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時は戻り、そして魔は深まる




新緑が芽吹き出した春から、少し明けて。

風が生徒の活気のある声を運んでくる。

わー、わーと楽しそうで、また競い合う、授業とはまた違った浮ついた空気だ。

もうすぐで体育祭。ここは魔法学園だから、それにちなんだ競技だろうけど、学年別上位のクラスには自身の魔力upを手助ける魔石が送られ、また学年関係なく上位のクラスには使い魔の卵が送られる。

さらにMVPの者には両方プレゼントだ。

既にその使い魔で満足している者には魔石を。

魔石とは、その名の通り魔力が詰まった石の事で、力は有限ではあるものの魔力の低いもしくは扱いが苦手な者には練習にはもってこいのもので、普段血管に詰まっていた血栓を膨大な力で押し出すイメージ通り、魔力の循環を手助けしてくれる。

また魔法が得意な者でも、魔石は自身の魔力upに使われる為、一時的とはいえ試験前に使う者は多い(試験中での魔石の使用は禁じられているが、試験前ならアリなのである)

そして、この魔石は外部からは取り寄せられない仕組みになっており、裕福な者貧しい者関係なくお金では手に入らない。

一部、学園で保存されており、後は基本的には軍の方に送られ、魔法使い達の戦争の道具になっているが、横流しがないとは言えない為持っている者もいるかもしれないが、試験では経歴も見る為、ちゃんと学園で入手しているかチェックするのだ。

実力で勝ち取った魔石なら問題なく、それ以外で入手したとわかったら即謹慎でおよび退学にはならないものの(魔法使いは貴重な為、切り離せない)留年、落第生のレッテルが貼られる。これは非常に不名誉な事で、過去に膨大な賄賂で手に入れた魔石を使った貴族の学生は、それを試験前に使ったことを試験官にバレてしまい、歴史ある家名に傷付けた例もある。

まだ練習中とかに使うならまだしも、試験の時に実力で勝ち取った物でない魔石でドーピングする事は許されておらず、この学園の御法度になっている。

まぁ、試験官に事前に賄賂を渡す者もいるだろうが。


とにかく、その魔石が手に入れるのは学園のイベントでだ。

新入生歓迎会(魔石が手に入るのは新入生限定)、体育祭、文化祭、ユールフェスティバル。さらに生徒会入りしたら特別な使い魔の卵(高ランク確定)が貰える。

これは使い魔の卵も同じで、使い魔とは文字通り孵化して自分で育てる、自分だけの相棒だ。

これは実は言うと魔物の遺伝子を人間が都合がいいように遺伝子改良したもので、元の魔物と比べると大人しい性格をしており、人間に害をなさないように遺伝子レベルで操作されているらしい。

ただ手を加えた分、魔物特有の凶暴性がなくなった為か、元の魔物よりだいぶ弱体化してしまい、あくまで主戦力ではなく魔法使いの補助程度になってしまっている。

しかし、この補助もなかなか優秀でいるとないとでは大違いだそうな。

使い魔の種類も様々で、学園のイベントで与えられる卵はどの卵がどの種族でランクはどれくらいなのかはわからない。高ランク〜低ランクがランダムに混じっている。

使い魔をつくる際、種族を特定してつくるというより、色々な種族の掛け合わせでできているらしく、どの特徴が一番出るかわからないが、基本的キメラ(種族が混じっているかのような見た目)はできない。はっきりとその種族事に分かれるのだそうだ。

特定してつくった方がいいのではと思うのだが、これはコストや技術的にも難しいらしく……あくまでそれは数が限られており、それは優先的に生徒会に与えられるシステムになっており、それ以外はランダムで他の卵に混じっている。運も実力のうちってか。

使い魔契約は1匹しか契約できない。破棄すれば新しい使い魔との契約も可能だが、高ランクの使い魔を引き当てた場合はしないだろう。逆に低ランクなら何度でもやるが、使い魔との相性もあるので高ランクを引き当てても、扱いこなせるかはその人の技量だ。


もちろん、試験中は実力で手にした使い魔なら使用もOKだ。





まぁ、俺にはもう既にペット……ごほごほっ

可愛い使い魔がいるわけだし。




「窓閉めようか?埃大丈夫かい〜?」

「大丈夫です。もう少し見ていたいので」

「もう体育祭の季節だねぇ〜」



といっても学園のイベントには俺は無関係。

俺はクラスには所属していない為か、学園のイベントの参加は不可能で、そもそも身体に何かあったら大問題な為、まずは体調が万全になってからまた検討の余地がある。

なのでもし、イベントと言えば別のイベント…………乙女ゲーのイベントがあればまさしく新入生歓迎会ですでにあっただろう。

俺は参加不可な為、主人公だけでも見つけられないかと思って外を眺めていたが、不可能だった。

こんな大量な生徒の波の中、どうやって見つければいい?

