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皆口 藍3



結論を言おう。


琴葉は転生者ではなかった。

直球に聞いてみたが原作由来の天然っぷりを発揮して本当に意味が分かっていない感じだった。



「そういえば!マホヨメ…って知ってる?」

「まほ?藍ちゃ〜ん!私はまほちゃんなんて子知らないよ?むしろ頼ちゃんなら知ってるのから言うならばヨリヨメ?あっ!でも頼ちゃんが読め?ってどういう意味かな?」

「ううん!いいの!…琴葉は前世って覚えてる?」

「前世?う〜ん…前世は蟻だったかな!きっと暖かい地面の上でちょこちょこ女王様な為に働いていたと思う!藍ちゃんは?」

「えっ、あたしは…人間だったと思う」

「そっかぁ、じゃあ私は藍ちゃんに潰されちゃったか蜜吸われちゃったかな?」

「ちょっ、蟻は蟻でも蜜蟻だったのっ?」



あははと笑いながら密偵必須のスキル、あたしに対して嘘がつけないそんな魔法を密かにかけたし、この子はシロだと思う。



「変な藍ちゃ〜ん!なんで蜜は運んじゃいけないのっ」

「そんな事はないわよ。でも琴葉は鈍臭いから簡単に捕まえてちゅーちゅー吸えるわね」

「えー!嫌だ!藍ちゃんのバカ!」



こんな直球で聞いたのに変な勘ぐりを入れてこないことには安心した。流石ヒロイン。

あたしの心配を他所に全く疑う気配すらないし、簡単にあたしを信用してくる。

これだったらあたしが攻略キャラ達を容易に奪えて、あたしが聖女でヒロインをパーティの端役に追い込めるかもしれない。まさしくゲームの世界では皆口藍がポジションだったとこに。

密偵がメインに目立つなんてクソ笑えるけど下克上は夢じゃないように思えてきた。

傍から見たらあたしは悪女みたいな所業かもしれないが、そもそも下克上でもしない限り、好きな人とは結ばれずただヒロインの足台になるだけのキャラ。情報を運んで支援するだけの親友とは名ばかりの端役。パーティに必要不可欠かもしれないが誰も有難みを感じない。全てヒロインに持っていかれる。END後なんて語れられない不安定な人生が約束されている。

ヒロインが結ばれてからじゃなきゃおそらく主人だって持てない。物語中、皆口藍は誰も主従関係を結ぶ描写は一切なかった。


あたしの人生はヒロインのせいでめちゃくちゃにされるのだ。

だったら今のうちに少しくらいいい思いをしたっていいじゃないか。ヒロインが悪いわけじゃないのはわかるし、攻略キャラがどうしてもヒロインを好きになるなら諦めて応援する。

でもあたしの人生までは諦められない。


矛盾してようと構わない。これは二度目の人生なのだから。



「藍ちゃん?ぼーっとしてどうしたの?」

「ううん、なんでもないの」

「ねぇねぇ藍ちゃん、さっきからこっちを見てくる人がいるんだけどなんなんだろ?」

「!」

「気のせいかな?誰かに用事でもあるのかな?」



緑髪で右目を隠し、左耳に大きなクロスのピアス。

上半身は制服を着ず、黒のタンクトップ姿。

日本人とは思えない193cmの高長身で教室の入口でこちらを少し威圧的に見つめている。

周りの男子生徒は萎縮し、女子はきゃあきゃあと騒ぎ立てるだけで誰も声をかけようとはしない。


天羽莉久がこっちを見てるイベント…ここで皆口藍はヒロインに行くように指示するのだが…



「あたしが行ってくるね!」



席を立ち、教室の入口の方に向かう。

見下ろされる長身で内心ビビるがそれでも生で会えた事に感激を隠せそうにない。

カッコイイ…!晒された細いながらもちゃんとついてる腕の筋肉とか、男らしい骨格とかまた遥斗きゅんとは違うイケメン感がある。

大きな身体でヒロインを包み込み、小さなうさちゃんだからと言って守っていく。ああ…涼しい目元もたまらない。



「どうしたの?何か用事があるの?」

「コレ」

「ああ!琴葉のハンカチね!あたしが代わりに渡してあげる。琴葉に代わってお礼を言うわ、ありがとう」

「そう」



1-2 桜川琴葉と書かれたピンク色のハンカチを握りしめ感激した。

やっとイベントが邪魔できた…!やった!

