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「何だよ、石喰い鳥って名前だけで普通の鳥と変わらないのか」

「そう、しかも繁殖期は春先で微妙に過ぎちゃってたんだよねー。でもそのお陰で何個か卵は持ち帰れたよ」

 

 ザミラが王宮に戻った翌日。

 スレイプニルに加え四頭の石喰い鳥が並ぶ厩は、それは色とりどりな見るも鮮やかな見た目をしていた。

 石喰い鳥の卵を一つずつ抱えたイヴァンとザミラは、魔術師が即席で作った孵卵機に卵をセットしながらお互いに情報を交換して行く。

 ザミラが不在だった間に判明した事。それはマーサの共犯者。

 以前魔術師長はマーサに魔術師の共犯者がいると言っていたが、それは正解であった。

 そしてその共犯者は、レイスコット家の執事。

 そう、あのライアンの家に仕える執事がマーサに魔術師を紹介し、当日の計画を企てたとの事。

 ライアンの謹慎処分に納得がいっていなかった主思いの執事は、どこからかマーサの複雑な境遇と恋心を聞きつけ唆し、犯行に及んだ。

 紹介した魔術師は懸念されていた王宮関係者でもなんでも無く、他国からの流れ者ではあったが、他国の者が国王の生誕祭で行った行為は国際問題となり、現在はその魔術師の国籍の調査を行っているとの事。

 そしてレイスコット家の執事はマーサと同じ処分、辺境の牢へと幽閉され、その家族は国外追放となった。

 二度も関係者が問題を起したレイスコット家は落ち目になり、一部から爵位剥奪の声が上がったが、レイスコット家の人間は関与していないのと、ライアンが謹慎中だと言う事もあり、今回の件はライアンの謹慎期間の延長と言う事で纏まった。

 そしてフィンでザミラを攫った二人は、イヴァンとザミラがマンドレイクを卸していた偽医者の仲間であった。

 まだ他にも関係者がいるかもしれないと、その二人から残りの仲間や密売経路等情報を引っ張る予定らしいのだが、事情聴取に顔を出したホルンを見て面白い程絶句していたのだと言う。

 しかも密売経路の下見の為、生誕祭の一般解放に参加し、実際にホルンを見ていたというのに、フィンで会った時は全くその本人とは気付いていなかったらしい。

 さすがにホルンが笑い話の様にそう告げてきた時は、イヴァンは思い切り腹を抱えて笑い転げたらしい。

 お互い笑い話のように知っている情報を共有していると、どこかぐったりした様子のホルンが王宮から歩いてくるのが見えた。


「なんだよホルン、また寝不足なのか?」


 昨日までは行方知れずのザミラが心配で不眠だったが、何故か一夜明けた今日も、ぐったりとお疲れのご様子。

 ホルンは乾いた笑いを二人に向け、そのまま持っていた資料に視線を落とす。


「睡眠は十分なのですが、ランス公爵にくどくどと小言を言われて来た所です。ついでに国王とも話をして来ましたし……」


 ため息をつきぐったりと肩を落とす。

 朝から養子縁組の申請でランスは王宮に来ていたのだが、その際一ヶ月も何をしていたのだとくどくどと小言を言われたらしい。

 話が長くなるからとザミラは署名後すぐに解放されたのだが、ザミラが解放されてからホルンが厩に来るまで、おおよそ二刻程は経っていた。

 ただでさえランスの件で満身創痍だと言うのに、更にその後国王に謁見するし気力までも使い切って来たとの事。


「あのクソ親父、呆れて突っぱねるかと思っていたのですが、王位を継ぐと告げたらまあ、二つ返事でしたよ。それどころかもうすぐにでも引退したいと宣ってましたね。全く、本当は国王と現王妃の血を受け継ぐレオが継ぐのが一番なのですが、そうも言ってられませんし」


 国王と謁見して来た後だからか、異様に今のホルンは口が悪い。

 不満そうに細めた目で王宮を見上げるホルンと、引き攣った笑顔のザミラを眺めていたイヴァンは、ふと思い出したように口を開く。


「で? 戴冠式はいつするんだ? ついでに結婚式も。俺とメルの式は二ヶ月後位らしいが、戴冠式で忙しいようならずらすぞ?」

「イヴァン、多分イヴァンの結婚式はずらせないよ……? 言いくるめる自信ある? 伯爵と王妃様とメル……」


 ふっと三人の顔を思い出したのか、イヴァンは見るからに顔をしかめると薄ら笑いを浮かべ首を横に振る。

 全員が同じ様な事を思ったのか、全員微妙な表情になる。


「正直、戴冠式はいつでも良いんですよ。それこそ国王が本気で今すぐ隠居したいと言い張ったら明日にでもとなります。それによって式も変わってきますし、まだ先程国王に言ったばかりですのでなんとも。詳細が決まるまで石喰い鳥をーと、言いたい所なのですが、もう鉱山の方から待ちきれないとの連絡があり、これから四頭とも引き取りに来るそうです」

