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お仕置きは二度も三度も当たり前






深い海の中で溺れるように。

沈む。沈む。沈む………

澱んでいる底は今にも死者を求めてはい出る腕が幾重にもあり、海の底に引き摺りこもうとこちらに手を伸ばしている。不気味でおどろおどろしい尋常じゃない空気はこの者達は生者ではないと告げている。


やばい。


暗い底は死と同意議だと頭ではわかっていても、息が苦しくて、手足をばたつかせ、もがくものの一向に上へと身体は向かない。

死者の手に片足を掴まれ、一気に急降下する。



グラグラ。


手とは別に黒い物体がふよふよと水の中にいる。

放つオーラはあの腕達とは次元が違う。死者でも生者でもない。ならなんなのか。何者なのか。

こちらを見ている。

目や何が特徴的なものなどない、しかし確かに俺を見ている。

手を差し延べるかのように黒いナニカが伸びる。まるで掴めとでも言うように。


目の前がチカチカとする。息が枯渇する。

危険信号が脳で駆け巡る。ひやりと凍る背筋。恐怖の塊が俺を見ている。

目の前にある黒いナニカに捕まってはいけないとはわかりつつも、手を伸ばしてしまう。


必死に縋り付く、ナニカを求めて。



生きたい。生き延びるんだ。まだ何もしていない。……始まってすらいないじゃないか。……………何が?




逢いたい人がいる。

逢わねばならない運命がある。



頭の中で色々な情報が廻りに巡る。

浮かび上がる人影とこれからの未来。

前世の記憶が脳に焼かれてこびり付く。



それが不幸で死の塊だとしても


私………今の俺には¨必要な物¨だ。




「エル様」

「…………ちっ」



執事の呼びかけで、ばちん、と水が弾ける。

ゴホゴホと咳き込む。水を吐き出し、むせる。

生理的な涙を浮かばせながら、必死に立ち上がろうとするが酸欠で足がおぼつかない。



「出て行け!今すぐ、出て行けっ…………ごほっごほごほ」



魔法を行使しすぎたエルが咳き込み、ただでさえ青白い肌がさらに酷くなっている、馬鹿め。

床を這いずるようにして、なんとか壁にまでもたれ掛かり、エルの機嫌がこれ以上損ねないよう「失礼しました」と言い、早くに立ち去る。

ぐしゃぐしゃな顔を顰めて、先程までの光景を思い起こさせる。

アレはなんだったのか。

あの世とこの世の境目か?ならなんで……アイツがいた?

