11.よくある断末魔
モウルは挙動不審な住人を見つけました。
「変だな。あの人、さっきから住居を転々と渡り歩いている」
ナーロ街では、原則として一人につき一つの住居しか与えられません。
ところがその住人は、こちらの住居でちょっと作業をしていたと思ったら、次はあちらの住居に行ってちょっと作業をする、という具合で、せわしなく移動し続けているのです。
不思議に思ったモウルは、こっそりその住人の後をつけてみました。
どうやら、その住人は小説を書いているのではなく、他の住人の作品の評価点を付けて回っているようです。
モウルは住居に残された評価リストを見て、ある共通点を見つけました。
「住居ごとに少しずつ変えているけど、どのリストにも同じ名前が入ってる」
その住人は他人を装って複数の住居を取得し、そこから自分の作品に自分で評価点を入れていたのでした。その他の作品は全部カモフラージュです。
モウルは黙ってそのリストの一つ一つを携帯で撮影していき、最後にまとめて運営本部に通報しました。
評価点の付け方が露骨すぎたのが災いしたのか、不正はすぐに発覚し、その住人はナーロ街から永久追放の処分を受けました。
もちろん評価リストに付けられていた点は、すべてゼロに戻ります。
「うわあああ、俺の評価点が減ってる!」
「俺のも!」
「俺のもだ!」
事情を何も知らないままカモフラージュに使われていた作品の作者達の断末魔の叫びが、街のあちこちから上がりました。
その悲痛な叫びを聞きながら、モウルは、
「もし、あの評価リストの中に、僕の作品が一つでも入っていたら、通報はしなかったんだけどな」
ぼそっと、つぶやきました。
最低です、モウル君。