あたしは天羽莉久が上級生であるにも関わずタメ口で言ってしまったこと、内心後悔したがもう遅い。テンションが上がりすぎてすっかりあちらが年上だって忘れていた。

まぁ、一度やってしまった事は遅いし、次会った時にでも謝ればいいだろう。

天羽莉久はそんな事気にもしない性格だが。

恐そうに見えてただの少し天然の無気力系イケメン。特に何も考えてない。

最初のイベントは落ちていたヒロインのハンカチを拾って届けに行く、教師に渡せばいいかもだがただ単に兎の刺繍の可愛いハンカチだったからってだけの理由で届けに来てくれる。このイベントは『あの時の…』ってくらいな印象だから、名前も覚えてない。顔をうっすら覚えられるイベントだから、これで上々なのだ。



「藍ちゃん!大丈夫だった?」

「ほら、琴葉のハンカチ」

「あっ、失くしたと思ったら…さっきの人が拾ってくれたの?お礼言いに行かなきゃっ」

「いいのよ。あたしが代わりに言っておいたし、何度も言いに行くのは迷惑でしょ。もう授業だって始まるし」



そう言って、ヒロインを言いくるめるとあたしもほくほく顔で席につく。

本命の遥斗きゅんは琴葉のせいで失敗したけど、あたしがこうやって阻止すれば上手く事が進むんだな…って実感する。


次のイベントは……と記憶を思い起こしながら、これからの未来に想いを馳せた。









小鳥遊 エル。

見た目は中性的な病弱系の儚げイケメンだが、本当は敬語で毒を吐くドSキャラなのだ。眼鏡はかけていない。

最初のイベントは小鳥遊エル専用の保健室に間違えて迷い込んだヒロインがそのままベッドで眠りこける。

登校した小鳥遊エルに布団を引っペがされ起こされ、初対面を迎える。

『授業始まってしまいますよ。リボンの色…一年ですよね?具合が悪いのなら今日はこのままここで寝てもいいんですが…ここは一般保健室ではない事を一応言っておきます』

『はぅ…ふぁっ…ごめんなさい。間違えちゃいましたぁ』

『大丈夫ですよ。先生には説明しておきますし、寝てても』

頭を撫でられ、また心地よい眠りが襲ってくるそんなイベントだ。

マホヨメの王道ルートは全て暗記している。分岐ルートはやってないからわからないけど一通りのキャラのハッピーエンドは分かってるし、後はハーレムエンドに行く為にそこそこ皆の好感を上げていかなきゃ!


だから小鳥遊エルが登校してくる前に布団に入っておく。少し暗いから窓を開けておいて、部屋も明るくして換気しておく。よし。幸いここの担当医はいない。

ふかふかの布団に心地よくなりながら、鼻にいっぱい香りを吸っておく。いや、シーツは毎日取り替えているだろうけど、二次元キャラが眠るベッドの匂いは思わず嗅いでおきたいじゃん!ここは三次元だけど!


そうこうしているとコツ…コツ…と足音が近付いてくる。

扉を開けた時はとうとうかと思った!ドキドキしっぱなしで、期待と緊張で胸がいっぱいになる。


足が止まった!



「ううん……」



もうすぐもうすぐと早まる気持ちを抑えながら、自分なりに少し艶かしい声を出してみる。不自然すぎない程度に。

女装が似合いそうな綺麗な作りをしている小鳥遊エルだって紛うことなき男だ。

思春期の男は女の子の声が聞こえたら、気になって仕方ないだろう。しかも女の子とは今まで縁がなかったのだから尚更。


どうだどうだと目を開けて、布団を退かして彼をしっかりとガン見したい気持ちを抑える。



「あぅ…んふっ」



時間が長く感じる。



「……?」



なんだ?足音が遠ざかっていくぞ?

待ち切れなくて起き上がると、そこには誰もいなくて。



「えっ?小鳥遊エルではなかった?」



他人だった可能性はある。もう一度の布団に入って待つか…

その後ここの担当医が来るまで爆睡してしまったのは恥ずかしかったし、だいぶ怒られた。だけどそれよりもイベントを逃した事は悔しかった。




「藍ちゃん!昼休みから見えなかったけどどうしたの?」

「ちょっと具合悪くてね…」

「えっ!大丈夫?」

「今はもう大丈夫よ」

「じゃあ心配だから早く帰ろう?」

「ううん、元気になったからこれからクレープでも食べに行かない?」

「クレープ!食べたい!」



放課後、琴葉と一緒に談笑しながらクレープ屋さんに向かった。

何故イベントが起きなかったのか、まぁあたしが爆睡したせいなんだけど。

バカバカと頭の中で自分を戒めながら、次またやればいいかと気持ちを切り替えていると、ふと琴葉が立ち止まる。



「あっ、あの時の…綺麗な人」



そう声を発して、あたしも振り返るとそこには待ち人がいた。


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