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 何故かスレイプニルの居た森で石喰い鳥を四頭連れていたザミラは、石喰い鳥共々近衛兵に捕獲され今に至る。

 躾を施され従順な四頭の石喰い鳥は大人しく厩に預けられたが、それなりに抵抗したらしいザミラは、見事に縄で拘束された状態で王宮まで運び込まれた。

 そしてそのままの状態で、ザミラはホルンの指示で宰相室に連行された。

 一ヵ月振りの対面に気まずさやら感動やらを覚える前に、何とも間抜けな姿でのザミラの帰還に、お互いため息しか出ないでいた。

 

「……ザミラさんは縛られるのがお好きなのですか?」

「その評価は至極不服です。男の人がそう言うの好きなだけでしょ」

 

 縛られたままソファに転がされたザミラは不満の声を上げる。

 攫われた時といい今といい。この一月で二回も縛られるはめになったザミラは思い切り頬を膨らませつんっと明後日の方向を見ている。

 ふぅっとホルンがため息をつき、縄を解こうとザミラに一歩近付くと、ザミラはびくりと体を震わせ、ソファの上でばたばたを身動ぎする。

 

「……そこまで警戒せずとも……」

「短期間に二回も攫われたので、ちょっと男の人がトラウマになりかけているだけです……」

 

 もぞりと気まずそうに身を丸めるザミラに、ホルンはため息をつき、そのまま寝そべるザミラ隣に腰を下ろす。

 むぐむぐと身を捩りホルンを見上げたザミラは、何か言いたげに口篭ると、ホルンの膝をこつこつと頭でつつき始めた。

 

「外して、くれない感じですか……?」

「外したらまた逃げるでしょう?」

「う……」

 

 顔を覗き込んで来たホルンの耳に揺れる二つの耳飾りを目にしたザミラは、ぐっと言葉に詰まるともぞりと体を丸める。

 するとザミラの頭にホルンはすっと手を置いた。

 

「一月も一人で何をなさっていたのですか?」


 ホルンは優しくザミラの髪を弄ぶ様に梳きながら、丁寧に頭を撫でる。

 久し振りの頭を撫でられる感覚が気持ちいのか、ザミラはもぞりと体をホルンに寄せると、小さく口を開く。

 

「気分転換に……石喰い鳥の捕獲と、生態調査を……」

「それで?」

「それで……。石喰い鳥は普通の食品も食べる個体で、たまに石を食べるだけみたい。石の何かの成分を定期的に摂取しないと駄目らしくて、別に石だけを――」

「聞きたいのはそれでは無いです。……気分転換は出来たのですか?」

 

 するとザミラはぐっと口篭り、再びホルンから身を離して行く。

 

「あぁ、ほら。縛ったままで正解でしたね」

 

 ザミラが少し動いたのを目敏く見ていたホルンは、ひょいっとザミラを抱え上げると、すとんを自身の膝の上に座らせ抱きかかえる。

 びくりと体を震わせるザミラの顔を覗き込み、ホルンは先程の問いの答えを促す。するとザミラは目を反らし小さく首を振った。

 するとホルンはそのザミラの頭をぎゅっと抱き締めると、ふぅっとため息をつく。

 

「左様で御座いますか。所で、勝手に居なくなって私が怒っていないと思っています?」

 

 ザミラは耳元で呟かれた、聞いた事の無い冷ややかなホルンの声にびくりと体を震わし、俯いたまま再び小さく首を振る。

 王宮官僚でアマデウス伯爵家の跡取り息子となったイヴァンは、晴れて自由の身となりもう外出も思いのままだが、ザミラの立場は相変らず王宮預かりと言うだけ。 

 そして更にホルンに向かい一人にするなと言った事があるザミラにこの状況は、ひたすらに気まずく居心地が悪い。

 そして一方的に耳飾りも返してしまった手前、今更どう言う顔をホルンに向けて良いか分かる訳もない。

 ふぇっと既に情けない声で泣きそうになっているザミラの頭に、再びホルンの声が落とされる。

 

