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17.すべてを捨てて戦う老人
何かのプロになりたい人のことを、「ワナビ」と言います。英語のアイワナビー、「私は○○になりたい」、から来た言葉です。
ここ、ナーロ街でワナビと言えば、プロの作家になりたい人を指すのが普通です。
年を取ったワナビは、高齢ワナビと呼ばれますが、
「作家を志して早や五十年、様々な出版社の新人賞に応募した作品総数は二百を超えるが、いずれも一次審査すら突破しておらん。じゃが、ワシはまだまだあきらめんぞ」
ここまでこじらせた年代物のワナビは、なかなかいません。
「現実を見ようよ、おじいさん。そこまでやってダメなら、あきらめておとなしく隠居した方が、いい余生が送れると思う」
モウルは老い先短い老人に、容赦ない言葉を浴びせます。
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、女房には先立たれ、息子夫婦にはとっくに愛想を尽かされ、孫も全然寄りつかん。今さら作家になるのをあきらめたところで、ワシにはもう何も残っておらんのじゃ」
話が急に重くなりました。モウルはリアクションに困ります。