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腕には骸、足に荊棘

お待たせしました





心配そうな顔をした佐伯先生から爆弾を落とされる。



「とりあえず、一回精密検査が必要だねぇ。どういうわけか、魔石で具合悪くなるなんて事例聞いたことがないわけだし。こりゃ前代未聞だよ。精密検査は後でこの学園が提携する病院で診てもらうとして……

とりあえず今は簡易的に脈拍見たり、一応聴診とかするから服脱いで」



いきなりの大ピンチ。


勿論胸にはサラシが巻いてある。

この豊満ボディはサラシをキツく巻いて潰しているが、垂れ知らずの弾力さを兼ね備え、ピンと上に張り詰めたおっぱいは形とバランスを崩すことなくこの大きさを維持している。現実じゃ絶対有り得ないな。普通はサラシなんて巻いたらとっくのとうに垂れたりなんなりしてる、とかよく同級生の女の子が会話のネタにしていたのを思い出した。

なのに、罪深いおっぱいはサラシを解いた瞬間ぶるん、ぶるんと解放されたかのように弾けるだけ。これは世の女性を敵にするほどかもしれない。流石ゲームの世界。

思わず紳士を志す俺も指の間からチラチラと見てしまう。意志とは真逆に思春期の男特有の興奮と好奇心と探究心には抗えなくなりつつある。悪いことだと思えば思うほど背徳的に感じて、尚更興奮してしまう。逆効果だ。

ならばこの際イルにごめんなさいして、開き直って見ようとするけど、刺激が強過ぎてガン見はできない。

半分だけ悪魔に目覚めてから、なんか俺は可笑しい。前よりも欲求が強くなって、欲望に忠実になろうとする自分もいて、それを理性で必死に抑えつけてる自分もいる。


この身体は借り物だ、忘れるな。

俺のじゃない、イルの大切な身体を恥ずる行為は俺だって許されるわけがない。

たまに思ってしまう、これはイル憑依したカタチの転生なんじゃないかって。

俺がイル自身ならなら何故こんなにもモヤモヤするのか……いつも思ってた。

この考察が正しいなら憑依を解く方法があるのか、もしかしたらこの身体の心の奥底にイルがいるんじゃないか。いるのなら解放したい。俺という異物がいつまでもいていいわけがない。


それか……


俺は本当の意味でイル自身で女の子なのに、男である前世を引きずってまだ女だと割り切れてないだけなのか。俺はイルじゃない、他にイルがいると言い訳をして認めてないだけなんじゃないか。

色々と考えてしまう。

俺の味方だというレヴィに相談するのも一つの手かもしれない、が……レヴィはまだなにか隠してる気がする。

完全に信用するのはまだ危ないかもしれないと。

レヴィは確かに俺の使い魔となり感覚を共有している為、嘘をつくとなんとなくわかる。

今のところ嘘をついたことはない。だが、それはあくまで嘘をつかなくていい¨差し障りない話¨しか話していないだけ。

都合の悪い話はあえて避けているような……いや、ただの俺の勘なだけだから確証はないけど。

本当のレヴィに会えていないような気がする。

そんなもどかしい、どこか距離を感じるのだ。

まだ俺が悪魔になりきれてないから悪魔について理解できてないだけかもしれないが。





それよりも今はこれをどう打開するかの方が先決だ。


脱いで胸にサラシが巻いてあったらどう考えても可笑しい。

胸が怪我してるんで固定してるんです、とかじゃ通用するわけない。むしろ別の意味で大騒ぎになる。



「どうしたの?エル君?あ、部屋の温度寒い?今、調節するね〜」



先生、すみません……心の中で謝って。


時間の歯車を見つけ、魔力を叩きつける。

カチッカチッと鳴っていた時計の針が止まり、保健室だけ時間を止めるようにセッティングする。先生の動きさえビクともしない。


闇属性しか扱えない次元魔法。

闇属性とはいいつつ、必ずしもこれが使えるわけではない。

万物を、世界を操るかのようなこの魔法は反則級に強過ぎる力である為……扱える者は極僅か。その極僅かに分類されるのが魔王。

魔王とは……例外を除きほぼ会話の成り立たない魔物達ではなく、人知れず魔界に暮らす悪魔達の王。

純粋な悪魔として魔界から生まれ落ちるのではなく、悪魔の魂が力の持った人間の器を借りて生まれてくる。

魔王の力、万物をも揺るがす力は魔界には耐えきれず……壊してしまう可能性がある。壊われても構わない、壊す予定の人間界でなら悪魔として生まれ変わる際、力が暴走しても問題ないだろうということで、魔界から魔王の魂が送り出され、器として見出された人間の赤子に定着する。

魔王の魂といってもそれには意思がなく、ただの力の塊、悪魔の存在そのものみたいなのが先代から抜け落ちて……しかるべく時が来たら次の代へと受け継がれる。勿論、代を重ねれば重ねるほどそれは巨大になっていき、蓄積された膨大な情報と悪魔の力を持った魔王が生まれる。倒しても倒しても、先代を上回る力を持った魔王が生まれる。だからこそ魔王を倒してもイタチごっこ、しかもそれよりもタチが悪い。

