神に反逆を誓った少女の末路
『その後はベルゼブブとアモン、ベルとアンを救い出した。我はまるで最初から悪魔だったかのように魔法が使えたし、魔王が板につくのもそう遅くはなかった。
グラ爺とミア婆は我が生まれる前からとうに死んでいて、遥か昔二人はベルとアンの召喚者だった。死後、ベルとアンに魂の回収をされ、ベルとアンはその魂を使いそのまま人間として過ごしていたらしい。魔界に帰らなかったのは魔王を探し、見つけ次第覚醒を見守る事。それが上級悪魔の彼女等の任務だった。通常、悪魔は召喚されなければ人間界へのゲートは開かない。しかし上級悪魔を呼べる人間などそうそう現れないし、レヴィとデウスがすぐに来れなかった理由だ。我が覚醒し、召喚魔法を行使したがレヴィは今でもそれを悔いている。遅れたせいであんな事になったのは自分の責任だと。だから力を磨き、今は強引にゲートをこじ開けるという無茶までしでかすようになった』
ロベリアはふふっと笑って頬杖をつく。
『また悪魔は契約がなければ人間界で思うようには力は出せない。ベルとアンが聖女一行にボロ負けした理由だ。まぁ、たとえ契約があったとしても聖女相手に力は通用しないがな。だから聖女の元から救い出す時は骨がいったよ。逃げるので精一杯さ』
足を組み替えて、身体を伸ばす。
ロベリアはくるくると髪を弄りながら、過去に思い耽っている。
『そして我は先の大戦で聖女に負け、操り人形と化した。レヴィに始末を任せてしまった事を後悔している。唯一の心残りさ、自分で自分の後始末を出来なかったことは』
「ロベリア」
『話だけじゃ退屈だろうと映像も見せてやったが聖女とは人間とはこういう一面もあるんだと教えたかっただけだ。なに、気にするな』
彼女は慰めなんて求めてないのもわかってる。
「ロベリアに、レイリアに逢えて良かった」
それが残酷な言葉でも、感謝せずにはいられなかった。
ここに来るまでに普通に死んだ方が良かった、大好きな家族に逢いに行きたいと何度彼女は願っただろうか。
魔王という魂に囚われ、あの世にさえいけない。
『我も。ずっとシズマに逢いたかった』
「レイリアを産んでくれたお母さんとお父さん、そしてレイリアを笑顔にさせてくれていた妹さん、ロベリアの大切な悪魔、ロベリアを幸せにしてくれてありがとう」
『バカが。我は、私は…何度死にたいと思ったか、後ろを向いてお母さんやお父さん、リオの元に行きたかった……だが、お前らのようなバカがいるから私は』
泣いているロベリアは美しかった。
綺麗な涙が彼女の心のありようを現しているようで。
魔王ではない、今はただ一人の少女。
『私はお前らみたいなバカが好きだからっ放っておけないじゃないか…』
「ロベリアはお人好しだね。悪魔になっても変わらず優しいロベリアのままだから、レヴィ達が好きになるのもわかる」
『シズマ…』
「ロベリアを知れて良かった。ロベリアと逢えて俺は幸せだ」
『まだ早いわ。バカ。これからもっと幸せにしてやるんだからな』
ニッと笑うロベリアは悲しい過去はあったが幸せがなかったわけじゃない。幸福だった頃を忘れずその時代を生きた彼女は気高い魂のまま穢れずに今もいる。人を容易く殺め、それに罪悪感を感じず後悔などしない悪魔になったとしても、それは人間でも同じ事。人間も悪魔、魔女と知ったら容易く殺めて正義をうたう。そこに至るまでの過程は人間の方が残酷だ。ロベリアの過去の記憶にあった悍ましい悲劇は人間の醜さと汚さが生み出したもので、それは誰しもがやってしまうであろう過ち。指導者がクロだと言ったらそれを一遍も疑わず皆が信じて、悪なんだと糾弾する。否定すれば次は我が身だと家族を守る為だと、たとえ罪がない者でも処刑台へと送るのだ。
聖女でさえ、悪魔の存在は神に訊いたのに、ロベリアが魔女かどうかはちゃんと調べもせず決めてしまった。幼き少女への仕打ちを見ていながら、少女が怯えているのはわかっていた筈なのに。彼女が少しでもロベリアに気をかけていれば少しでも救われたのかもしれない。それだけの権力と人望、どうにかしてしまう力があるのに使おうとしなかった。
結果的にロベリアは魔王だったから相容れない存在かもしれないが、聖女がどういう人間かわかってしまって身震いする。彼女の一言で全てが決まる恐ろしさ。それをわかっていない若き聖女。当時、どれだけの者が彼女の言葉で血を流したか、聖女はその事に最後まで気付かなかったのだろうか。当時を生きていない俺は考えても仕方がないが、神と対話できる、神に愛された少女が行われた行為は神はきっと見ていた筈だ。
神はそれがどんな結果になろうと見て見ぬフリ。それが神だ、人間の信仰する絶対の正義の神様なのだ。
善悪とは。ロベリアの言う通り何が正しいのかなんてもうわからない。
ロベリアは最初は復讐だったかもしれないが、どこまでも優しい彼女は復讐だけの生ではなかった筈で、それに同朋を絶対見捨てないレヴィ達の存在があるからこそ今もこうやって笑っていられる。笑えるようになった筈だ。
だから慰めの言葉より彼女には温かい言葉を送った方がきっといい。
『既に過去だと割り切っていたが、誰かに知ってもらうというのも悪くない感覚だ』
「もっと話をしよう。これから先はまだ長いしこれからもよろしくな」
『ふむ。身体から始まる関係も悪くはないか』
「それは…その」
顔に熱が集まる。
こういう話題になると男は弱い。
『照れるな。まるで弟ができたかのような気持ちだ。可愛いやつめ』
「弟じゃない。俺も一人の男だ」
『そうか…』
「ロベリアも一人の女の子だ」
今度はロベリアの顔が赤くなる。
「だからそのこういう事はちゃんと好き同士になってからにしよう。俺の身体が大変なのはわかる。だが男として限界まで粘らせてくれ」
『シズマ…』
「ロベリアだって俺が本当の意味で好きなんじゃなくて俺しかいないからそうなんだろ?」
『我の感情を勝手に決めるな。我はとっくに好いておる。おヌシという雄が欲しい。シズマこそ覚悟を決めろ』
身体を引き寄せられ耳元で囁かれる。
『レヴィよりも絶対に惚れさせてみせるからな』
薔薇の香りがふわりと漂って、ロベリアの匂いを間近にあり擽ったい。
か弱い少女からいきなり男前な発言がいかにもロベリアらしくて少し安心する。
「その、いつも思うが距離感可笑しくないか」
『やはりシズマは可愛い。イルとしても可愛がってもいいぞ』
聞き捨てならない一言にどこまでもこの人に翻弄される未来を描いて、悪くない人生だと思う。
たとえこの先に困難が待ち受けてようとも彼女と共にいれば怖くない、そんな確信さえあった。




