皆口 藍2
聖ユールフィア学園に入学してすぐに赤髪の俺様こと東雲遥斗と初めて接触した。
ヒロインは確か校内で学食を食べていた彼に水をぶっかけてコンタクトをとっていたからそれにならってあたしもさりげなくというか転けるフリをして水を遥斗きゅんの頭にぶっかけたわけ。
勿論これはテストでもあった。本当にゲーム通りになるのか、ヒロインではなく親友ポジである皆口 藍が行ってもイベントは起きるのか。試してみる価値はある。
幸いヒロインはまだ近くにおず、イベント前だ。
ちっ、という舌打ちと共に首根っこ捕まれる。
「失せろ」
あれ?
確かマホヨメでは¨よくも俺に水をかけてくれたな、女……後で生徒会室に来い¨
それで¨罰として俺の女になれ¨というイベントが起きるのだが台詞が違う。
「待って下さい!ハンカチ…」
「何度も言わせんなっ失せろって言ってんだろーが」
「でもあたしのせいで!」
「はっ!少しは隠そうとしないのか?その媚びた視線バレバレだ…皆口の女」
耳元で囁かれてカッと顔が熱くなる。
ドクンドクンと心臓がヤバいし、生の遥斗きゅんの男の子特有の薄く平べったい唇から放たれる美声で脳味噌が孕んでしまうんじゃというほど口から黄色い声が出そうになる。そうかこれが2.5次元の魅力!ビバ転生!
って、あたしオタク恋愛脳を発揮してるんじゃない!
「なんで皆口家の事知って…」
「きゃっ!ごめんなさい!」
ばしゃりとカレーが遥斗きゅんの頭にかかる。
「あわわ…大丈夫ですか?熱くありません?すぐに保健室に……」
「ちっ……ちょっと着いて来い」
いつの間にか辺りは騒がしくなっていて注目を浴びていた事に気がつく。
なんだ、今のは。
ふんわりとした肩までの亜麻色の髪がサラリと揺れ、ぱちりと大きな瞳がこちらを見つめて…小さな桜色の唇で彼女に似合う可憐で可愛い声が放たれて、その声は透き通るように耳に響いて無視できない。主張のないボディラインと低身長が幼さ共に無邪気で可憐、優しく包み込んで守りたくなるような雰囲気の美少女を醸し出し、男に好かれる為に生まれて来たようなヒロイン。
媚びた視線はどっちだ!
「桜川 琴葉」
ギリッと奥歯を噛み締める。
まさかゲームのヒロインが登場するとは…!
イベントを回収しに来た?ヒロインも転生者か?
なんにしろあたしの邪魔をした事は確実だ!遥斗きゅんがなんであたしの事知ってるのか知りたかったし!親友ポジの皆口藍への対応はこんな感じなのか…ちょっとドキドキした。遥斗きゅん、原作よりもなんか不良って感じだけど現実になった相違点かな。そんなところもまたドキドキする…
ゲームでは知らなかった、遥斗きゅんの一面。どうしよう、あたし恋しちゃったかな。ゲームみたいに恋愛しようとまでは行かずとも…いや、イベント通りこなしていって遥斗きゅんをあたしでメロメロにして、主人と従者を越えた関係になりたいって下心はあったけど!オバチャンでもロマンチストでいいじゃない…前世では恋愛なんてしてこなかったんだし、ゲームに夢見たって。
ヒロインへの対応は台詞は違えど二人っきりになるというイベント通りで、ヒロインにしか起きないのかな。
嫌だな、あたし。
遥斗きゅんだけは渡したくないし、他のキャラだって一応箱推しだから全員そこそこ好きだし、ヒロインだけに許されるハーレムエンド狡いな。
法律上許されなかった多重婚もハーレムエンドでは法律変えちゃってできるもんね。魔法使いって権力の塊だから便利だ。
折角ゲームの世界に生まれたんだからもっと我儘に生きていいよね?ヒロインから攻略キャラ奪っても…
出会う前までは人類を導く為に主人を選ばなきゃって思ってたけど、皆口家の使命を全うしながら恋愛したっていいよね?皆口藍はあたしなんだからあたしはあたしの人生生きたって。前世ではできなかった恋愛をして、ついでに世界を救って、王子様達に囲まれながら民衆に愛される聖女になる。
その為にもヒロインをなんとかしなきゃ!