「一ヶ月も行方不明で、私がどれ程探したと思っているのです? メルもイヴァンさんも、レオもランス公爵も、皆言葉には出さずとも酷く心配していたのですよ? ……どうやら私は酷く愛想を尽かされてしまったようですね」


 冷ややかな声にザミラは顔を上げそうになるも、ぐっと堪えぐったりと俯くだけ。

 すると突如、ホルンがザミラの耳をかぷりと噛み、それにはさすがにザミラも短く悲鳴を上げ顔を跳ね上げるしかなかった。

 だがその瞬間、ザミラの体は更に力強く抱きかかえられた。

 

「はぁ、今更ながらに父の気持ちが分かりましたよ……。確かに、どんな手を使ってでも手に入れたくなりますね。それが出来る力があるので尚更……」

 

 どこか憤りを含んだ声色で呟かれた言葉に、ザミラが反応するより先にホルンは言葉を続けた。

 

「もうザミラさんの気持ちなんて知った事じゃないです。それに、私の決断には文句は無いと言っていましたよね? では私だけの言葉を聞いて私だけを見ていなさい。王位でも何でも継いでやりますよ。そして窮屈な王妃の席に貴女を一生監禁してやります。もう私から逃げたくても逃げれないように、貴女が嫌がってもなにしても」

 

 先程より強く耳を噛まれ、ザミラは体を震わせる。

 いつもと違うホルンの雰囲気に恐怖すら覚えたザミラが身を離そうとするも、ホルンはそれを許さないように更に腕に力を入れる。

 

「っ……苦し……」

「これからはもっと苦しいですよ。愛想を尽かした男の元から離れる事は出来ないのですから。可哀相に、好きでもない男に愛されて子を産み育てて一生……。……残念でしたね、こんな権力者に愛されてしまった事を一生後悔して下さい」

 

 今度は首筋に甘噛をする。

 たまらずザミラが目の前にあったホルンの髪を咥えくいくいと引っ張りささやかな抵抗をするも、ホルンは気にせずザミラの首筋と耳を啄ばんでいる。

 

「……! ――~~!!」

「っ痛ぅ……」

 

 ザミラが仕返しとばかりにホルンの耳を軽く噛むと、ようやくホルンはザミラから少し身を離し、不満そうに冷ややかな視線をザミラに落とす。

 

「私を拒む事は認めませんよ。どんなに拒否しようが私は容赦無く貴女に酷い事をします。泣き叫ぼうが何しようが、私は手加減してあげるつもりはありません。貴女が抵抗しなくなるまで、いえ、その後も私は貴女の心にも体にも徹底的に私の物だと言う証を刻み付けてやります」

 

 初めて間近で見るホルンの冷たい表情に、ザミラは怖気づきつつも反論に出る。

 

「……少しは話を聞いて下さいよ」

 

 不満そうにザミラがそう口にすると、ホルンは更に不満そうにすっと目を細める。

 

「確かに勝手に王宮から抜け出しちゃったし、耳飾りも……返しちゃいましたけど、ちゃんと【今は返す】って言いましたもん。私が側に居ると変に悩むかもって思って、ホルンさんが決断するまで一人で石喰い鳥の生態調査してただけで、頃合を見計らって戻ろうかと……。その……愛想を尽かした訳じゃ、ないのに……」

「行き先も告げず行方をくらませておいて?」

「だって、言ったらホルンさん来ちゃうでしょ? それじゃ意味が無いし、でも一人じゃ外出許可は下りないし……」

 

 更に目を細め見るめるホルンから逃げるように、ザミラは次第に俯いていく。

 結局ザミラの言い分は【自分が近くに居たらホルンが悩む。だけど場所を伝えた所で一人では外出も出来ないしホルンが着いて来てしまう。一人王宮を抜け出し頃合を見て戻ってくるつもりだった】と、結果的にはイヴァンが予想していた通り【そのうちひょっこり戻ってくる】と言うものだった。

 ホルンは目を細めたまま盛大に眉間にシワを寄せる。

 これにはザミラももごもごと必死に身動ぎし、ホルンの膝の上から下りようとする。

 しかし、ホルンは軽く膝を上げ強制的にザミラが自身にくっ付くように仕向けると、そのままぐいっと抱き締め直す。

 