乙女ゲーだから絶対カラフルな頭をした女子生徒だからと高をくくっていたが、そんな女子生徒は見当たらなかった。

せめて、主人公をパッケージに出してたら俺もピンときた筈なのに………………いや、乙女ゲー限らずエロゲーとか恋愛ゲームがパッケージに主人公など珍しいだろ。

あくまで攻略キャラを目立たせる為だから…………ん?だとしたら逆に主人公のヒロインちゃんは目立たない地味系なのだ?わからん……

ちなみに攻略キャラぽいのは何人か確認できた。

目立つからわかり易かった。

キャーキャー、周りに女の子侍らせてたし、羨ましい。

男の夢だよな、ハーレムって。

選り取りみどりで女に困ったなさそうな顔して、しかも満更でない感じが尚更腹立つ。

『子猫ちゃん』だなんて臭い台詞がこちらにまで耳に入ってきた時は、思わず窓を閉めた。

マイクで全校生徒(女子)に向かって投げキッスしながら喋ってる様子に、ここは乙女ゲームの世界なのだと改めて再確認した。

生徒会メンバーは見事にカラフルで、赤、青、黄の信号色は勿論、紫、緑、黒などもいたなぁ。目の色も勿論キラキラのパステルカラー。

そして、俺様ぽいやつ、クールですましたやつ、チャラいやつ、無口系、不良系などわかりやすい態度でやりやがって。真面目にやれや。風紀乱してもお構い無しで、生徒会長が俺様口調でルール説明しだした時は頭がクラっときた。そして、まだマシなのがクール系だがチャラ男は女を口説くかのような寒い台詞しか言わないし。無口は堂々と欠伸をして椅子に座り、寝てるだけ。不良ぽいやつは堂々と椅子に足を乗っけてのチンピラスタイル。

誰もお咎めなしなのは、この学園が縦社会だからだろう。実力がある者は優遇される。

教師でさえ、口を出しづらいほどこの学園では実力=権力を持つのだ。

つまりは生徒会が絶対権限を持ち、この学園では優位な存在だ。俺も所属はしているが、今の状況では幽霊な為あまり意味をなさない。というか存在すら知られてないだろう。生徒会の奴等も名前を知っているかどうか。

