25.どんなに主人公に自己投影しようとも
「あ、おじいさんの最新作が完結してる」
夜更かしして、最新完結リストを眺めていたモウルは、そこにおじいさんの作品が追加されたのに気がつきました。
作品のタイトルは「風車小屋に咲くひまわり」です。
それは、世間に認められないまま、一生をかけてひたむきに小説を書き続け、最後の最後に大ベストセラー作家になった男の話で、作者が主人公に自己投影をしまくっている作品の典型例でした。
「こんな深夜に最終話を投稿したのか。生活リズムが狂っても知らないぞ」
生活リズムが狂いまくりのモウルが、自分のことを棚に上げて偉そうに言います。
翌朝、作品完結のお祝いを言おうと、モウルはおじいさんの住居を訪ねました。
おじいさんは、住居に備え付けられている投稿機能を起動したまま、机に突っ伏して寝ているようです。
「おじいさん、投稿した直後に寝落ちしちゃったのか。そんな姿勢で寝てたら体に毒だよ」
おじいさんは、モウルが近寄って声をかけても、一向に起きる気配がありません。
「ほら、起きて。寝るなら、寝室へ行ってちゃんと寝ないと」
体を揺すぶっても、うんともすんとも言いません。
「え、ちょっと、おじいさん」
いつもの、「もし自分が新人賞を取って作家デビューしたら」、という妄想に耽る時の様な、幸せそうな笑みを浮かべています。
「おじいさん! おじいさん!」
おじいさんの長年に亘るナーロ街での創作活動は、ほとんど誰の注目を浴びることもないまま、ひっそりと終わっていました。
現実は、主人公に自己投影した小説のようにはうまくいかないのです。




