奈落のの底で笑ってる
まずは忌々しい父親の部屋に向かう。
時間が止まってるんだ、大丈夫。ここは遠慮なく入らせてもらおう。
もし、ここまで範囲が及んでいなかったら?
父には魔法が通じていなかったら?
…………一応、ノックしてから入ってみる。
「イルです。お茶の用意ができ…………うっ」
なんてものを見てしまったんだ。
まさか、今世で父親のアーッなシーンを見てしまうとは。
変態とは思っていたし、男としては普通の現象だ。しかし。
コイツは異常だ。
「有罪確定。判決は………………死に晒せっ!」
氷を拳に纏わせて、攻撃力upと反動によって手が傷がつかないようにする。
あとは思い切り殴る。殴る殴る蹴る殴り飛ばす。
はらりはらりと舞うオカズ達。
俺がアビスで悶え苦しむ表情、寝起きやら着替えシーンなど盗撮してやがるクソ親父。
確かにイルは綺麗で美しいし、火のつけ所のない完璧な美少女だ。前世でこんな美少女がいたらクラスの男共もとい俺の利き手である右手もお世話になっただろう。
だからといって…………娘に欲情する父親がいるかっ!
異常だとは思っていたがマジで性的対象に見られていた事実を目の当たりにするとショックを隠せない。
そうだろうなとは予想はしていたが、こうやって実物を見ると気持ち悪さと寒気で全身震え上がる。
俺にそんな趣味ないし、イルにだってありはしないはずだ。
この家族は業が深すぎる。嫌な予感がする。
…………もしだ、もし。ゲームの中とはいえ、イルは性的虐待も受けていたのか…?
ゲームは全年齢版だし、そういう描写はないだろうが、そういう設定があったとしたら?
そうでなくとも、ゲームの世界とはいえ、キャラ達は生きている。ただのモブでさえ普通に生活し、波乱万丈な人生を送ったり平和に暮らしてたり、青春したり様々なストーリーを作り上げているはずだ。現実と同じく。
そう、ここは現実だ。リアルなんだ。
この世界はイルに優しくない。
いくらでも虐げる設定があっても可笑しくない。
イルが壊れてしまう、クズでゲスに成り下がるような辛く陰鬱とした過去があってもなんら不思議でない。
むしろ、酷ければ酷いほどウケがいい……。それだけ話題性も同情も誘える。
まぁ、悪役だろうから結局は殺されても何されても仕方のないほど罪深い奴と締めくくられるのだろう。主人公側に正当性を持たせる為に。
酷く人を憎む理由があれど、復讐するのはすじが違っている。そんな感じに。
イルは、理不尽な世の中に何度絶望しただろう。
「ポーションは…………」
気が付いたら顔がただの肉片と化していた父親。
やり過ぎてしまった、そんな感覚はなく、ただただ凄く虚しく、激しい憎悪と抗えようのない運命に対する虚無が入り交じった深い絶望が俺を襲う。
暗い闇の底で笑うイルが頭の中でチラつく度に止まらなくなる狂気。
そして、何かが引っかかる。
何故、前世の妹の顔を思い出すのだろう?
「ころ…………殺してはダメだ。今は」
世界で数の少ない貴重なポーションを戦場で戦う兵士や病気に侵された人々にも行き渡らず、大量に保管された隠し倉庫を見つけると一つ拝借し、ドボドボと父親といわれる肉塊にかけていく。
シュワシュワと音を立てて、傷が塞がり元の形へと形を変えていく。
呆気なく暴行の後を消していく、ポーションの凄さにここは本当にゲームの世界が現実になったのだと改めて認識でき、そして運命を予測させる。
ゲームのヒロインや攻略キャラに討たれる。嘆きながら苦しみ死ぬイルの運命。
「クソくらえ」
盗聴器やら盗撮している道具を見つけて処分することは簡単だ。
しかし、後の事を考えると得策ではない。
それよりもこの分だと兄の事も予想がつく。違うとは信じたいが一つでも可能性がある限り用心しなければいけない。
ただでさえ、父と兄は変態親子なのだから。父はこの目で娘に欲情している様を見たが、兄、エルはどうだろう……?血のつながった兄妹にすら、性的欲求を向けるのか。
ヤバイ、気持ち悪い。近親相姦か…………あまり考えたくない。
とにかく、兄の事は後回しだ。
今は目的の物を探そう。
カツオもマグロも好きで、どちらかにするという愚かな行為はやめます(訳:感想でカツオのツナ缶って名乗るのはやめます)




