恐怖が目を覚ます
それは案外、簡単に見つかった。
拍子抜けもいいところだ。
父の座ってた机の引き出しの鍵穴に微量の氷を少しずつ流し込み、ピタリと合う鍵を作って捻る。
カチャリと音を立て、簡単に引き出しが開くと大量に写真が出てくる。
イルの写真だけでない……。メイドの着替えシーンや、下から覗き込むようなアングルなどの写真と今まで抱いたであろう女のハ〇撮りやら強姦シーンやら……
言葉が出てこない。とりあえず、その人達の代わりにもう一発殴っておく。
とにかく、風呂場や廊下にカメラが仕掛けられている事は確実だな。……今度から位置を気にしよう。
その写真達に埋もれるかのように一冊の本がひょっこりと出てくる。
《悪魔の生態》
まるで見ろとでも言うかのようなカスな防犯設備っぷりと、まんまなタイトルな分厚い本。
ところどころ破けていて虫食い状態の埃まみれだ。
読めないほどではないので、軽く埃を叩いてからページを開く。
・魔物と悪魔の違い
魔物は地をけり、野を支配する蹂躙者である。魔力が人の2倍以上も保有している為、知能はないが魔力で身体強化された身体である為に正面から戦ってはまず間違いなく殺される。
大きさも見た目も様々だが、総じて化け物には変わりない醜悪な生き物だ。
ここにはランク1〜10の魔物について軽く記しておく。
魔物図鑑だ……!
なんか太い枠組みの線の中に魔物の絵と名前、ランクと説明文が乗ってる。
これ、切り取ってカードコレクションできるんじゃないか……?
著者絶対ふざけているだろう。
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ゴブリン
ちから 10(5)
まもり 4(3)
魔力 1(0)
(この中の数値は一般的な人族の数値)
小人のような小ささをしているが、全身に毛はなく
緑色の肌を持ち、魔物の中では知能がある方の種族。
1体1体は魔法に弱く、そこまで驚異ではないが群れをなす為要注意だ。
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こんなかんじにモンスターカード一覧とか書かれており、簡易的に見る分にはわかりやすい。
ファンタジー定番のゴブリンから上位種や派生系のオーク、オーガなどもおり、海の魔物なんかはクラーケンもいる。
ますます現実世界とはかけ離れた生き物が存在しているのに
それを一切感じさせないのは、魔法使いによる活躍か。
それとも魔物達が大人しくしているのか。何の為に?
それとも先の大戦で数が減ったせいでそこまで脅威ではないのか、次なる戦に向けて数を増やしているのか……いや知能がない生き物だったな。
魔物より人間である魔法使いの方が強いのか?普通の人間じゃ到底太刀打ちできないのはわかったが、どれくらい魔物が強いのかわからない。
魔法はどこまで太刀打ちできるのか。
…………今、俺はどのくらい戦えるだろう?用済みとなったら魔物の群れに放逐されることも有りうるだろうし。
この学校を卒業をし実戦に出れば自ずと答えがわかるが、俺は卒業できない。
役目を終えたらそれまでだ。
こっそりと抜け出し、実戦ができる場が……いや、それでは一人だと危険かもしれない。ファンタジーの定番である一番弱そうなゴブリンでさえ、一体につき2人以上で戦えと横に書いてある。
せめて本物を視認できれば、観察し、知識がある程度備えられるはずだ。
本には載ってない習性や攻撃パターンなど戦いにおいては必要な知識が欲しい。
あと、命を奪う覚悟。
こればっかりは実戦でないと身に付けられない。
もし、魔物が住む森の中で突然放逐されたら俺は戦えるだろうか。少なとも無傷でやり過ごせるとは思えない。
予行練習……は無理か。
そもそも魔物にすら会った事はないし、どこにいるのか。
戦うとして、俺一人でそれは可能なのか。いざ、抜け出したとしてぽっくり死んだらシャレにならない。
あと、無計画でこの家からコッソリと抜け出せるとは思わないし、問題は山積みだ。
用済みなったら素直に軟禁の方がまだマシなのか?
いや、ないな。
父親のあの姿をみたら有り得ない。
匿ってもらえる者…………いるわけない。ああ見えて小鳥遊家はれっきとした御三家。権力の塊に立ち向かう者などいない。
一瞬……佐伯先生が頭に浮かんだが、あんないい人を巻き込むわけにはいかない。
何故だろう……俺の中のイルも言ってるような気がする。
泣いてるように悲しい悲鳴が…………………………頭が痛い!
「う……………………………っ………く」
割れるような、ピキンと脳が揺れ、無理矢理こじ開けられていくような…………痛覚。
ズキンズキンと次第に響くような痛みにかわり、心臓が跳ね上がる。
なんだ、これは…………
未知の感覚は恐怖と寒気が背筋を上って、相対するように胸の奥で煮えたぎるような熱さがギラギラと揺らめいている。
「はぁっ…………はぁ、はぁ」
苦しい。
……もしかして、魔法が解けようとしているのか?
どうにかして机にもたれかかり、頭痛と胸の疼きを沈めようと深呼吸する。
恐い、怖い、イヤ、だっ………………
夢のような気がした




