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刺客街路〜剣豪異世界接続〜  作者: 杣
第一幕
4/20

一流の剣

時掛⑵


玉のような汗を袖で拭い、時掛は縁側に座る。

隣には廬山が日本酒の瓶を傍らに、鳥義鎧聖流に伝わる名刀・鳳凰切を月明かりに照らして眺めている姿がある。


「千本打ちか?」


時掛に目も向けず、廬山は問う。


「はい。鶫様に勝ちたい、その思いだけを胸に」


「なんだか重いのう。わしを目標にしておったら、武蔵には勝てんよ。武蔵だけではない。剣界には佐々木小次郎をはじめとした剣豪たちがたくさんおる。それらにはわしでも勝てん。お前は日本史上で最強の剣客にならねばならんのじゃ」


「はい。」




8時10分までには準備をすませて席に座る。

それがこの学校のルールらしい。

教師に叱られたところでなんともないが、そのてのルールを破るのは時掛の美学に反する。


7時50分、席につく。

その後掃除を経て授業が始まった。

高田は休みらしく、助かった。


下校時間は16時40分。


刺客通り開通まで20分。

時掛は学ランを脱ぎ、ワイシャツの袖をまくった。

傘刀を左手に持ち、そのマンションまで歩き出した。


時計を見ると16時57分。

カバンを下ろし、傘刀の柄を握り締める。


「カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ」


時計の針の音が鳴り響く。

1秒1秒がとてつもなく長く感じられる。

59分。息をゆっくりとはいた。

17時!

時掛は立ち上がり、マンションの裏に入った。



幸い、ここを通る人は誰もいない。


「良かった。」


安堵した瞬間、後ろから殺気を感じた。

時掛は咄嗟に体を反転させ、半抜刀でその殺気の源の男の刀を受けた。


「お主、名は。」

時掛は低く言う。


「名乗るほどのものではない。」


男は剣を引くと、穏やかな顔になった。

殺気はわざと発していたようだ。

この時時掛は男が持っていたものが木刀だと気づいた。


(真剣だと思ってしまった…)


男は木刀を地面に置くと、腰に差した小太刀を抜いた。

こちらは真剣。


「先程、名を聞いたな。教えてやろう。わしの名は鐘捲自斎。」


時掛は息を飲んだ。

鐘捲自斎は小太刀最強・富田勢源の弟子で、一刀流開祖として名高い伊藤一刀斎景久の師匠でもある小太刀遣いである。


*鐘捲自斎Wikipedia

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E9%90%98%E6%8D%B2%E8%87%AA%E6%96%8E



時掛は凄腕の剣豪と向き合うのは初めてである。

恐怖と期待をかんじている。

時掛は傘刀のボタンを押し、抜刀した。

鞘を捨てる。

このような男に、時掛の見よう見まね抜刀術のような小細工が通用するわけがないと考えたからである。


「小童、お主、恐れておるな。」


「何をっ」


挑発と分かっていながら、時掛は抑えられない。

傘刀を下段に構えた。


「師を超えられず、子に抜かれた能無しが、よく言うな」


時掛も挑発し返す。


「ふっ、なんとでもいえ。」

と返されてしまう。

鐘捲自斎は小太刀をもった手をぶらりと下げた。

隙だらけなはずなのに、どこに打ち込めばいいのかがわからない。


息を吐き、平青眼に構え直した。

自斎はピクリとも動かない。

こういう戦いではしびれを切らして先にかかった方が不利になる。

どう考えても時掛の方が格下である。

ここで自分を不利にはしたくない。

すると自斎は口を開いた。


「なるほど、お前は分かっているようだな。時間制限がなければ相手してやるが…」


その瞬間、自斎の脇に隙が生まれた。


「覚悟ぉぉ!」

時掛は我を忘れ、地面を蹴った。

構えはまた変わり、先日廬山に繰り出した片手捻り突きである。


「鳥義鎧聖流・一角!」


自斎の隙をみて突いたから、外れない。

そう確信していたにもかかわらず、傘刀は宙を切った。

首筋にひんやりとしたものが当てられる。

その時気がついた。自斎はわざと隙を生み、時掛の先制を促したのである。


唾を飲み込み、死を覚悟した。




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