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小鳥遊 イル





小鳥遊 イルは戸籍上ですら存在しない子供だった。


魔法使いの双子は千年に一度あるかないかぐらいに珍しい事で、本来なら祝福されるはずだが、片割れでも女児だった場合は、逆に禍をもたらす災厄の魔女でいずれは悪魔になる存在だそうだ。


これがただの伝説ならまだいい、しかしながら実際に俺の属性適正は氷と闇。

水と氷は小鳥遊家に代々受け継がれる属性で兄も水と氷だが、闇は魔の一族でしか持たぬ属性であり、伝説を裏付ける証拠になってしまった。


人間の腹から悪魔なんて馬鹿馬鹿しいとは思うが、小鳥遊家の者は皆恐れ、産まれてすぐ母親や父親に殺されそうになった。

折角生まれ変わったのに、生まれてすぐに死ぬのは嫌だなぁ、と成り行きを見守っていると‥‥‥‥この中で一番発言権のある頭の堅い、凝り固まったおおじじ様が意外な事に止めに入ったのだ。


「伝説によるとこの娘が悪魔になったら迎えが来るはずじゃ。その迎え‥‥‥‥クソ悪魔共を根絶やしにするチャンスじゃぞ」


手柄をこの手に。世界の終わりというピンチを小鳥遊家を未来永劫に繁栄させるチャンスに変える。おおじじ様の逆転の発想に皆が驚き、称賛する。

勝てなかった時は考えないのか‥‥‥‥とりあえず、それで生きながらえた。

ゲームの進行上、そうですよね。まだ死なないですよね。

そもそもゲームが進行していったら小鳥遊 イルは悪魔になるのか、ラスボス的な展開になるのかゲームをやっていない俺にはわからない。

決して家庭はいい境遇とは言えない‥‥

穢らわしいとでも敵を見るような目をする親に、俺は両親には恵まれなかったようだと認識した。






服を脱ぎ、制服に着替える。

グレーのブレザーにタータンチェックが入ったズボン。ネクタイは水色だ。

勿論、男物だ。

ゲーム通り、本当にエルは身体が弱くベッド生活で、これでは次期当主として面木が立たないと、顔が同じの(イル)に白羽の矢が立った。

そう、ゲームの舞台となる¨聖ユールフィア学園¨にはイル(女)としてではなく、エル(男)として通う。ベッドから起きれないエルの代わりに。


生まれてすぐ魔法の適正があると判断された者は小・中学校には通わなくていい権利が渡される。

教養や常識、道徳などは国から派遣される有能な家庭教師にみてもらうことになっており、その代わり15歳からは強制的に聖ユールフィア学園に通わなければいけない。あ、勿論友人やコネ作りの為に小・中学校は通ってもいい。強制ではないだけで個人の自由だ。

聖ユールフィア学園という魔法学校にさえ通ってくれれば全然オッケーみたいな。


小鳥遊家などの魔法使い‥‥‥‥前世でいう貴族は小・中学校には通わず、自宅に優秀な教師を呼んでいるわけで学校に入る前から魔法はある程度使えてる。

俺にもエルを演じる上でビシバシ叩きつけられたが、扱いは決していいものではなかった。

学ばせてもらえるだけで有難いとは思うが、出来なければ体罰。拷問みたいな事もしょっちゅうあって死にものぐるいだった。死にかけても治癒魔法が扱える先生だったので生きてはいたが、家から見放された子供だし、いくらでも痛みつけても問題ない生徒だったので、治癒魔法の範囲を越えた傷は深く身体に刻まれている。



女の子なのに、俺が至らなかったせいで。






聖ユールフィア学園の上位成績優秀者の5名は生徒会に所属する事が許されており(強制)、この5名は白のブレザーを着用することが義務付けられている。


成績を決める基準は学力、武術、魔法の中で特に魔法が凄い者、強さが基準だ。どんなに学力や武術が凄くても上位にはなれない‥‥。逆にいえば魔法さえ秀でていれば上位入りできる。

事実、小鳥遊 エルはまさしくそれだ。病気でベッドから降りられないエルは武闘など学べるはずもなく、そして体調のいい時しか教養も身に付けられない。

俺(小鳥遊 イル)は違うが、あくまでエルを基準に力もコントロールしなければならないので面倒臭いったらありゃしない。

俺はただのエルが学校に戻ってくるまでの代わりなのだし。属性魔法もエルは水と氷なので、水の持たない俺は氷しか使えない。その事にどれだけ苦労したか‥‥。


まぁ、両親や小鳥遊家の皆々様からしたら生かしてやっているだけでも有り難く思え。一時とはいえ、次期当主であるエルの代わりをつとめられるのだから光栄に思えと言いたいのだろう。


