5.広告に囲まれて
ナーロ街に着いたモウルは、役所で手続きを済ませ、無料で提供された住居に腰を落ち着けました。
物書きの街だけあって、その住居には小説執筆に役立つ機能がたくさん付いています。
役所でもらったマニュアルにざっと目を通しながら、モウルは、
「とりあえず、最低限の機能だけあればいいや」
と、つぶやきました。
「それより、この大量の広告は何とかならないのか」
住居の内部は、壁も天井も床も、時間ごとに切り替わる広告パネルで埋め尽くされていました。
ナーロは広告収入で運営されている街なので、こればかりはどうにもなりません。
巨大都市ツーにいた頃、モウルはセンブラと言う無料の住居に住んでいましたが、センブラには、こんな広告パネルは一つもありませんでした。もともと、ツーのインフラに余計な負担をかけないように設計されたのが、センブラなのです。
ただ最近は、ツーの管理人が業者と結託して、
「センブラにも広告を実装する。いやなら出て行け」
と言い出し、新型のセンブラには、ごてごてとした広告パネルが強制的に付けられてしまいました。
だからツーの住人たちの中には、毎日知恵をしぼって、新型センブラの広告パネルの動作を無理やり止めたり、旧型センブラでも普通に住める様にこっそり改造したりして、これに抵抗し続けている人もたくさんいます。
管理人も住人も、ロクなもんじゃありません。