1.モウルと怪文書
巨大都市ツーの片隅に、一人の少年が住んでいました。
本名は誰も知りません。皆からは「モウル」と呼ばれています。それで本人もいつしか「モウル」と名乗る様になりました。
モウルだけではありません。この巨大都市ツーでは、本名を他人に知られると、その身に災いが降りかかる、との言い伝えがあるので、ほとんどの人が名無し、もしくは仮の名前で活動しているのです。
ツーの住人達は自分の身元が知られないのをいいことに、毎日、口汚い言葉でわめき、互いに罵り合うので、他の都市の住人からは、あまりいい顔をされません。
けれどもモウルは一風変わっていて、ツーの住人でありながら、その手の罵り合いには、まったく加わろうとしませんでした。
「全然面白くない」
住人が本気になって罵り合いがヒートアップすればするほど、モウルは白けてしまうのです。
だからと言って、モウルは聖人君子というわけでもありませんでした。
モウルはこの巨大都市で、「徹底的にふざけまくる」ことに励んでいたのです。
具体的には、毎日せっせと様々な怪文書を作成し、人気のない路地裏に行ってそれをばらまいていました。
その大半は、住人によってくしゃくしゃに丸められ、ゴミ箱に捨てられてしまいましたが、中には、
「面白かった」
「いいぞ、もっと暴れろ」
「訴えられるまで頑張れ」
と、励ましてくれる人もいて、それがために、モウルはますます怪文書作成にのめりこんでいったのです。