってすぐの所で肩で息をし四つん這いになっているザミラをよそに、イレーネとアマデウスは二人の世界に突入。

 そしてイヴァンを取り押さえていたホルンはメルに投げ飛ばされ、ザミラを巻き込み部屋の外まで転がって行った。


「おー凄いなメル。もう式なんて止めようぜ? メルのこの姿見たら第二第三の師団長が乱入して来そうだし、俺が人に見せたくない」


 どっかりと自身の膝の上に座ったメルを見た瞬間、真顔で当たり前の様にさらりとイヴァンが呟き、メルにの頬を撫でる。

 メルはそれだけで言葉を失い、既に泣きそうになっている。


「息をするように口説いてますね、イヴァンさん……」

「ホルンさん重いよどいてぇ……」


 部屋の中ではそれぞれ甘い雰囲気になっていると言うのに、何故か最高権力者とその婚約者は廊下でもみくちゃになっている。

 ザミラに言われようやく体を起こしたホルンは、乱れた髪を煩わしそうに直すと、自身の下敷きになっていたザミラに手を伸ばし硬直。

 そして無意識にホルンの手を取ったザミラは、硬直したホルンを見て同じく硬直。


「……ホルンさん?」


 手を取ったもののどうすべきか。起き上がろうにもホルンの体が絶妙に邪魔をし起き上がれそうに無い。

 するとゆっくりと再起動したホルンは、何故かザミラの手を放す。

 ザミラが自身の手に視線を落とした瞬間、ホルンは勢い良くザミラの頭を抱え込んだ。


「ぶふっ! ホル――」

「すみません、その姿を見たらどうにも耐えられなくなりまして……」


 男性陣全員が、着飾った愛しい人の姿を見たら耐えられなくなった様だ。

 薄ら笑いを浮かべされるがままになっているザミラだが、廊下に居る為周りの目が気になってしょうが無い。

 しかし部屋の中で完全に周りが見えなくなっている二組とは違い、ただザミラを抱き締めるだけのホルンはまだ周りが見えているらしい。

 そしてザミラの羞恥心がピークに達し始めた時、ようやく時間になった。


 そして式は問題なく進んで行き、厳かな雰囲気の中、誓いの口づけとなった時、しっかりと閉ざしてあった重厚な教会の扉が轟音と共に内側に向かい吹き飛んだ。

 しかし、式の参列者達は過去の経験から然程驚く事も無く、音がしてすぐ立ち上がると、当たり前のように壁側により始める。

 扉を破壊し入って来たのはもはやお馴染みの人物、ライアンだった。


「しつこいな。お前はそう言う登場の仕方しか出来ないのかよ?」


 イヴァンはこれ見よがしにメルの腰を抱き寄せる。

 凍り付く司教を無視し、ライアンはゆっくりとごすっごすっと重い足音をたて二人ににじり寄っていく。


「今日は……二人を祝おうと……」

「そうか、それはどうも。わざわざ扉を破壊しなくても普通に祝ってくれれば良いだろ? ホルンの仕事増やすんじゃねぇよ」


 ホルンは先日即位し国王になったが、仕事の内容は大きく変わってはいない。

 その為、今イヴァンが言った通り、教会の修繕の手配やらはホルンの仕事となる。

 ザミラは薄ら笑いを浮かべ隣に立つホルンに視線を向けると、ホルンは見事な笑顔を顔に貼り付けてはいるが、髪に隠れたこめかみにはくっきりと青筋がたっているのが確認出来た。

 何故か人の結婚式で疲労困憊のザミラはため息をつき俯くと、その直後ぴくりと体を震わせ、それに気付いたのかホルンが視線を落とす。


「ホルンさん……。イヴァン、手袋の下に指輪つけてました?」

「え? えーと、確か今日はつけていないはずです」

 

 その答えを聞いたザミラは一瞬にして青ざめると、わたわたと慌てだす。

 しかしそんなザミラの様子など気にもしていないライアンは、一歩イヴァンに近付くと再び口を開く。


「純粋に祝おうと思って来たんだが、メルティーナ様のそのお姿を見るとまだ未練が……だから」


 そこで一度区切ったライアンは、ぐっと大きく一歩踏み出す。


「山猿てめぇ! 一発殴らせ――」

「しつけぇつってんだろぉぉがぁぁあ!!」

 

 殴らせろと叫び踏み込んだライアンの手にはしっかりと剣が握られ、思い切り斬りかかっていた。

 だがイヴァンはそれを見越していたのか、はたまた我慢の限界だったのか、ライアンの言葉を最後まで聞く事無く、剣を蹴り砕くと、そのままライアンの腹に足をめり込ませ思い切り蹴り飛ばした。

 蹴りが見事に腹に炸裂したライアンは、体をくの字に曲げ真っ直ぐに教会の外に吹っ飛び、外の柱にめり込んで止まった。

 以前、ライアンがテラリウムで暴れ近衛兵達を吹き飛ばした時でさえ、近衛兵達は弓なりに弧を描き飛んで行ったと言うのに、イヴァンに吹き飛ばされたライアンは、まるで糸か何かで引っ張られた様に真っ直ぐ吹き飛んで行った。