「未だ私への気持ちは変わらない、と?」


 いつぞやかした気もするような会話だが、ホルンは今一度ザミラの耳元で呟く。

 今度は先程とは違い、少し落ち着いたの柔らかさのある声色だった為、ザミラはふぅっと安堵の息を吐きつつこくこくと頷く。

 するとホルンもふぅっと息を吐き出すと、一拍置いて再び質問を投げかける。

 

「では……正式に耳飾りを受け取って下さるのですか?」

「ちゃんとくれるんですか?」

 

 小さくぐっと気まずそうにホルンが息を飲んだのが分かる。

 確かに一度目は少なくともちゃんと渡してはいなかった。

 

「その……。王妃に、なって下さるので……いえ、下さい……」

「さっきの強気なホルンさんが消滅した……」


 ホルンは先程まであれだけ堂々と言っていた事だと言うのに、普段通りに戻った途端、語彙力が吹き飛び弱々しい発言になってしまい、さすがのザミラも状況が状況だが突っ込みを入れざるを得なかった。

 見事に雰囲気をぶち壊してしまったホルンは小さく後悔しつつも、眉根を下げ再びザミラの頭に鼻先を沈める。

 

「嫌だと言っても離してあげませんから」

「うん……。でもつむじに言わないで」

 

 くすくすと笑うザミラに、気まずそうに顔を上げるホルン。先程までとは違い、今度はホルンがザミラの手の平で転がされているように見える。

 しかしホルンもしっかりとザミラの顔を見据え、再び口を開く。

 

「この減らず口をどう塞いでやりましょうか。まぁ、もう何を言われても怖くは無いのですけどね」

 

 そこで一度ザミラの体を抱えなおしたホルンは、近くなったザミラの顔を覗き込む。

 

「一生大切にいたします。ザミラさん、私のものになると王家ミクトランの名の元に誓いなさい」

「ぷっふふふ……。はい、誓います」

 

 相変らず吹き飛んだ語彙力のままではあったが、しっかりと目を見て言ったホルンの言葉に、ザミラは素直に返事をした。

 ふにゃりと笑みを溢したホルンだったが、一瞬ぐっと何かを我慢したように眉根を寄せると、そのままぽすっとザミラの首筋に顔を埋めてしまった。

 

「ほ、るんさん?」

「いえ、色々とたまらなかっただけですので……。ここで我慢します」

 

 語彙力爆発のままザミラの首筋でもごもごとしゃべっていたホルンだが、再びザミラの首筋と耳をかぷりと食み始める。

 ザミラは短く悲鳴を上げびくりと体を震わせると、ふと自分の首筋に添う耳飾りが目に付き、ホルンは完全に渡し忘れているなと思いくすくすと笑みが零れる。

 そして更に、ホルンが忘れている事が二つある。

 

「ほ、るんさん、ちょっと……」

「今取り込み中ですのでお静かに」

 

 無駄にぴしゃりと言い切ったホルンだが、何がどう取り込み中なのか。

 ザミラは耳をがじがじと噛み続けるホルンから身を捩り少し離れると、言いにくそうに視線を外しもごもごと口を開く。

 

「その、私まだ縛られたままで、さすがにこれは恥ずかしいのと……あと……」

「あと?」

「指輪……つけてないから……その」

 

 んっ? と一瞬首を傾げたホルンだが、ザミラの言わんとしている事が分かったのかさあっと顔から血の気が引いて行き、ゆっくりとザミラの指輪を確認する。

 そこにはイヴァンとの繋がりを絶つあの指輪は存在していなかった。

 

「ま、さか、イヴァンさん、に?」


 ぎこちなくザミラに問うホルンだったが、ザミラの曖昧な笑みを確認し卒倒しそうになる。

 

「多分、と言うか伝わってるはず。途中までのたうち回ってたっぽいし……」

「途中まで?」

「うん、多分途中で指輪をつけたのかな?」

 

 ふっと意識が遠くなりそうになっているホルンに、更に追い討ちをかけるかの様に、縄を解いたザミラの腕にはイヴァンの表情がありありと思い浮かぶ【ほるんん……】と言う字が赤く浮き上がっていた。

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