‥‥‥‥俺が代わりにならなかったら御三家である小鳥遊家のメンツが潰れると思うが。


しかし、エルの代わりをしてなければ外には出れず牢獄での幽閉生活が待っていただろう。

そういう意味ではエルとイルは中性的で双子だから顔が似ていて良かった、とは思う。




小鳥遊家は魔法使いの名門中の名門で、御三家に数えられるほどだ。ヘタな成績を残したら殺される。ましてや、次期後継者であるエルが上位に組み込まないなどとは何事か。

普通の魔法使いは一つしか属性を持ってないのに対し、二つ属性を持っていることはそれだけで優秀。逆に言えば持ってなければ‥‥言わずもがな。

本人のエルは病弱で、秀でたところは魔法しかない設定だ。

その魔法という分野で一つしか属性を持たぬ(使えない)俺がどれだけ上位に行けるか。ここが問題だ。

もっとも闇魔法を使えたら楽なのだが、エルは持たない上に使えたら何事かと論外だろう。


外でも家でも闇は忌むべき力、禁忌とされているので練習もできない。学校でもしかり。だから生まれてこのかた闇魔法を使ったことはない。使ったら大問題だから。

その為俺はこの家では氷魔法しか使えない落ちこぼれでもある。名門の家は二属性が当たり前だからな。

上に行くには魔法の精度を上げるしか道はない‥‥

結局、上位の決め手となるのも魔法だし本人のエルが得意なのも魔法だし。






エル()を完璧に演じなければいけない。




奴等(小鳥遊家)の理想像である小鳥遊 エルと実際の小鳥遊 エル。両方をバランスよく演じなければならないのだ。



幸い、俺は魔力操作に秀でており、綿密さにも火力や有用性にも文句なしで兄妹揃って魔法は得意なようだ。

おかげで入学はギリギリトップ10には入った。

しかし、生徒会入りはしなかったのでお叱りと折檻は受けました。

生徒会入りするには全学年でトップ5以上だ。一学年でギリギリトップ10な俺にはとても不可能にしか思えないが、実現しなければまた説教と折檻が待っている。


イルはとても綺麗だ。顔立ちだけでなく、肌も髪や立ち姿など。俺だと言うのに、匂いまでどこかいい香りがする。丸みがあり、柔らかく細い線は折れそうで、女の子特有のか弱さがあって‥‥‥‥この女の子の肌をできるだけ傷つけたくない。イルという女の子を守りたい。そう、男としての前世の俺が言ってる。


だから不可能だとしてもエルを完璧に演じる為に‥‥‥‥これ以上イルを傷つけないように、必ず生徒会入りをしなければ。

大丈夫、ゲームでは確かエルは生徒会に入っていたはずだ。ゲームのパッケージや絵を誰かから見せてもらった時、エルは生徒会の証である白のブレザーを羽織っていたし。




階段を上がり、壁にあるスイッチを押して上に乗せられている木の板を退ける。

出た後はもう一度戻して、今度は沢山の本棚が並べられている中にある、一冊の本を引き抜き‥‥仕掛けを作動させる。


見事、俺のいた地下へと通じる通路は本棚で隠れてしまう。

これがイルの部屋に進む為の仕掛けだ。

まるで謎解きゲームなどによく使われる仕掛けだが、これの難しいところは部屋に辿り着くまでと、辿り着いてからの本を選ぶところだ。

この何千とある本の中から見つけなければならない‥‥‥‥‥‥!



しかも、



▽誰もいないようだ他に行こう

→▼折角だから本を読んで行こう



他人の家で図々しくも本を読んでいこうという選択肢をし、イルの部屋へと行く為の仕掛けとなっている本は一冊しかない。選択すると本棚の画面へとなる。

どの本棚も選べて、その本棚の中から本を一冊選べるのだが、一冊読む(間違う)とエルがやってきて好感度が下がってしまうというイベントが起きてしまう。

初見さんで偶然この部屋を見つけてしまって、本を読んでこのイベントが起きてしまった人はトラウマものだろう。

どれだけこのイルルートを隠蔽したいのか製作者側の意図が伺える。イルルート行かせる気ないだろうって‥‥‥‥‥‥‥‥誰かが言っていた気がする。


ちなみにゲームが現実となった今では、正解の本を選べなくても、本を全て本棚に戻した後で、何も本に触れず10分経ってもう一度本を引き抜き、それが正解の本であれば仕掛けは作動する。

まぁ、ヒロインはゲーム通りに最初から正解の本を手にしなければイルの部屋には辿り着かないかもしれないが。




本棚の部屋を出て、広い廊下に出るが普段家族が集まって食事をする広間などには行かず、そのまま玄関へと向かう。

俺への‥‥‥‥イルの朝食は用意されてない。

メイドや執事などの使用人からは通り抜けても挨拶もなく無言で、むしろ汚いものでも見るような冷ややかな視線を送られる。後ろからはひそひそと罵詈雑言言われながら。

車に乗っても、勿論ドライバーからは無言だ。ただ、淡々と仕事をこなしている。何も言ってこないとはいえ瞳からは好かれていないのは名目。



ふぅ、と息を吐きながら外を見る。


両親に手を繋がれながら幸せそうな、小さな女の子が目に入った。




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