現実
僕⑶
呼び出されたのは安藤の病室である。
「失礼します」
僕は病室に入る。
そこには僕の父、母、顧問の先生、安藤、安藤のお母さんがいた。
「翔君、そこ、座って」
先生は僕を父の隣に誘導する。
僕は椅子に腰掛け、うつむいた。
「なんでこんなことをしたのか、まずそれを知りたい」
先生が口を開く。
「分かりません…なんか自分が弱いって言われて…」
「カッとなったんだね?」
「違うんです。もっと冷たいって言うか、黒いって言うか…」
「それじゃあ、シリアルキラーってことじゃねえか?」
安藤が掠れた声でしゃべった。
「とにかく、うちの子をこんな目に遭わせて…それ相応の責任はとってもらうわよ。」
「どーでもいーよ」
安藤がお母さんの言葉を遮った。
「ちょっと高田と2人で話したから、んっ。ゴホホンっ!出て行ってくれ。」
安藤がそう言う。
「わかりました。さあ、安藤さん、高田さん、行きましょう。」
「はい。安藤さん、この度は誠にすいませんでした。ほらお前も頭下げろよ。」
父が僕の頭を無理やり下げさせる。
「後で金銭的な話をしましょう。」
安藤のお母さんはそういい、病室を出る。
続いて父、母、先生の順で出て行った。
僕はうつむいたまま、黙っていた。
「おい、高田。」
「な、何?」
「お前、俺に許して欲しいだろ?」
「いや、許してもらえないようなことをしてしまったことは理解してるよ。近いうちに退部届けも出すから。」
「うぜぇな、お前。許してやるって言ってんだよ。部活もやめなくていい。」
「本当に…いいのか?」
「あぁ、でもただでとはいわねぇけどな。」
「金はない。ごめん。」
「金じゃない。条件がある。」
「何?」
「もう1人、剣道部に八木より強いやつを入れて大将にしろ。それで新人戦の団体戦優勝したら許してやる。あと、お前は先峰を取ることも追加。」
「え?無理だよ」
「なら、部活やめろ。」
「それは嫌だ。でも・・なんでそんなこと言うの?」
「俺、剣道やめたいんだ。でも、俺が抜けて弱くなるんじゃやめられない。後継者を探してほしいんだ。それだけ。」
「…分かった。やってみる」
それから僕の部活動が始まったと言っていい。