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レイリア4

冷たい水が頭上から降りかかる。

身体が軋みを上げていて顔を上げられない。それでも少なくなった髪を無理矢理持ち上げられる。

古びて砂利だらけの牢獄。手足も擦りむけてジンジンする。ジャラジャラとなる鎖が私を拘束し、気絶している内に光の当たらない牢獄に入れらた。

虚ろな頭は目の前をぼかし、重い身体をさらに気だるげに揺らすだけ。

私を捕まえた人達ではなく、どうやら街の警察の人だ。見覚えがあり少し希望を見出すが、その瞳は憎き仇を見るような淀んだ目でどうやら私の味方ではなさそうだ。


「おい、反応が悪いじゃないか。アレを持って来い」


水を入れたバケツに勢い良く顔を入れられる。

熱と激痛で傷む身体で必死に息ができないでもがいていると、ギリギリのラインで引き上げられる。


「目が覚めたか?なら、行くぞ」

「……た…す、けて…」

「気持ち悪い。今までよくも騙してくれたな」

「トミーおじさ…」

「黙れと言ったんだっ」


なんの事かわからない。顔見知りのおじさんに唾を吐きかけられる。

混乱している内に足枷を外して手錠だけにするとトミーおじさんに引き摺られ、そのまま移動する。

摩擦で磨り切られる肌と時折ぶつかる角で頭から血が流れる。抵抗する気力は起きずに呻き声が口から出るだけ。


街中の中央広場に連れて来られた。

沢山の大人達がいる。このすたびれた街に似合わない豪奢な台が置かれ、その上にいるのは綺麗な白いドレスを身にまとった女性がいる。

私は地面に置かれたまま見上げると、トミーおじさんに殴られる。


「聖女様の許しが出るまで顔を上げるな罪人が」


せ、い、じょ?


「やめなさい」

「聖女様…?」


ザワザワと騒ぎ立てる民衆達。


「幼い子を殴ってはいけません。もし冒していればいずれ罪は明らかになります。それまではこの街の、この世界に産み落とされた我ら等しく神の子なのです。さぁ、顔をおあげ」


強制的に顔上げさせられる。

聖女と呼ばれる女の傍に私を酷い目に合わせたあの男がおり、ゾッとする。何か嫌な予感がする。何かよくない事が起こるような、恐怖を感じる。


「乱暴にするな、と言ったばかりです」

「ですが、聖女様。この者の罪は確かなものです。我、ギリク・ロン・リベリスタが証明します!王家の正統な後継者であった我が兄、ランベルト・ロン・リベリスタを惑わせた魔女ロベルタが産み落とした悪魔の子なのです!証拠としてこちらを見てください!」


そう言って連れて来られた人物達に見覚えがあった…

ミア婆とグラ爺だ!名を呼んで叫びそうになるけど声は出ない。パクパクと魚のように口を開閉するだけ。

二人はボロボロで怪我も酷い。包帯だらけの身体だが、乱雑で焼け焦げたかのような傷がいくつもあり、ある筈の物がない。ミア婆は右足を、グラ爺は両手がない。

辛うじて立っているだけのその姿にムチを打つかのように後ろからやって来た騎士が言う。


「聖女様の前だ、膝まづけ」


白い純白の鎧を身に付けた騎士の男は梢に納められた剣を振りかざし、ミア婆とグラ爺を殴って強制的に膝をつかせる。

支えが疎かな二人は地面に叩きつけられ、私のように何か口を動かしているが何も言葉はでない。しかし、見えてしまった……舌が、舌がないのだ。

二人にあった筈の舌さえない。私があんな酷い目に合ったのだ。二人はもっと想像を絶する恐怖があったかもしれない。


「魔物め、正体を現せ」


梢を引き抜き、キラリと光る刃。

神々しいまでに光を収束させ、焔を纏う。


「聖なる炎で再び焼かれろ。汚らわしい化物め」


やめて、とやっと声が出るけど、焼かれた二人は苦悶の表情を浮かべながらみるみるうちに顔や体型などが変わっていく。

ミア婆は鴉のような漆黒の翼を生やし、黒とピンクの長い髪から覗く大きな羊のような角、垂れ目の瞳から二つの泣きぼくろ。息を吐くだけでこの世の者とは思えないほどの美女がそこにいた。

グラ爺はキラキラと結晶のようなつららが幾重にも垂れ下がった羽を生やすと、黒と青のおかっぱ頭から山羊のような鋭い角が伸びている。その角も結晶だ。顔も端正で整った美少女で、釣り上がった瞳から激しい憎悪を感じる。