 流石にこの状況には参列者も唖然とするが、ザミラのみ右足の脛を抱えその場で悶絶している。

 

「ザミラさん……えっと、大丈夫ですか?」

「イヴァンが……キレるの……久し振りだったから……すっかり忘れてた……。あの脚力で蹴ったら……はははっ……ふえぇぇん……」

 

 ザミラ曰く、ライアンの姿を見た瞬間イヴァンはブチ切れたらしいが、ライアンが仕掛けてくるまでは冷静さを取り戻そうとしていたらしい。

 しかしそんな必死な努力も、怒らせたライアン本人が水の泡にした。

 静まりかえった式場内。

 イヴァンは大きなため息をつくと、一歩後ろで目を丸くしているメルを引き寄せると、そのまま横抱きにする。

 その体勢のまましばらく司教の顔を見つめ考えていたイヴァンだったが、ふと思い出したように顔を綻ばせばせると、メルに口づけを落とす。

 

「これでもうメルは俺のものって事で良いのかな?」


 未だ固まったままの司教とメルを交互に見つめるイヴァン。


「お、おめでとー二人とも! お幸せに! メル可愛いよー!! ほら、ホルンさんも……」

「おおおめでとうございます、お二人とも! イヴァンさん、メルをよろしくお願いしますね!」


 ザミラとホルンが無理矢理場を盛り上げようと声を上げ拍手を送ると、ようやく参列者と司教は我に返ったのか、銘々顔を綻ばせばせると大きな拍手を二人に送った。

 司教に促されるようにメルを抱えたイヴァンは会場を後にする。

 外ではライアンが柱の一部となっていたが、今そんな事を気にする人は居ない。


「はあ、半年も待てませんよ……」

「ホルンさん、苦しい……」

「あら、駄目よホルファティウス。貴方の場合は国内外から人が集まるのよ? 半年でも異例だわ」


 二人の幸せそうな姿に当てられたのか、ホルンはザミラを後ろから抱き締め頭に鼻を埋める。

 しかしころころと笑いながらイレーネはため息をつくホルンの背中を撫でる。

 

「半年後など、私達の結婚よりメルの懐妊で盛り上がっている時期でしょう、きっと。司教様、私達も今では駄目ですか?」

「陛下の式は本部の枢機卿が立ち会いをする事になっておりますので、私では……」

「ホルンさん、司教様もの凄く困ってるから。おーさま相手に【私では手に余ります】って言えずに困ってるから。それに半年位すぐだよー。王妃様になって身動きとれなくなる前にやりたい事いっぱいあるし、今のうちにいっぱい遊んでおきましょ?」


 ザミラは顔を上げ上目遣いで頭上のホルンを見つめる。

 ぐっとくぐもった呻き声を上げたホルンは、ザミラの頭を抱え込み、泣きそうな顔でアマデウスに視線を移す。


「生殺し……ですな。もうこれは試練と思い我慢しましょう……」


 ホルンの気持ちが痛い程分かるアマデウスは、悲痛な表情を浮かべるホルンに耐えきれなくなったのか、すっと視線を反らすとイレーネと司教を連れ行ってしまった。

 

「……イヴァンさんを時期師団長に任命し、半年間僻地の警備に飛ばしましょうか……。そうすれば少なからず抜け駆けは……」

「止めておこう? 戦争になる……。はぁ……。ホルン陛下、半年かけてしっかり準備して、完璧な状態で私を迎えて下さいね?」


 ザミラは振り返り駄々っ子に言い聞かせるようにゆっくり告げると、そのまま背伸びをしホルンの頬に口づけをする。

 ザミラは背伸びをしても届かず、ホルンをぐいっと引っ張ってようやく頬の下、顎のあたりに届いた。

 ザミラの思惑では、これでホルンが固まっている隙にイヴァンとメルのところに行こうとしていたのだが、予想が外れホルンはがっしりとザミラを抱え込んだ。


「わっ、ん――……!」


 ぐいっと顔を持ち上げられたザミラは、些か乱暴に唇を奪われ、自身が硬直するはめに。


「ザミラさんそれ、逆効果です。折角結婚するまで唇は我慢と思っていたのに……。煽らないで下さい」


 再び唇をふさがれザミラは慌てふためく。

 イヴァンとメルの仲睦まじい姿に煽られたのか、会場の至る所で口づけを交わす人が続出。

 先王妃のイレーネと元夫のアマデウスは、立場上どうにか耐えているようだが、少しでも気を緩めればよりが戻ってしまいそうな危険な状態。

 そんな状況を知ってか知らずか、本日の主役の二人は堂々と仲睦まじい姿を見せ付けている。

イレーネが居るのに先王が居ないのは、作者の力量的に人数がもう限界だったからだけです←

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