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時間の狭間の中で








自分(静馬という俺)の時間も止まれば良かった。

そうすれば楽に思考停止できたはず。


流されるままに流されて、身を委ねられたらどんなに楽か。

弱音が廻りに巡って、自虐を生み出す。

ああすれば良かった、こうしたらもっと上手くいったのかもしれない。今更どうしようもない事ばかりを悩んで深みに落ちていく。


なってしまったものは仕方ないなんて割り切れるほど大人になりきれない自分が歯痒く、それでいてどこにいくかわからない未来が不安と共に思考をかっさらっていく。

生き残ってしまったからには何か意味がある、そう必ず。それだけを信じて、止まった世界を渡り歩く。




かつての大切な人()がいない世界で。











さわさわと草木が揺れる。

風がぶわりと羽ばたくと、桜の花もゆらりゆらりと舞い散り、地へと落ちていく。

真新しい制服が眩しい新入生達が外で賑わいをみせており、学園へと吸い込まれるように入っていく。

俺だけが止まっているような不思議な感覚がふとよぎるが、白のブレザーが現実に止まる。

白は高貴な色。

そして、格上の者しか身に付けられない神聖な証。



オレは見事上位入りをし、2年に進級した。


それが昨日のことに思え、また自虐的な笑みを心の中でする。


俺は¨物理的に¨水も使えるようになった。

まさか、いや本当に。

廻りに回る時間の歯車に棒を突っ込むような魔法が発現するとは思わなかったが、そのおかげで二属性持ちとして上位に君臨することとなった。

こんなにも簡単に上位入りできるとは思わず、呆気とられたように怠惰にも囚われてしまった。

世の中こんな滑稽な事が起きるのかと。


なんの運命か、それともゲームの設定か。

イルが異常であるという証か。

自覚せざるおえない…………この魔法()は自分が人ではないという紛れもない事実だ。



人と呼ぶにはあまりに歪で、嗚咽を漏らしながら泣き叫ぶ女の子(イル)の姿が見えた。










この魔法が発現した日。


世界の時間が止まった。

あの日の喜劇がピタリと止まり、メイド達も玲ちゃんも誰も動かなくなってしまった。

目の前で起きている事が理解できない。宙に思考を投げやって、現実逃避していると、身体中が熱くなり、背中や頭を掻き毟る。

伸びてきたモノは異型の証。

山羊のような長い角と赤黒い……鳥のような翼。

風呂に備え付けられている鏡に映る自分は、本の中でしかいないような、正しく悪魔という感じで……びくり、と身震いする。

しっかりと生えきった直後から、今まで可笑しかった自分が認識できて笑えてしまった。

なんで、こんなにも狂った思考してたなんて。

あのアビスのせいとはいえ…………怖すぎる。メイド達が顔を引き攣らせるのも仕方ない。唾メイドが叫び出すのもわかるな。

俺は確かに狂気にのまれていた。

冷たい刃のような、鋭利で甘美な狂喜が俺を笑っていた。

優しい手付きで俺を撫ぜ、甘言とささやかな恐怖で凶器を差し出してくる。

イルでも誰でもない、紛れもない俺。

しかし、その俺も必死だった。

アビスで壊れた俺をどうにか普通に過ごせるよう、イルとして生きるように取り繕う為に狂わせた。

異常だったのは俺の方。

狂気ではない、七瀬 静馬(前世)は俺を俺として自覚させてくれたもう一人の自分。


ありがとう、と俺は呟きながら、前世(七瀬 静馬)である自分を受け入れると自然とスルリと入ってくる情報。

そうか、俺には妹がいた。

大切でかけがえのない家族が確かにいた。

小さいながらも必死に生きようとしていた。

俺にめいいっぱい優しく笑いかけて、生きる活力をくれる存在でとても温かい存在。

でも、赤ちゃんだからか妹はよく泣いていたと思う。夜泣きも酷かったが、抱きながら小学校の先生が口ずさんでいた子守唄を歌ってみると、とたんに泣き止んですやすや眠ってくれた。

泣き腫らした顔なのに、その安らかな表情にほっとして俺も気持ちよく寝られていた。

妹以外の家族は思い出せないが、まだいたような気がする。

けど、安らぎを与えてくれたのは妹ただ一人という事はなんとなくわかった。


その妹は前世の世界で元気にやっているだろうか。


気になるが、確かめようのない事実に歯がゆい思いを抱える。

俺は妹を残していったのだろうか。

それとも………………?

