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レイリア6



人が焼けた臭いが周囲に漂い、また歓喜と狂気がこだまする。

藁が敷かれ、風向きも良好でその日はよく燃えた。

人の悲鳴が掻き消えるほどの歓声と罵倒はこれから起きる事への期待か諦めか。

眩しいほどの太陽と信仰の元で行われる正義とは。

正義の前ではどんな事でも何をしても許されるというのだろうか。


神への疑いが罪だというのだろうか。

神聖なる火での浄化だと教会の偉い人は言う。魔女は人間ではない。悪魔に心を売った魔物なのだと。

これは慈悲だ、人間として死なせてやる為の儀式だと言うのだ。


「お母さん」


お母さんが焼かれている。どんなに叫んでも届かない。

下からどんどん火の手が広がるがゆっくりと足を焼くだけでなかなか致命傷にはならない。

なるべく長く苦しめば苦しむほど人間へと戻れる。

処刑人も慈悲の元、最期の優しさで良心でやっているというのだ。


空が焼ける。

苦悶の表情で普段のお母さんとは思えない絶叫が世界を揺るがす。

世を呪う言葉を吐き続け、ただただ自身が魔女である事を訴えている。

それを満足そうにあの叔父はお母さんを舐め回すかのように見ており、お母さんと目が合うと私を指差す。


「卑怯者!約束が違う!」

「娘は白状したぞ。自身が魔女であること、聖女様の前で。今更その決定は揺るがないし、それが真実だ魔女共よ!証人はここにいる民衆達だ!」

「許さない…っ許さない」

「娘も一緒に火刑へ処す!有り難く思え魔女ロベルタよ」

「レイ…リオ……ッ」


お母さんと目が合う。私は必死に潰れた喉で母を呼ぶ。

しかし無情にも火はお母さんを焼いていく。

どんなに叫んでも届かない。

神様は許してくれない。神様は助けてくれない。神様は私達に死ねと言う。

美味しいお菓子を差し入れしてくれるスーザンおばさんも私達姉妹の面倒をよく見てくれたマッシュおじさんも庭いじりが趣味でリオによく花をくれたヤンおじいちゃんもそのみんなが私達家族を責める。

リオと仲良かった友達やボーイフレンドだった男の子までお母さんや私に石を投げてきた。


「誰が先に当てるか競争だ」

「きゃーっあたい達を睨んだわよ」

「悪魔め!この魔女がっ!よくも騙してくれたな!成敗だっ」

「やった!わたし当たったぁ」

「ずりぃ!俺が当てたかったのにぃ」

「きゃははは」


頭から血が流れて皆が思い思いに叫びながら様々な物を投げてくる。

私達親子が何をしたというのか。


「おいおい。正義の執行を行なっている俺達にまで当たるだろ。困るよなぁレイリア。無駄にしぶとく生き残るから俺の仕事が増えちまう」


トミーおじさんはどうしようもないなと頭を掻く。まるでそれは夜中お母さんとお酒を酌み交わしている時のように。お父さんの墓前の前で朗らかに笑いかけている時のように。

私に笑いかける。


誰も止めてはくれない。誰も私達の無実を信じてくれない。

次第に皮膚や肉は焼け、骨だけが焦げて炭と化す。美人なお母さんのブロンドヘアはない。綺麗なベルベットブルーの瞳も、微笑みを絶やさない口元も私を撫でてくれた優しい手も全てが焼けた。