先代は封印という形でもって終わらせたのだが、その封印を人知れず魔王に忠実なる悪魔達によって解放された。

先代魔王は生きてはいたが、聖なる封印によってもう既に意識は死んだようなものだったらしい。魔界に連れ帰ったものはいいものの、今度は味方である悪魔達に猛威を奮った。

そして暴れるに暴れた魔王を悪魔総勢でなんとか食い止めた。計り知れない犠牲と共に、先代魔王は死んだのだ。

そして先代が死んだことにより次の代へと、俺にその想いと力は受け継がれている……らしい。

この時を止める魔法もその一つで、過去に遡ったり未来を行き来できるわけではないがそれでも反則級に凄い魔法だ。

しかし制限は色々ある。

力が暴走してた時は世界中に魔法が効いていたわけだが、全ての人がかかっていたわけじゃない。

力の強い魔法使いや悪魔などには通用しないらしく、これで一部の者に魔王の復活を悟られた。

力の強い魔法使いといっても、有名な御三家は該当はせず、御三家以上の強い魔力とそして、女神の加護を持った人物達……


聖女だ。

正しくは聖女と聖女に愛された者達。

魔法使いの家系に伝わるあの伝説に出てくるヒーロー達。


魔法使いの家系で生まれた双子、それでいて片割れの女の子は災厄の魔王で、いつか人間界を滅ぼす忌み子となるという話も伝説の一部だ。

レヴィ曰く別に魔王の魂は性別がどちらかに固定することはないが、人類に災厄をもたらせた先代魔王が女性だった為か人々にそんな印象を与えたのではないか。あと確かに双子の方が力を持った子が生まれやすいし、何かとそういう偶然が重なって生まれた話じゃないか、という結論に至った。


伝説の元となったのは千年以上前に君臨した先代魔王の話。

当時、歴代魔王の中で最強で最凶の先代魔王は人類に王手をかけた状態だった。

魔王が出現する度に勇者は現れど、度重なる戦争の疲弊で国は財力も人口も徐々に減らしていった。

そうしている間にとうとう勇者(人類)では魔王が倒せなくなったのが先代魔王。

人類は追い詰められ、悪魔の軍勢を率いた魔王軍になす術はなく、人類は衰退の一歩を辿るしかなかった。

それまで効いていた勇者の貴重な光属性の魔法でさえ跳ね除ける先代魔王の闇魔法は世界を闇で包んでいった。


その時に現れたのは、聖女。


女神の祝福を受けた少女。

光属性でなく¨聖属性¨を女神から与えられた。女神の代行者。

その力で悪しき魔王を封印し、人々に安息をもたらした。

魔王が率いていた悪魔の軍も張り巡らされた清き聖女の結界は破れなかった。

一方的に攻撃を受けるだけの悪魔達はとうとう魔界に帰ったのである。

人類の勝利であり、また新たな英雄の誕生だった。

誉れ高き聖女とその聖女を支え守った騎士達。


そう、この伝説を聞いていてピンときたのが……



ヒロイン


それとヒロインに見初められた攻略対象のあのカラフルな男達。





魔王が誕生し、即位するまでは力でのし上がった悪魔が仮初の魔王となるらしい。

魔界とは色々な世界の(主に人間界)負を掃き溜めたような世界で、夥しい瘴気と真性の悪が蔓延る魔界で悪魔は自由奔放に暮らしている。

人間が魔界に落ちる時があるらしいが、大抵が身体が腐り落ちて死に、また生き残った者も瘴気を浴びた身体はアンデッド化し、人間界に落ちるらしい。

そんな魔界の純正の闇で生まれ落ちたのが悪魔で、彼らは魔物や人間をはるかに凌駕する力を備えており、また気ままにその悪魔を召喚した契約者の為にその力を奮う。

契約者、人間は悪魔の力を欲し、魔道書(禁書)などで悪魔の存在を知った人間は稀に悪魔の召喚に成功することがある。

悪魔側も魔界から人間界に降る時は次元の壁に穴を開けるほどのパワーが必要で、それができるのは上級中の最上級でなくてはできないほどなので、大抵は人間に召喚してもらう方が楽らしいので悪魔もそれを利用している。

ただ悪魔にとって契約者に従うのはただの暇つぶし。

契約という形式(魔法陣)の中に等価交換はあれど、悪魔は自分にとって都合のいい解釈でそれを受け取る。また契約者をその通り誘導する。

悪魔にとってはどこまでも人間は下等生物で、都合が良くて愚かな生き物らしい。

その愚かさに愛し、また愚者ゆえに嫌悪する。


なら、レヴィはどうだろう?


