9.祭りだ、祭りだ、火祭りだ
作品を書き続けることに疲れたモウルは、定期更新をサボって、街をぶらつくことにしました。
「これはサボっているわけじゃない。他の作品を研究することも、自分の作品を向上させる糧となるからだ。漫画連載で言えば、『作者取材につき休載』、というやつだ」
モウルは、自分に言いわけをします。
この「取材」とは、あなたの想像上の存在にすぎないのではないでしょうか。
そんな良心の声をふっ切るように、モウルは自分の住居から逃げるように遠ざかっていきます。
そうこうするうちに、とある有名な作家の住居が見えてきました。たくさんの人達が、その住居を取り囲むように集まっています。
「やあ、すごい人だかりだ。みんな、あの作家の定期更新を楽しみにして、ファン同士仲良くここに集まっているんだな」
ところが、モウルが近寄ってよく見ると、そこにいるたくさんの人達は、仲が良いどころか、口汚い言葉をわめき散らしながらとっくみあいのケンカをしている真っ最中です。
「もう、書くな! ヘボ作家!」
「いや、書け! 教祖様!」
それは暴徒と化したアンチと信者の群れでした。
本当のファンはその騒ぎを遠巻きにして、悲しそうに見守ることしか出来ません。
モウルはあわててそこから逃げ出しました。
「ああ、びっくりした。あの作家も大変だなあ。あっ、住居から火が!」
有名作家の住居は、わずか十五分で焼け落ちました。
モウルは何も見なかったことにして、街歩きを続けます。