16.声優がドル売りすることの是非について
「これは久々に当たりだ」
何百もの作品を読んで意識が朦朧としてきた頃、モウルはとある住居に残された童話と出会って目が覚めました。
そこには、幼い頃の記憶から呼び起こされた懐かしい思い出の数々が、きれいなモザイク模様のように散りばめられた、優しくもせつない物語が紡がれており、
「僕の書く童話モドキとは大違いだ。こんな素晴らしい作品を書いたのは、どんな人だったんだろう」
その童話を読み終わったモウルは、興奮収まらぬ様子で、作者に思いを馳せました。
「たぶん、この物語のようにきれいで優しい女の人なんだろうだな。きっと繊細な心の持ち主だ。文学好きな深窓の令嬢で、髪は黒髪ロング一択。スレンダー体型。服は少し地味めだけど、良い生地を使った品の良いものを着てる」
思いを馳せ過ぎて、ただの危ない妄想になってます。
「ほほう、その作品が気に入ったか」
白昼夢に耽っていたモウルの背後で、しゃがれた声がしました。
モウルが振り返ると、そこには枯れ木のような老人が、かろうじて杖を頼りに立っています。
「うん、誰がなんと言おうと、これは名作だ。おじいさんだって、そう思うだろう?」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。そこまで褒められると、照れるのう」
「え?」
「それを書いたのはワシじゃよ」
その一言で、モウルの幸せな幻想は、完膚なきまでにブチ壊されました。
「なんじゃ、作者がワシみたいなジジィで驚いたか。お前は美少女アニメのキャラを見て、『かわいいなあ、こんなにかわいいんだから、中の人もすごくかわいいんだろうなあ』、と思い込むタイプじゃな」
「いや、声を聞くだけで中の人の顔が容易に想像できてしまうので、それはない」
動揺のあまり、モウルは失礼なことを口走ります。