「えー、連れて来たばかりなのにー」

 

 まだ王宮に来たばかりだと言うのに、石喰い鳥は早々に仕事をしなければならないらしい。

 繁殖もしっかりした躾もこれからだという時に。

 むすっと膨れっ面のザミラの頭をイヴァンががしがしと撫でなだめるも、未だに不満そうに口を尖らせたままだ。

 

「まぁ、卵もあるし今年は良いんじゃないか? 鉱石を掘り出す効率も上げないと、運び手だけ大量に増やしてもしょうがないだろう。それに繁殖期も過ぎちまったし」

「魔物も動物も、人間みたいに一年中繁殖期なら良いのに」


 ぐっと言葉を詰まらせた男二人に気付かないザミラは、むすっとしたまま石喰い鳥の背中をぽんぽんと撫でている。

 しかし、そんな様子を客観的に見ていた石喰い鳥は状況が分かったのか、イヴァンとホルンを励ますように恐る恐る頭を摺り寄せ始めた。

 

「当初の目的は達成出来そうですので良しとしましょうか。それに、ザミラさんにお願いしたい事はまだまだありますよ? 商隊の護衛獣と国境警備に街の警備要員。後、農村に耕作用の魔獣も導入して行きたいですし、安心安全最速に海を渡れる海獣の捕獲と空路の――」

「待って待って、途方も無い……! 何年かかるのそれ!?」


 指折り数えながら真顔でさらりと言うホルンにたまらずザミラがつっこみを入れるが、ザミラに視線を向けたホルンは、再びさらりとさも当たり前と言った表情で口を開く。


「今後ザミラさんは王宮に監禁予定ですので、たっぷりと時間はありますよ?」


 するとイヴァンはザミラにそっと耳打ちする。


「……ザミラお前、一番厄介な相手に掴まった挙句、がっつり怒らせてんじゃねぇかよ。せめて機嫌とっておけよ……」

「いや、ね……。機嫌とって色々回避したいのは山々なんだけどー……。私の意見はもう聞き入れて貰えないと言うか、少しでも抵抗するとホルンさんに酷い事される、らしい?」

 

 イヴァンが眉根を寄せホルンに視線を移すと、ホルンは満面の笑みでザミラを引き寄せると、そのままそっとザミラの口に手をあてる。

 昨日ホルンが伝えた事の真意をザミラは理解していないらしく、これ以上余計な事を言われる前にホルンはその口を塞いでしまった。

 じっとりとホルンの顔を眺めていたイヴァンだが、そのまま無言でそっと指輪をはめ直したあたり、ホルンの意図を正しく理解し早々と対策をとり始めたのだろう。

 

「もう、すぐにでも国王を蹴落として戴冠式してしまいましょうか……。即位してしまえば何してもこっちのものですし。ザミラさんは結婚式どうしたいですか? 歴代の王族の様に大々的に国中巻き込んだ物? それとも身内のみで? 私としては別にしなくともさらっと神官の前で誓って終わらせるだけでも良いですよ? と言いますかそれが手っ取り早いですし」


 ホルンは満面の笑みでザミラの頭に顎を置きそう溢す。

 そしてザミラも素直に【どうしましょうねー】と返すあたり、ホルンの今の発言に何も疑問を持っていないようだ。


「おい王様。おーさまの結婚式でそれは無いだろ。と言うか、俺ちょっと今から魔術師長にメルのドレスを魔術で作ってくれって依頼してくるわ。そうしたら明日にでも結婚出来る。俺はな。即結婚出来る。俺はな!」

「今すぐ即位してきます。そして全権力を使ってイヴァンさんを阻止します。抜け駆け、駄目、絶対……って、跳ぶのは反則ですよイヴァンさん!」

 

 語彙力爆発の二人がせめぎ合う様に王宮に向かい駆け出す。勿論ホルンに抱えられたままのザミラも一緒に。

 遙か頭上を跳ぶイヴァンと必死に走るホルンを微笑ましく眺めていたザミラは、これから予想される賑やかな生活に胸を躍らせ、ぎゅっとホルンにしがみ付く。

 遠ざかる厩では、石喰い鳥の卵が静かに二つ並んでいた。

本編完結です。ここまでお付き合い下さった方々誠に有り難う御座います!

今後は続編とまでは言わないですが、番外編として短編や後日談を書く予定(未定/気持ちはある)です。

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