最期に本当の意味で全てを憎んだ母を民衆は再び魔女だと罵り、嘲笑った。


「くさーい」

「魔女め!ざまぁみろ」


私は許せない。全てを奪った人間達を。

地獄の業火に焼かれて死んでしまえ、最期にそう言った母の言葉。

私は復讐する。憎悪する。怒りの炎が私の中で息吹する。

優しくて温かくて思慮深く美しいお母さん。無邪気で明るく笑顔にしてくれる守るべき妹だったリオ。

奪われた大切な家族。これ以上貶されてなるものか。家族の尊厳さえ奪われてなるものか。



¨ワタクシを呼んでください。復讐を。愚かな人間達に禍を。ワタクシは貴方の味方です。ずっと終わりが来るまで共犯者にさせてくださいませ¨


火が上ってくる。瞼を閉じれば光が堕ちる。

悪魔の囁きが私に語りかけてくる。

グラ爺とミア婆に扮していた悪魔とは違う高いトーンの女の声。


¨怒りを力に、我という道具をお使いください。我が王よ。傍においてください。常に心は王の元に¨


男の声はこれも悪魔なのだとわかる、威厳と風格を含ませたモノ。彼女らと繋がったらどうなるかなんて神への反逆へと等しい。

本当は怖い。私はやろうとしていることはとても恐ろしい事で考えていることは人間の所業じゃない。

だけど私は止まれない。

私は許せない、私はこの世界が憎い。

心の中で叫ぶ者達の声がよく聞こえるようになる。私は人間じゃない。私は我。我は。


お母さんとリオが側にいるかのようなそんな感覚に陥る。誰かが手を握ってくれている。


魔王の魂達と呼ぶ者が我の中で力を貸してくれるという。我はもうレイリアではない。我は復讐の魍鬼と化す。復讐の為に我は人間である事をやめる。

さよなら、レイリア。

お母さん、お母さんの代わりに私が無念を、最期の願いを叶えるよ。

リオ、ごめんね。守れなくて。お姉ちゃん失格だよね。もうそちらにはいけないけど私は貴方の事を忘れない。


記憶が目を覚ます。魔王達の歴史が、魔王としての器が覚醒する。

頭に浮かぶ名前。悪魔は呼ぶ。


「我が名はロベリア。魔王ロベリアの名の元にレヴィアタン、アスモデウス。来たれ同朋よ」


瞬間、次元が歪むかのような錯覚。

地が割れ、風が強く靡く。

空間のゲートが開かれ、中から大量の魔物が押し寄せる。


「全てを喰らい、飲み込め」


その言葉に呼応するかのように魔は人間を、逃げ惑う人々をパニックに陥れ、一人残さず飲み込んでいく。ギリクとトミーを残して。


「ひぃっ!この悪魔め!やはり貴様は聖女様の言う通りだった!く、くるな…化け物めっ」

「コイツの指示だったんだ!俺は悪くない…助けてくれよぉレイリア」

「助けるなら叔父であるこの私を助けろ!ほらぁ今なら王家の一員に、リベリスタ家の者にしてやるぞぉ。この男にも復讐させてやる。権力も金も私という家族も与えてやるぞレイリアぁ」

「ふざけんな!俺を見捨てやがって!レイリア!今までお前ら家族を助けてやっただろ?リオリアだって俺によく懐いてたしだから慈悲(″″)をくれてやった。気持ち良い思いで早く死なせてやったんだ!お前が我慢すればお姉ちゃんだけは助けてやるって!希望を持たせて苦しみから解放してやったんだっ」


掌には暗い炎を。

夜明けはもう来ない。世界を闇に包むまで、我に安息の地はない。

全てを焼き尽くすまで終わらない。この焔は誓いだ。いつか光は我を焼き殺す。その日まで我も止まらない。

もう何も奪わせない。奪うものなら奪ってやる。蹂躙し破壊してやる。運命さえも神様も復讐してやる。


「地獄の業火に焼かれろ」


涙は枯れた筈なのに止まらない。

我は魔王ロベリア。もう人間ではいられなかった愚かな娘。大切な者を守れなかった罪を一生背負いながら生きていく。


「ロベリア様…」

「申し訳ありません。到着が遅れまして」

「ワタクシがもっと早く来れれば貴方達家族を」

「やめろ、それ以上言うな」

「いえ、我等の落ち度です。この石を道標にしていましたが、聖力が帯びたこの場所で少々時間がかかりすぎました」

「警護につかせていたベルゼブブ、アモンでは聖女と聖女の加護がある騎士相手に為す術がなかったようです。人間との契約無き今も生命を繋いでいるのがやっとでしょう」

「顔をあげよレヴィアタン、アスモデウスよ。我があの時に契約していればいくら聖女相手とはいえ逃げられたかもしれない。悪魔の力に恐れなければ母と妹も救えたかもしれない」

「ロベリア様」

「我等が王よ」


悪魔達が我を抱擁する。


「無礼を働き申し訳ありません」

「よい。暫くそうしてくれ…」


母とは違い冷たい骸のような抱擁だが、不思議と悪い感じがせず、ぽっかりと空いた胸に熱いものが注ぎ込まれる。

我は枯れた筈の涙が流れてくるのを感じた。

熱い血潮は我を人間であった事を思い出させ、遠く感じてたものが手の届く範囲にあるかのように。


我はもう人間ではない事を実感して涙する。


だけど我は全てを失っても一人ではなかった。


「レヴィと呼んでください。ロベリア様」

「なら我はデウスと」


魔王ロベリアはここから始まった。

復讐を糧に生きる魔王が安息を得られるのはもう少し先だが、茨の道も悪くないほど家族が沢山できた。仲間がいた。

笑おう、気高く。生きよう、燃え盛る焔のように。

明日は望まない。

今を生きて蝋燭の炎のように燃え尽きるだけだ。


ハッピーバースデー、ロベリア

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[一言] ハッピーバースデー……デビルマ……うっ、頭が
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