レヴィの契約者は俺だが、レヴィは自身で次元の壁を力押しでこじ開けてきた為、人間に召喚されたわけじゃないらしい。

……なんて馬鹿げた力を持つ悪魔なんだ。レヴィ本人はあの軽い口調でなんでもないかのように語っていたが、それがどれほど有り得ない力で常軌を逸するのか俺なんかには想像もつかないほど凄く強い力を持った悪魔なのだろう。魔王の力を持った俺が言えた事じゃないが、俺自身はまだまだレヴィに及ばないほど弱い。いくら時を止める力を手に入れたからといって全員が全員かかるわけではなく、基本的には人間にはかかるそうだが悪魔は効かない。

しかも時を止めている間、他の魔法は使えない。

闇魔法の精度を上げ使いこなせば、時を止めている間、他の魔法も行使できるようになるらしいが、今の俺には無理だ。

つまりは時を止めている間、魔法が効かないヒロイン達を敵に回しても袋叩き合うだけだ。

レヴィに見限られ、悪魔が敵になったとしても同じようにかなうわけがない。


発現した魔王の力(闇魔法)はほんの一部で時を止める魔法のみ。どんなに修行をしても発現はしなかった。度胸と覚悟が足りてないのか、俺には才能……資格がないのか。

力の扱い方を教えてくれたレヴィでさえ驚いてた。

口では言わなかったが、おそらく先代魔王をレヴィは知ってる。その先代魔王は様々な力を発現させていたのだろう。唯一使える時を止める能力も、きっと先代魔王の方が精度も範囲も何もかもが上だろう。

歴代最強の魔王は、俺なんかより遥かに強く及ばない存在で……同じ力を継承してるはずの俺にレヴィは確かに落胆したはずだ。


そう、俺は歴代最弱なんじゃないかってくらい弱い。

もっともっと修行をすれば、先代魔王に追い付けるかもしれないが、今の俺には足りないものがあるような気がする。

強くなるにもあくまで人間レベルでの成長しかできないはずだ。


俺が悪魔になりきれてないから。



「イル様〜!この人間の意識操作終わりましたよぉ……ふぅん。この人間の精気はあまり美味しくないですねっ雌臭いし!出勤前に朝から(つがい)と一発ヤってスッキリしてきたって感じですよ!ぜんぜ〜ん、精気が薄っぺらいですぅ!ぺっ」

「……っ!?な、なにやってんだ!!!」



いつもの等身に戻ったレヴィは手をかざし佐伯先生の頭に、さっきまでの事はなく体調も崩さず普通に魔石に触れ終わったという事にしてもらった。

その後、軽くキスをしたと思ったら、ぺろりと佐伯先生の唇を舐めている。

たまにこいつが淫魔だって事を忘れそうになる。

平気で何でもないかのように目の前でこんな事するんだから止めて欲しい。

それで好みだったらどうしてたかって考えると……



「あはっイル様、顔が血のように赤くて可愛い〜!イル様は処女ですものねぇ」



処女でも童貞じゃなくても知り合いが、それもお世話になってる教師が目の前で使い魔とおっぱじめる姿は見たくない。それに先生には奥さんがいる。自分のせいで、先生を巻き込みたくない。

サキュバスだから貞操観念低いのはわかるが、だからといって理解できるわけない。



「まぁ、イル様も悪魔になれば普通ですよ。基本悪魔は本能のままに生きるのが正しい生き物ですから。サキュバスだけではありません。悪魔なら普通のことで、支配され支配し欲望に従うのが、本来在るべき姿なのです」



俺が間違っているのか、一瞬錯覚しそうになるが……



「イル様もいずれそうなります……嫌でも。それが¨当たり前¨で、別にそう振る舞わさずとも、理解はでき嫌悪はしないでしょう。ふふ……怖がらなくても大丈夫ですよぉっ怖いものじゃぁありませんから。ワタクシもついてます!…貴女のお傍にいます」



柔らかく微笑み、淫靡で優しい手つきで擦り寄るレヴィ。

忘れてはならない。悪魔なのだレヴィは。

たまにこうやって垣間見るレヴィの人外性が酷く冷たく俺の心に突き刺さる。


(イル)の味方だというレヴィは嘘はついていない。そう感じるのだが、どうしても信じきれずにいる。

虚勢で人間でありたいだけで俺は既に悪魔なのかもしれないし、それを否定したいが為にレヴィを疑うのかもしれない。


……それでも俺は人にこだわりたい。縋りつきたい。



人間である前世の俺(七瀬 静馬)を捨てたくない。




「イル様は何か恐れてますね。ふふっ。でも、それでもいいです。ワタクシが、悪魔に堕として差し上げますから。ワタクシが、導いてあげます……魔王様」



優しく泣きたくなる抱擁は、あの時と、出会った時と違って温度が感じられなかった。

暗く冷たい、深淵なる闇への誘いはまるで狂気と等しく恐ろしい怪物に思えて仕方がなかった。

背筋に駆け上がる焦りと不安が蠱惑的な雰囲気をかき消して、また沈んでいった。



魔王という肩書きに殺される日はそう遠くはない。






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