幸い皆口藍は攻略キャラに対して情報通だ。ヒロインはあたしを通してしか攻略キャラと好感度を上げられない。
キャラの好みとか特徴とか皆口藍が知っていてそれを通して攻略していくから逆にヒロインにそれを開示しなきゃ大丈夫。
しかし出会いイベントなどある一定の行動で発動するみたいだし、ヒロインが転生者だとしたらあたしの情報はいらなくても知っているはずだから攻略できてしまう。
あっ、ヤバい!どうしよう!
…そもそもヒロインと敵対するというか原作通り仲良くしたらどうだ?
ヒロインの動向を一番近くで見れるし、それとなく邪魔もできる。
恋愛は戦争だ。譲る気も負ける気もしない。
一目惚れは初めての恋愛初心者だが、皆攻略してってやる。今世の目標ができただけ凄く充実した気分になる。
打倒!ヒロイン
打倒!世界を滅ぼす魔王
聖属性の魔法は使えずともそのポジションを奪えれば万々歳だ。ほら、よく小説なんかでは親友ポジがもてはやされヒロインポジにジョブチェンジしたりする。親友ポジにあるあるの平凡顔ではなく見た目も恵まれた美少女なんだから攻略できる確率は高い!
イケメン達と並んでも美男美女で釣り合いも取れているだろう。絵面もいいはずだ、たとえヒロインでなくとも。
「君、大丈夫かい!?」
「凄い騒ぎだったけど…」
えへへ。周りには心配され、愛される美少女。
それが前世のあたしが嫌った女の顔であったとしても、あたしは止まれなかった。
恋した女の子は最強だ。
それに皆口家としても、聖属性を持つ人間は貴重で動向を把握しておかなければいけないという役目もある。
どっち道、世界を巻き込んだ戦争がこれから起きるんだけどその戦いにヒロインは重要というか聖属性の魔法でないと太刀打ちできない魔物や魔族なんかがいる。物語中、ヒロインはその聖属性の加護を攻略キャラ達に付与していき、結果的戦争が勝利するのだ。
ヒロインなしで人間側の勝利は有り得ない、神に愛され聖属性を唯一与えられた人間はこの世に一人なんだから。あたしがどれだけ聖女になるんだって舞い上がっていても、ヒロインが仕事してくれなきゃ世界は救われない。
つまりヒロインの聖属性が妬ましい。ただの平凡な家庭に生まれてぬくぬく育って来たヒロインが。あたしみたいに辛い修行などもしないで、攻略キャラ達に世界に求められるヒロインが。なんの努力もせずに………好かれる事は確定で必要不可欠な存在なんて。
前世のようにゲームのただのプレイヤーキャラだったなら良かった。自分の分身であるヒロインに優しいゲームの世界だから。
けど、現実になった今ならどれだけ非常識な存在なのかとわかる。こうやって別人となって現れると嫉妬で頭が可笑しくなりそう。
「あっ、ねぇねぇ!この間は大丈夫だった?」
後日、ヒロインの教室を突き止めた。
入学してから他人から好かれやすいキャラを作り出していた皆口藍はたやすく情報を入手でき、ヒロインは隣のクラスだった。
隣のクラスにあたかも友達に会いに来て、たまたま見かけたような偶然を装ってヒロインに話しかける。
「この間?」
「ほら!食堂で東雲君に連れて行かれたじゃん」
「食堂…連れて行かれた…あぁ!あの時のは大丈夫だったよ。心配してくれてありがとう」
眩しいヒロインの笑顔。
裏表ない純粋に笑っている無邪気な笑顔がどことなく妹と重なってズキリと心に突き刺さる。頭を振り払い、当初の目的を果たさなければ。
「あ、あの!…良かったら友達にならない?」
「えっ!私なんかでいいの?」
「勿論!」
ヒロイン、桜川琴葉は疑う事を知らない瞳であたしをまっすぐ見た。