怪我はそのままで炎でさらに肌を焦がしていくが、二人の口から声は上がらない


「魔物…?」


ゴクリ、と動揺した聖女が息を飲む。


「サーシャ様、これは…?」

「すぐに神に問いましょう」


聖女様の周りに眩いほどの光が集まり、祈るように手を合わせる。

ぶつぶつと何かを喋っており目を閉じながらも口元は動いている。本当に神様と対話をしているようなその様子に周囲にいる者達も生唾を飲んで見守っている。

しかし聖女様の顔から一筋の汗と焦り困惑したような表情。後光は消え、次第に何かを決意したような暗い表情をそのままにもう一度こちらを向く。


「悪魔、だそうです」

「悪魔……?」


初めて見るそれに驚いたような騎士の男。


「悪魔とは世に蔓延る邪悪な魔物を使役する者。この世界に滅びをもたらす魔物よりも恐ろしい存在で、人間が足を踏み入れるとたちまち死に至らしめる魔界に住まう怪物……神の怨敵です」

「神話上の生き物じゃあ…?」

「私も初めて見ましたが神様が言うのだから間違いありません。悪魔が魔界から人間界にやって来た時、魔王復活の兆し。この者達を殺し尽くさなければ我ら人間が虐殺され世界は火の海と化すでしょう」


聖女様のお言葉に周りがざわめき立つ。

魔王という単語に異様に反応し、口々に絶望感を漂わせた言葉が紡がれる。


「この悪魔、聖女様から頂いたお力のこの炎でもすぐに死にません。魔物でさえ、この炎の前では全て死滅し、どんなに強き魔物でも生きているものは一匹としていなかったのに。そんな魔物よりも強い存在がわざわざ人間になりすましてまでこの辺境の地にいるとは思えません」

「神様が言うには悪魔は人間に召喚されてやってくるそうです。必ず召喚した術者がいます」

「その可能性が高いのは一緒にいたそこの子供です。悪魔に魂を売った魔女である可能性が…」

「いえ、リベリスタ卿の言う通りもしかしたらその子の母上かもしれません」

「それはその子供を調べればすぐにわかるでしょう」


白騎士に言われ聖女様が私に近づいて来る。

トミーおじさんに首に刃物を突きつけられ、動くな、何もするなと言われる。

先程まで救世主のように見えていた聖女様だが恐ろしい化け物のように見えて、身体の震えは止まらない。

私が何をしたんだろう。グラ爺やミア婆はどこに行ったのだろう?グラ爺やミア婆のフリをしていたあの悪魔達は誰なんだろうか。


リオは、妹は無事なんだろうか。



¨レイリア様。我が名を呼んでください。我が名は…¨

¨我等が魔王様。親愛なる主よ。早く、その名を呼んで……我が名は¨



頭に響く声。

誰の声だろうか。女の人の声だが、聞いた事のない人の声だ。

二人の女の声。まさか、と思い二匹の悪魔を見ると目が合う。

目でも語りかけてくるように何かを訴えてくるようなそんな気迫さえ感じてたじろう。


瞬間、言葉の意味がしっかりと頭の中で反響し、悪魔に魔王と呼ばれた事に頭が沸騰したようにカッと燃え上がる。


「やめてっ!」


目の前にいる聖女様を一瞬忘れて、その手を振り払ってしまった。


「私に語りかけないでっグラ爺とミア婆を返してっ」


ハッとなって周りを見渡したがもう遅い。まるで私がクロとでも言うかのような口ぶりと態度に皆の顔つきがより一層厳しいものへと変わってしまっている。


「ちがっちがうの…」


聖女様でさえ、顔をしかめ決断をしたかのように瞳を閉じて口を開く。


「私も信じたくはないですがそのようですね」


死刑宣告だった。

笑いかける死神。私は弁解の言葉を、情けをもらおうとするが言葉はそれ以上発せられなかった。

レイリアやお母さんがどうなったかも聞けずにそのまま私は意識を落とした。







そして私はまた牢獄にいた。


「敬虔な聖女様に感謝しろ。こんなお前にも食事を与えるように願い出た」

「まぁ、食事といっても悪魔と契約した魔女への最後の手向けだけどな」


ベシャリとカラスと黒猫の死体を置かれる。

黒々とした瞳が私を見つめ、血塗れの身体で地面を濡らしていく。腐臭が鼻をつき、無惨な死体がそこにいた。

この死体達が何をしたのだろう。惨い殺され方をしたこの動物達は何の罪があったんだろう。私はこれからどうなるのか、レイリアやお母さんの事を聞きたいが私は死体達を口に詰め込まれ、喋ることすらできない。

まだおかわりがあるとでもいうようにゴム手袋をしたトミーおじさんが大きなバケツの前でトングをカチカチと鳴らしていた。


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