まぁ、成績順で上位にいるから嫌でも目に入るだろうが。


とにかく本来、俺が持ち合わせている常識は通用しない。

あまり思い出せてはいないが、この光景は流石に異常すぎる。

ここがゲームの世界じゃなきゃ、生徒会は絶対の支配者なんていう現実は成り立たなかったはずだ。

有り得ないようで現実なのだ。


攻略キャラは確認はできたが、ヒロインはどうか。

見つけてどうにかなるとは思ってないが、前情報あるのとないとでは、気持ちの構え方が全然違ってくると思う。

エルを攻略するつもりなら接触を図ってくるはず、しないのならしないで誰と結ばれるのかとかは把握しておいた方がいいと思う。

………いずれ、敵になると思うし。

相手の戦力を把握しておけば、後で必ず役に立つ。

もしくは、攻略キャラ全員…………殺し合う関係になるかもしれないが。


積極的に関わろうとは思わない。しかし、傍観を決め込むにもここで見てるだけじゃ限界がある。



さて、どうするか…………


あの悪魔の女、レヴィなら暗殺!暗殺ぅ〜!とかノリノリで言いそうなイメージがある。怖い。

しかし、それもまたいいかと思ってしまうところは俺も段々と悪魔的思考になってきたなぁって思う。

流石にそれは最終手段だろうけど。

けど、やっぱり人を殺すには躊躇いはある。イルを人殺しにさせたくない。

しかし、生きる為にはいざって時にはやるかもしれない。

俺にはまだその覚悟はない。覚悟もしたくはないが。その時は本当の意味で心まで悪魔になってしまう。

それだけは避けたいが、そもそも人間である意味が境界線が段々と薄れつつある自分も感じる。

その事に気付きながら恐怖も何も感じない。

ああ、いずれそうなってしまうのだろうなと思ってしまう。


俺はどうしてしまったのだろう。



「エル君、エル君。コレ見てくださいな」

「なんですか、先生?」

「エル君にも特別許可がオリマシタヨ」



キラキラと赤く光った石……まさかこれが魔石か?

いや、そうだとしてもなんで俺の手元に?有り得ないだろう。



「エル君は魔石を手にする機会が一切なさそうなので、御三家でしかも生徒会、学園の上位陣がそれじゃあいけないといずれ軍かいい地位につくことは約束されてますし、その時に魔石を一回も使用した事がないというのはいけないので、一応練習用ということで貰ってきましたよぉ。今やったところで試験までには効果は切れるし、大丈夫だということなので」



石を手に握った瞬間、ふわりと消えてしまった。

代わりに、身体を纏う魔力が段違いに違う。

力が漲ってくる…………身体が熱い。息が乱れてくる。

苦しい…………



「エル君!!大丈夫かい!?」



クラクラとする。ああ、気持ち悪い。

なんだこれ?こんなものを皆使ってんのか?

俺がヘタクソなだけか?

ゾワゾワと神経が敏感に逆立ち、無駄に感覚が良すぎて吐き気がする。

遠くの音まで聞こえるし、キンキン煩くて頭が割れそうだ。



『イル様!!』



影の中から小さいレヴィが出てくる。頬にキスされるとしゅんしゅんと止んでくる痛み。

熱が下がってきて…………何が起きてんだ?


『イル様には過ぎたる魔力を頂きました。人間と悪魔の境目にいるイル様には人間のつくった人工の魔石は毒なのですよ!完全に悪魔なれば消化できるんですけどぉ。しかし、マズイっ!』


ペッペッと見えない物(魔力?)を吐き出しているレヴィ。

てか、なんで小さいんだ?



「エル君!エル君!意識あるかい?」

「先生……すみません、大丈夫です。御心配かけました」

「本当に大丈夫?念の為、ベッドに横になってなさい。ところでこの子はエル君の使い魔?」

「………………そうです」



学校や家でも目撃されても問題ないよう、家にはレヴィは俺の使い魔ってことを公言してる。

ただ、佐伯先生には伝えてはなかった。

あくまで淫魔の使い魔は戦闘じゃ全く役に立たたないレッテルがはられている高ランク中の下の下な魔物で(魔物にも淫魔がいる)、当たりなのに外れで有名な淫魔。ただ、魅了とかで精神系統に影響する力を持っている為、これは強いかもしれないが異性にしかかからない。ちなみに異性がかかったら戦闘中でも必ず前屈みになる恐ろしいもの威力だ。

あと、相手をほんのわずかだが、思考を鈍らせたり冷静さを欠かせたりなんだかんだ役に立つ能力じゃないかと思うが、やはり使い魔は戦闘能力重視が当たり前だから、一部の男には好評で女の子には不評だ。

淫魔=サキュバスだからな。魔物、使い魔で男のインキュバスはいないらしい。


俺はちょうど生徒会入りをしたから高ランク確定の卵を貰ってるから、その卵が孵化した設定にしている。

家にその事一応報告したが、勿論お咎めはあった。

しかし、レヴィが精神操作してその事を『どうでもいい』ということにしてもらったのだ。

レヴィはこれくらいの精神操作くらいお手の物だと言った。洗脳もできるらしいから、流石に扱いが変わって周囲の目に何かしら感づかれたらマズイから(いくらイルの存在は秘匿にされてるとはいえ)イルを傷付けないようにだけ、お願いした。後は今まで通りでいいと。傷付けないは性的な意味でもな。

