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佐伯先生





広い敷地の学園につくと、一応ドライバーに礼を言い、車からおりる。

ささっと行けとでも言うかのように舌打ちされてしまったが。



小鳥遊 エルは保健室登校だ。

俺は健康体だが、エルが戻ってきた時の事を考え、一応重い病を患っている設定だ。

メンツどーのこーの言っていたくせにそれはどうなんだ?と思うが、俺は別に構わない為口には出さない。むしろ、他人と会話する機会が少ない為、ボロが出る事も最小限に抑えられるし。好都合だ。


保健室までの道のりで生徒に出会う事もない。たまに会うのはサボっている者とやむ得なく授業に出れなくなった者だけ。

身体に悪いからと人混みや混雑を避ける為、9時登校のところ、俺は10時登校となっている。


この学園の保健室はいくつもある。魔法の実技で傷付くことなど日常茶飯事にある為、保健室は複数用意されているが、その中でも特別な者しか入れない部屋がある。

黄色い縁どりが特徴的な扉には「特別重病者専用保健室」と札が下がっており、実質小鳥遊 エル専用教室だ。


ガラリと扉を開けると保健室独特の臭いが立ち込める。

壁もベッドもシーツもベッドに備え付けられておる簡易な机も白しかない部屋。一つしかないベッドはまるで病室のようでこの部屋自体が異空間に感じる。

無駄に広い保健室の奥には扉があり、その扉の奥に保険医がいる。

コンコン、とノックをし扉を開ける。



「おはようございます」

「おはよう。では、昨日の続きをするかぁ」



ふぁ、と欠伸をし、書類を纏めている保険医の名前は佐伯先生だ。

小麦色に焼けていて体格のいい佐伯先生は保険医というよりはむしろこの学園では武闘を教えた方が似合うのでは?と思われる見た目をしているが、本人曰く


『嫁に言われたから身体を鍛えただけだしー。むしろ、家でグダグダしてる方がすきぃー』


らしい。

既婚者で愛妻家。少し抜けているが、優しくしっかりしている先生だ。

この先生は俺が女だとか事情を知ってはいない。学校側には話してないからだ。それだと何かと大きな怪我した時とか何かあった時にまずいんじゃないのか?と思うが、小鳥遊家はバレる前提で考えておらず、バレたらお(イル)は死刑ということだけ。

一番困るのは小鳥遊家なのに短絡的発想だなとか思ったりするが、要するに俺がボロ出さなきゃいいだけで、幸いボロが出そうな武闘の授業は俺は免除されており怪我とは無縁だ。



「教科書24ページ開いてー。今日の課題はここの問題が解ければよろすぃ」



教科書を見ながらスラスラとノートに問題を書き写す。



「エル君は相変わらず頭がいいなぁ。ささっとその問題も解いちゃうなんて。なのに、筆記のテストがそこそこなのは何故だい?」

「本気を出すのが面倒臭いからです先生」



本気を出せないからです先生とは言えず、初日でボロを出した事を悔やむ。今更隠すのもアレなんでそのまま押し通しているが、イルの頭は良く出来ている。

教科書見ただけですぐ丸暗記もできるしどんなに難しい問題もお手の物。ハイスペックコンピューターだ。

まともに運動も武術もしていないで怠けているのに、入学当初の武闘のテストでは見様見真似の武術を披露し、いい成績を出しそうになった。危ない。

自分が思っているよりこの身体はハイスペックで、本当に人間なのか疑いたくなるほど優秀だ。



「君は自分の力を隠す節があるね、ふむ」

「ご謙遜です、先生」

「あまり筆記などは評価されないからやる気が出ないのも仕方ないねぇ。まぁ、それとも身体に無理がないようにしているだけの自己防衛かな?偉いね、よしよし」

「だから買い被り過ぎですよ。私は確実に前者です」



やばかったがなんとかピンチを切り抜けた俺は問題を解いていく。

暫くして身体を解すと先生は30分休憩していいよ、と言ってくれる。

身体を気遣ってくれており、結構授業はゆるゆるだ。必ず休憩を挟んでくれるし、ちょくちょく大丈夫かと声もかけてくれる。

少し罪悪感もわくが、すぐにかき消す。

休憩している間に魔導の本を読む。


魔法とはイメージだ。

魔法は結局は生まれながらの才能で全てが決まる。

そんなことばかりが書かれて、後は歴史で大半が埋まっている教科書。

それがこの学園で支給されている教科書であり、一般的な魔法についての教本である。


しかし、佐伯先生がくれた本は違う。

どのように上手く少ない魔力で効率的に運用するかだとか魔法の威力や精密さには練度も関係していることなど、実用性を兼ねた教本となっている。

これは佐伯先生が執筆した本で、身体が弱い者や魔法が得意でない者にも良い成績を取れるよう、戦場に行っても生き残れるよう、支給しているらしい。


一概にも学園が支給している教本が悪いとも言えないが、俺はこの本を愛用している。

入学式を終えて1ヶ月は経つというのに、ハイスペックな脳でも暗記はできても理解はまだできていない。

それほど奥深い本なのだ。


昔、魔の軍と人間の間で起こった大きな大戦にも参加し、生き残った経験からの教訓や研究者としての一面を持つ佐伯先生は本当はもっと上の地位につけたのに、一般人の嫁と子を持つ先生は普通の暮らしを望んで昇進を蹴った。だけど、早死にしやすい魔法使い達を少しでも生き延びさせてやりたい思いから先生になったのだと言う。


付き合いは1ヶ月とまだ短いが、俺にとって今世でもっとも尊敬に値する先生であり、信頼できる存在だ。‥‥‥‥‥それでも本当の事を言えないが。



「本を読むばかりでなく、ちゃんと休憩しなさい。脳を休める事も仕事である」



紅茶とケーキを出してくれる。

今日の紅茶はアールグレイか。ベルガモットのいい香りがする。

ケーキも先生、手作りで美味そうだ。ふわふわと柔らかいシフォンケーキに生クリームが添えられている。



「ケーキ食べた後でアレだけど、お昼は何がいいですかい?私がいつも通り作るでも、私の料理に飽きたなら購買で買ってくるし、出前でもなんでもOKだぞー」

「先生が作ってくれたら嬉しいです」

「えー。本当にエル君は私の料理が好きだなぁ」



入学当初、初めて食べた先生の料理の味が忘れられず、ずっとそれからは先生の手作り料理の虜だ。

最初は負担になるんじゃないかと考えたが、どうせ自分のお昼作るついでだしと言いくるめられ、結局いつも作ってもらっている。

材料などは食堂で貰ってくるらしいのでお金については大丈夫らしい。

ちなみにこの学校の食堂や購買はタダだ。




「お昼食べたら、午後は魔法の実技でーすっ」



今日のお昼は味噌煮込みうどんでした。









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