魔王はほくそ笑む
『無理だ』
キッパリと断られてしまったがなんとなくそんな気はしていていた。
レヴィにとって特別なようにこの人にとってレヴィは大切な人には違いない。だったらとっくにできるならしているだろう。
『我は死んだ者だ。既に身体は朽ち果てた存在…魂のみとなったが転生したり誰かの身体を乗っ取ったり入ったりなどはできない。我は魔王の礎になる者、歴代魔王の皆がそうだ。今代魔王に魂ごと全ての力を捧げるだけの存在だ。
先代魔王は今代魔王を導く為だけにその代が潰えるまで意識があるだけだ。意識といってもほとんどが眠り、宿主が活動をやめ、眠っている時のみ目覚める事ができる。乗っ取ることができるほど強い精神性は持てない。我は既に死人だ。本来の我の絞りカスのようなものでいずれは潰える意志だ』
「そうか…」
『それと異界の魂よ、元の身体の持ち主など残念だが存在しない。魂など最初から有りはしなかった。ただ死ぬ運命にあった赤子に宿った魂だ、貴様は。元から魂がないなら憑依ではない、これは転生だ。
産まれた時からの問いに答えるとするならシズマとしてかイルとして生きるかそれは貴様次第だ』
「なぁ、思えばなんでもっと早くから姿を見せてくれなかった?産まれた時から魔王の力というやつがあったならロベリアもいただろ」
『いたさ。ただ力の覚醒が兆しが見えるまで静観しなければいけないというルールがある。それにレヴィがいれば我などいなくても事足りると思い、また貴様が抱く悩みも自身で解決しなければ意味のないものばかりゆえな。見守ってはいたが』
「誰かがいる気配を感じだのはそういう事だったのか…」
アビスを使われた時も隣に誰かがいるような気がした。あれはロベリアだったのかもしれない。
魂に干渉する機械ならばロベリアにも何か影響があったかもしれないし、俺が無事だったのも異世界人の魂という理由だけではなくてロベリア達、魔王の魂が守っていてくれたのなら…
『ふっ。あまり不細工な顔をするな。罪悪感ではなく感謝の念を抱け。負の感情ばかり囚われるなど愚かだぞ』
「ありがとう」
『あぁ、それでいい』
「そういえば話してて思ったが俺の思考とかも読めるのか」
『当たり前だ。貴様の中にいるのだから』
「筒抜けって事か…」
『いいぞ。代わりに我の事教えても。相手は自分の事をなんでも知っていて自分は相手の事何も知らないのは気持ち悪かろう。我も経験あるからわかるぞ。
だから包み隠さず聞かれた事は全て答えよう。
そうだな、知りたそうにしてる事が沢山あるな。まずはレヴィ達との関係を教えてやろう。我の退屈な過去よりはそちらの方が貴様も興味ありそうだ』
別に、と口から出そうになったが気にならないと言ったら嘘だ。
相手だって俺の言いたい事はわかっている為、返答を聞かずペラペラと喋り始める。
『我はレヴィに少女のようなときめく恋をし、デウスと性的な付き合いをした…全ての悪魔に母性を抱き愛した女だ。
全ての悪魔を愛していた…なに、レヴィだけじゃない。魔王は贔屓するものじゃないが特別レヴィとデウスを可愛がったものだ。二人を見ているのは退屈しないしな』
「待て。情報量多くてわからない」
レヴィに恋をして、デウスとかっていうやつと付き合ってた?悪魔の母のような存在?
『言いたい事はわかるぞ。悪魔なら一夫多妻も一妻多夫も普通な事だ。また性別も近親などの人間では禁断と言われる類も関係ない。欲望のままに振舞う。…慣れろ、それが悪魔だ』
レヴィもそんな事を言っていたな。
ただレヴィは独占欲強そうな感じがするからそのデウスなんかとは仲が悪そうだ。そういえばアイツ、と言っていたのはデウスとかってやつかな。
『デウスについてはいずれ会うだろうから多くを語らんでもいいだろう。ただの変態でレヴィの良き理解者だ。よく喧嘩はするがな。
話を戻そう。我とレヴィは性的な付き合いはせずあくまで上司と部下。レヴィには確かに恋をしていたが清い関係だ。いくらレヴィも我の事を好いているからと言っても夜伽は応えるつもりはなかった。あやつの処女を奪う気にもなれなかった』
「はっ?」
『知らなかったか?レヴィは淫魔だがセックスなどした事がない生娘だ。淫魔にとって必要な精気などレヴィのクラスになるとあまり必要はない。腹が減ったところで精々キス一つで腹が満たされるぐらいだ』
勝手に淫魔というだけで経験豊富なイメージを浮かべていた。
それで俺はからかわれているだけだと。
『レヴィは馬鹿な事は考えられない肉体言語な悪魔だ。勘違いしてやるな。純粋な悪魔などここまではいない。
我も手を出すには綺麗すぎた…デウスくらいが丁度よく性に合ったから奴で性欲を満たした』
「レヴィがそれで傷付くと知っていても?」
『悪魔はハーレム思考で性に寛容だと言っただろう?別の意味で愛したさ』
なんだか複雑だ。
前の世界でもそういう国があったり、日本でも昔お偉いさんが愛人を沢山侍らせたり…理解は出来なくはないが、気持ちまではついてこない感じだ。
『ふふっ安心しろ。同胞のお前も愛の対象だ…我が慈しんで魔王として育んでやる』
「同胞にならなかったら?」
『それでもいい。我も元人間だ、人間でいたい気持ちがわからなくはない。
ただ貴様の選択でどれほどの影響を周囲に与えるか悩み苦しめ。どちらにしろ被害は悪魔か人間のどちらかだ。どちらをとるにしろその結果で後悔しなければいいさ。まぁ、人間を選んだ時は我が愛しき悪魔達を捨てた事を恨むがな』
「俺は人間だ。けど悪魔を嫌いになれない」
『人間の汚い部分を知りつつ人間に拘るのはいいが、貴様はもっと悪魔を知れ。否定をするな』
「別に否定はしていない…」
『力を受け入れろ。受け入れたところで貴様がなくなる訳でもない。人間でなくなったところで時が経てば変わる価値観など些細なものだと思ってくる』
「それが嫌なんだ。俺は半分とはいえ既にもう物事の見方が変わっている。変化を恐れている。人間は善意と悪意を両方持ったタチの悪い生き物で、俺はその汚い人間だ。それを忘れたくはない」
ぎゅっと拳を握り締める。
過去がちっぽけなものだったと笑いたくはない、人殺しが当たり前だと思いたくない。
たとえ最低な親だったとはいえ、俺はしてはいけないことをした。
俺はどんなに取り繕おうと罪人だ。




