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静かな序章

 すっかりなついてしまった女の子をつれて家に帰ると、父のニールと母のシリアが驚いて固まってしまった。

「あ、あのねこの子拾ったんだけど……」

 固まったままの二人におそるおそる事情を説明する。

 親を捜してあげたいという自分の気持ちも含めてすべてを話し終えると、その場に沈黙が訪れた。

 お……怒られる。今まで怪我した動物とか見ていられなくてつれてきたりしたけど。

 それを怒らずにいてくれたけど。

 さ、さすがにこれは……

 と、罵声とはいかないまでもなにかしらいわれることを覚悟して堅く目をつぶる。

 ほんの数分間がまるで数時間立ってしまっているかのような感覚にとらわれつつ、二人の反応を待っていると……。

「お父さん……」

 その重い沈黙を破ったのは母のシリアだった。

「……」

 しかし呼びかけられた父のニールは呆然としたまま答えない。

「ちょっとお父さん?」

「え!?なんだい母さん?」

 耳元で聞こえた声に我に返ったニールは真剣な顔で見つめてくるシリアを見つめ返す。

「使ってない部屋が一つあったわよね?」

 その言葉だけでニールは妻が何を言いたいのかわかってしまったようだった。

 シリアの言葉にニールは嬉しそうに顔をほころばせて大急ぎで部屋を出ていく。

 一方自分の親の行動がいまいちわかっていないナツキは出入り口の前でシオリと名乗った女の子を背中に背負ったまま、呆然とその様子を見ていた。

 その視線の先でシリアも慌ただしく動き回る。

「ね、ねぇ……?」

「なにやってるのナツキ!」

「はい!?」

 ついに雷が落ちる!?

 とシリアの大きな声にナツキは肩をすぼめてめをつむった。

「そんなところに立ってないで、その子をお父さんのところに連れていってあげなさい」

「……え?」

「そのままだと風邪引いちゃうでしょ?」

 予想外の言葉に、ナツキは先程とは違った意味で立ち尽くした。

「え、じゃあいいの? 怒らないの?」

「あなたのお人好しは今に始まったことではないでしょ? ほら早くしなさい」

「ありがとう!お母さん!!」

 嬉しかった。森でこの子を見つけたとき、どうしても放っておけなかった。

 母の言葉に満面の笑顔を向けて礼を言うと、部屋の奥にある扉を開けて父の元へ向かう。

 壁に取り付けられたろうそくがゆらゆらと廊下を照らしだして、その中をナツキは走っていく。

「お父さん!」

 一番奥の、一つだけ使っていなかった部屋の扉を開けて勢いよく中にはいると、そこにはおいてあるはずのないベットが置いてありニールが丁度シーツをひいている最中だった。

「ちょっと待ちなさい。後少しだから……」

 突然はいってきたナツキに目を向けると、にこりと笑ってひいたシーツをきれいに整える。

「よし、いいよ」

 そう言った父の横に並んで女の子をおろし毛布を掛けてやると、女の子はわずかに身じろぎをして再び寝息をたてて気持ちよさそうに眠っている。

 その横顔はやはり天使のようにかわいらしかった。

「お父さんは反対しないの?」

 その横顔を眺めながら父に聞く。

「ん? シリアが決めたことなら私はかまわないと思うよ」

 それに……。

 とナツキの方を見つめて。

「子供の意思を尊重するのも親の勤め……ってね」

「お父さん…………ありがとう!!大好き!!」

 ナツキは嬉しくて父に抱きついた。





 不思議な女の子、シオリが目覚めないまま、時は流れていく。

 天使のような寝顔で、ほんの少しナツキに幸せを与えたこの子が、まさか数々のトラブルの種になるなんて……。

 このときの私はまるで思いもしなかった。

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