黒いナニカに触れた途端、何かが弾けたような気がする。

何か¨思い出した¨筈なのに覚えていない。

そう、アレは前世の記憶だ。

そして黒いナニカとはきっと。



前世の記憶。



七瀬 静馬という名前だけ残して前世の記憶は消えた。

いや、消えたわけじゃない。

今は必要ないから、思い出せないだけだ……………多分。






幾分か身体が楽になってきたのでクリーン魔法を唱える。

簡単な無属性の魔法なら魔法の適正があれば誰でも使えるが、残念ながら蒸発させる魔法は火の特性なので身体は濡れたままだ。

このクリーン魔法のおかげで洗濯しなくても服は綺麗のままなのだし、便利と言ったら便利だが。

張り付いた服が気持ち悪い。

使用人が使う衣装部屋から服をかっぱらおう。

外はイルとして買い物なんか行けるわけないし、イルとして着るのが許されているのはメイド服だけ。

なら、この機会に新品のメイド服を何着か拝借しよう。


そう思い、廊下を歩いていると使用人の一人である男が立ちはだかる。確か父親付きの執事だ。

隣には……………俺が唾を凍らした女いる。当たり前だが今はもうついてない。



「旦那様がお呼びです」



嫌な予感がビンビンだが行かないわけには行かない。

唾吐きかけ女がニヤリと笑っているだけでこれから起こることが容易に予想できた。

濡れた髪や服のまま、会うのは失礼だと言ったが、「旦那様が早く来い、と」その一言で退路を断つ二人。

気付かれない程度に溜息を吐きながら、仕方ないかと父親の書斎へ向かう。

きしきしと軋む胃。頭痛と目眩が襲う。

後ろに執事とメイドを携えながら、長い廊下がさらに長く感じられて、思わずチラリと窓の外を見る。



空はこんなにも綺麗な夜空を描いている。

月はコバルトブルーに染め上がっており、そこが前世の俺が住んでいた日本とは違う世界などだと認識させられる。

青白いならわかるが海の蒼さを表現された月は鮮やかで美しい、だが何か違和感を感じる。

やはり、ここがゲームの世界だからか。


綺麗だとは思うのに歪に感じるそれは、俺が逆に異物だと言われているようでならない。












想いをはせているうちに書斎に辿りついたのでノックを2回する。



「旦那様、イルです。入っても宜しいでしょうか?」



間違っても、お父様などと言うと機嫌をそこねて命が危うくなるので、ちゃんと旦那様と発言する。

中から渋くしゃがれた声が音として廊下に振動する。



「入れ」

「失礼します」



すでに魔法陣が床に描かれており、拘束魔法がすぐに発動され、足が氷で固められる。

この家の人間は水と氷の適性を持っているわけだから、必然的に外から嫁いできた母以外は勿論水も氷魔法も使えるわけで父も例外じゃない。

本来なら魔法は魔法陣を使用しなくても発動はできるが、大人になってある一定を過ぎると、歳をとるごとに年々魔力が衰えていくらしい。

父は今かなり魔力が下降気味で、魔法を使用する為には杖か魔法の術式(魔法陣)を描かなくては魔法が発動できないまでになった。

それでも杖や魔法陣を用意すれば、全盛期同様の魔法が威力や効果は変わらず打ち出せる。



「貴様、うちの使用人に手を出したそうだな。しかも非魔法適性者に向かって魔法を使用するなど……恥を知れ!」



あの唾メイドが告げ口しなくても、近々呼び出されることには変わりない。

俺を産んで母は自殺した。最初はそれで父が俺を恨んでいるのかと思ったが………違った。

父にとって女などただの子供を産む為のもので都合のいい性処理道具。そしてステータスだ。

そう、ふざけたことをほざいてた時、ガチで殴り殺してやろうと思ってた。

母との思い出は酷く怯えられた事としか記憶にないが、それでも俺を殺そうとした手を自分に向けてしまった哀れな人だった。

おおじじ様のいいつけを破り、寝ている俺を手に掛け、殺そうとしたが………出来なかった。

泣きながら謝って。


¨貴方のせいではない、誰のせいでもない……¨


最後の最期で母の顔をするのだから卑怯だ。

女ってやつは本当に………









父の本来の目的は悪魔イルの弱体化。



いずれ人類の敵となると言われている俺を、その時がきたら倒しやすくする為に幼い頃から恐怖と傷を刻み込まれ、理由を見つけては折檻されている。理由なんて関係なく意味もなくやられる時もあるが。

世間から…俺から見たら立派な虐待だが、父は人類の救世主になる、と自分に酔っている。


魔法使いは社会的立場はかなり上だ。

人類のヒエラルキー上においては実質トップと言っていいほど上位の魔法使いは政治家や軍を差し置いていい地位にいる。


その中で御三家である小鳥遊家の当主、父を訴えることはまず無理だろう。

実の子を虐待してました、なんて報道してもすぐに揉み消されるし、そもそも魔法使いの予言とお告げは絶対だと言われている。

その魔法使い様が悪だと決めた人間はどう転がっても悪なのだ。

逆にその悪を弱体化してたなんて、いい話として締めくくられる。俺が反逆行為などしたら真っ先に人類の敵として討伐されるだろう。


だから今は大人しくするのが賢明で、せめて………



「エル様の代わりを務めるという任務を遂行する為に身体に外傷があったら問題となります。またしては正体がバレるだけではなく、小鳥遊家を貶める問題にも発展するかもしれません」

「私に意見するんじゃない!穢らわしい………助かりたいが為の言葉か?反省の色もなく図々しいぞ。貴様の指図には乗らぬ」

「申し訳ありません。罰は受けるつもりですのでアビスをお使い下さい」

「ハハハハ!自らあの拷問器具を望むか!この卑しい雌豚がっ…………這いつくばって懇願してみろ」



こういうところはエルとそっくりだなぁ。ホント。

いくら男の俺でもドン引きだな。実の子や妹に………………女の子にこんな事させたいとは一切思わない。一般人には到底想像がつかない。

まだ性的虐待は受けた事はないが、この身体が思春期に入ってから父や兄の見る目が明らかに変わった。

男装の時は押さえ込んでいるバインバインなイルの身体が魅力的なのはわかるが………近親相姦は流石にない。

母が死んで、いくら性欲が有り余っているのかもしれないが…それでもこんな事をさせて、股間を膨らませるのはどうかとは思う。


しかし父を喜ばせないとお願いは通りそうにならない為、曲がるところまで頭を下げ、父が望む返答を出す。



「どうかこの雌豚ゆえにお願いいたします」

「おねだりはそれだけか?」



いつまで続くんだ、この変態プレイ。








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