念入りにクソ親父と兄貴にもかけてもらった。


レヴィは早くこんな人間(小鳥遊家)殺して魔界に来て欲しいと迫られるが、やはり攻略キャラやヒロインが気になる為、もう少し様子見したい。

それに今の人間か悪魔か中途半端な俺が行ったところでレヴィはともかく他の悪魔に八つ裂きされるかもしれない。俺の事を崇拝しているという悪魔をがっかりさせるだろう。レヴィはそんなことないとは言っているが。

なんにしろ、まだもう少しここにいたい。

まだ人間に未練があるし、もしかしたら俺みたいに転生者もいるかもしれない。そしたらゲームの事、結末のことも知れるかもしれない。

この後、イルはどうなるのか…………


はっきりするまで、ここにいるつもりだ。


それにまだ魔法だって磨けるはず。

強くなる事に終わりはない。思わず闇魔法という悪魔な力を手に入れて驕っていたが、これで運命に勝てると思ったら大間違いだ。

そんな優しいもののはずない。

油断してはダメだ。弱いのは罪だが、強ければ強いほど守れるものはある。忘れるな。



「ふむ。卵からサキュバスちゃんが生まれたんですかぁ。可愛いですねぇ」

『あら。人間の分際でわかってるしゃない!ワタクシは可愛いくて美しい!レヴィちゃんよ!』



言葉を交わせるのは高ランクの証だ。低ランクにはそこまで知能はない。中くらいでだいたい理解はしてくれる。

しかし、総じて使い魔の言葉は主人にしかわからない。何喋ってるのか他人には理解できず、相手に策を知られることもない為、そういう風につくられているらしい。

レヴィは使い魔だが魔物でも人間につくられた存在でもない為、別に喋れるが、設定通りあくまでただの人間につくられた使い魔を演じて他人には理解できない声を出している。なのに、律儀に返答してる。くねくねと飛び回るレヴィ。褒めらると嬉しいんだな。佐伯先生は軽蔑するでも含みも何も無いただの純粋な褒め言葉だし。

ちなみにレヴィが小さくなったのもそれが理由だ。

まるで人形かぬいぐるみのように愛くるしい姿になっている。



『それにしても今思い出しても美味しかったわぁ〜キン〇マ』



金の卵な。

キ〇タマ言うなキン〇マ。

高ランク確定は何故か金の卵なのだ。

あの日、レヴィはキラキラと輝くソレをテーブルの角にぶつけ、カンッと割る。

そして湯気が立つ、白米の上にトロリと乗せると…………何か黒い液体が入った容器(醤油?)を傾け、勢いよくかきこみやがった。

美人が卵かけご飯を豪快に食べる様子はなんとも…………

そもそも生きていたであろう、生まれてくるはずの卵を。


金の卵をどうしようかと思案していた横から手が伸び、かっさらったレヴィは流れ作業かのごとく俺が妨害をする前に食べやがった。

卵に向かって何度も謝った。凄く後悔と罪悪感を覚えたが、一晩経ったらすっかりその気持ちも消えた。

捕食する者とされる者、仕方ないのだと納得してしまうところが自分も悪魔なのだと思う。

生まれてくるはずの使い魔には運がなかったと思うし、次の生は幸せになって欲しいと命を奪っておきながら上から目線の傲慢な考えをする。



『タマタマ。濃厚だったなぁ〜ちょっとクセのあるあの味は多分ドラゴン辺りだったと思うのですよぉ〜』



当たり中の当たり。

てか、ドラゴンだったのかよっ!!!


超希少種で、バリバリ高ランク中の上の上じゃん!むしろガチャでいうならシークレットレベルのレア度!!


そのドラゴンをまるで以前から味を知っているかのような口ぶりに自然と遠い目になっていった。






生まれてくるはずだったドラゴン「おぎゃあおぎゃあ御主人ー!」

「ドラゴン!?あの神話とかで出る!??魔物の部類でも知能が高く、災害レベルにチートな生きる伝説じゃないか。ファンタジー定番で中二病が大好きな。でも生まれたばかりだとトカゲみたいで可愛いな」

ベビードラゴン「御主人ー!御主人ー!」パタパタ

「尻尾や羽を羽ばたかせ……おっ!飛んだ」

ベビードラゴン「御主人ー!」ちゅっちゅっ

「おいおい。全く…………これからも宜しくなドラゴン様」ヨシヨシ



なんて未来もあったかもしれない



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