それ以上考えようとすると、頭の中でノイズが走り、頭痛が酷くなる。


『人殺しは…………死ね』


…………誰に言われた言葉だろう?俺が人殺し?

ダメだ、これ以上は。


優しい記憶だけが俺に笑いかける。


前世の事は後回しだ。今は。

大丈夫、時期に分かる……答えはいつでも俺の中にある。焦らずともきっとおのずとわかる。

逃げているのかもしれない。それでも俺より今の事(イル)の方が先決だ。



精神の欠陥が消えきったわけじゃないが、だいぶ思考が前と同じようになってきたと思う。

痛みが消えたので、まず現状の把握から始めよう。

何らかの力の作用で止まってしまった、人の動き。

ドッキリとかそんなのするわけがない人達だし、わざと役者のようにピタリと止まるわけない。

ましてや、時計の針まで止まるなんてことがあるか?

人に触れると確かに触れるし、動かせる。


本当に自分以外が止まっている。俺だけが時の(はざま)に取り残されている。


とりあえずハンカチを取り出し、玲ちゃんの涙を拭ってやる。

目が充血して、顔が真っ赤だな。俺のせいだ。

可愛い顔が、こんなにも。

ありがとう、そんなに俺の事想ってくれて。

ハンカチを凍らない程度に軽く冷やして火照った頬などを冷やしてやる。気休め程度にしかならないがしないよりはマシだろう。

ついでに虫なども綺麗に片しておく。


これが魔法だと仮定して、範囲はどれくらいだ?

どこまで影響が及んでいるのだろうと外に出てみる。

どこもかしこも変わりのない風景なのに、人や物がピタリと止まっていて、息でさえしてないのにこれは大丈夫なのだろうかと少し心配になる。

命すら止めていたらと思うとゾッとして背筋が凍る。


試しに動けー、動けーと念じてみるが何も変化はない。

魔力も乗せて、上手いことなんとかできないかとやってみるものの、結果は変わらずだ。

放出されるだけで、何も変わらない。

属性を付与させれば上手くいくかもしれないが、集中して探してみるが氷しか見つからない。

闇の適正があったはず……それか?

しかし、どれだけ集中しても結局何も変わらずじまい。

何か氷みたいにひやりとした温度のようなモノを見つけられたらいいんだが……うーん。


それから……どれくらい時間が経っただろう?

やめだ、やめ。少し頭を切り替えて考えてみよう。

考えてダメだったらもう一度チャレンジすればいい。




そもそもこれは映画などでみる時を止めるだけの魔法だよな?

しかし、そうとしたらどれくらいの時間止まっているのだろう?


聞いた事もない魔法に戸惑いを隠せない。

本にはそんな魔法は載ってない。

過去に例がない、存在しないはずの魔法……

禁術とかか?

書庫に向い、魔法に関する本をひたすら漁るが禁術に関しては何も載ってない。禁術なんて簡単に載せない、当たり前かもしれないが、ここは御三家の小鳥遊家。

何か情報が一つでもあるはずだ。ないわけがない。


少なくとも、イル…………過去に同じように悪魔と呼ばれる者がいたのかもしれない。

その者に関する情報が得られたら…………!


おそらく、この現象に陥った原因は俺のはずだ。

誰かが嵌めたのかもしれないが、何の為に?

俺だけが動ける魔法など、かける利点は?

もし俺じゃないにしろ、その者が接触を図ってくるはずだ。

大丈夫、俺がかけたにしろ、この魔法とは長期戦になる気がする。


書庫に禁書がないとしたら、どこだ?




……………父親のところに行ってみるか。








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