今際の際の走馬灯
ある田舎のとある小さな病院でまた一つこの世から消えようとしている命が一つあった
その命は体からたくさんのチューブを伸ばし、もう自分で生きているのか機械で
生かされているのかすらわからない風前の灯火のようなか細い命だった
ベッドに横たわっているその命は小さくつぶやいた、つまらない人生だったと
その命はある夏の日、病に罹った
不治の病だ、治る確率はほとんどなく治療薬もない、どんどんどんどん体の機能をむしばまれ
最後には命を奪ってゆく
医師からは余命一か月と宣告され、その命のタイムリミットは刻一刻と近づいていった
その命は少し眠ることにした
するとその命の夢の中でその命の過去と今の出来事がパラパラ漫画のように流れてきた
これが走馬灯というものだろうか、その命は少し戸惑うもその現象に少し身を委ねてみることにした
まずはじめに見えたのが小さい赤ん坊がおぼつかない足取りで歩いている風景だ
その赤ん坊は歩いて行った先にいた母親と思われる人物に抱き着いて満面の笑みを浮かべていた
次に見えたのが小学校の風景で、まだ幼い子供たちが自分よりも大きいランドセルを背負って
元気に登校していた
場面はどんどん進んでいき、ついに成人式の風景が見えてくる
会場で皆一様に大人びた雰囲気に包まれており、これからの未来へ希望に満ち溢れている様子が
うかがえた
そして赤ん坊だった人間は立派に成長し、社会という大きな歯車を回すための一ピースとして
働き始めた
上司に怒られ頭を下げて、だが時にはそんな辛いことを忘れさせてくれるような出来事もあった
そしてある夏の日、どこかの病院で誰かが寝ている姿を映しだし映像は終わった
その命はゆっくり目を開けた、外はもう夕暮れになっておりカラスが鳴きながら飛んでいた
本当につまらなかった人生、だが今となってはそれさえも懐かしく思えてしまう
その命は結局自分が何のためにに生きていたのか、その答えを考えた
だがその答えはいっこうに見つからなかった、そんなもの本当はないのかもしれないと思うほどに
短い人生しか歩んでこなかったからなのか、はたまたつまらない人生を送ってきてしまったからなのか
だがそんな短いつまらない人生でも、一つだけわかったことがある
自分はつまらないと思っていた人生を結構楽しんでいたということだ
なんだそれと自分の中に浮かんだそんな考えに笑いながら、その命は目を閉じた
夕暮れ時、小さな病院で一つの命の火がこの世から消えた
あなたは人生の最後にどんな走馬灯を見たいですか?