The Slaughter Dragon (6)
──尊き命奪われし 悲運のシェワール市民 ここに眠る──
磨き上げられた巨大な墓石がそびえ立っている。
墓石の前に供えられる花は、絶えることが無い。今も何束もの花が並べ置かれていた。
春を告げる風が、花の香りを鼻腔に運ぶ。
自由都市シェワールの町外れ。静かな場所に在るそれは、虐殺竜に命を奪われたシェワール市民の共同墓地。
墓石には、数多くの死者の名前が細かく彫り連ねられている。その殆どは、十年以上前の『旧シェワール市虐殺竜襲撃事件』の時の被害者の名なのだが、『三ヶ月前の二度目の襲撃事件』の後、新たに彫られた名も複数あった。
「…………虐殺竜は、死んだよ」
墓石の前に膝を突いたロアンが、白と黄色の花束を献花しながら呟く。
「僕の造った武器で、虐殺竜は死んだよ。ついに仇を討てた。でも──」
墓石に細かく彫られた名前の中からすぐに、家族と幼馴染の少女の名前を見つける。ここへ墓参りに来る度に繰り返してきた動作。
「父さん、母さん、エルー…………悪運が強かったのか、僕はそっちに行けなかった」
どこか寂しげな微笑を浮かべるロアン。
三ヶ月前、ロアンたちは虐殺竜と戦った。普通の武器では歯が立たない竜を『撃竜砲』で撃ち貫き、見事倒すことに成功したのだ。
ロアンはその時に虐殺竜の爪で重症を負わされ、気絶した。そのまま放置されれば死んでいたのだろうが、オージスらの応急処置も良かったのか、次に眼を覚ました時は病院のベッドの上だった。
先週に退院できたロアンは、退院後初めての墓参りに来ていたのだった。縫った腹部の傷は痛みがまだ残っており、激しい行動はできない。
「仇を取れたのは良かった。本当に良かったと思う。けれど──」
それだけの為に生きてきた彼には、何も無くなってしまった。虚無感が広がる。この虚しさこそが、復讐に生きた者の代償だというのだろうか。
入院中に、シェワール市の最高権力者である市議会会長から表彰を受けたり、新聞関係者のインタビューを受けたりした。しかし面倒臭いとしか思えず、適当に相槌を打つだけだった。どうでもよかった。
もう武器を開発する理由も気力も、無くなっていた。退院してからも、まだ店は閉めたままだ。
見舞いにも来てくれていた親しい狩人の常連客たちに、協力してくれた礼にと、店に残っていた商品を押し付けたりもした。
(もう、何もなくなってしまった。……一緒に虐殺竜への復讐を果たした彼らは、国を再建しようという話をしていたな……)
オージスとポルネイラ──エステリカ・ロブラント王女──の二人は、ロアンが退院する少し前にシェワール市を去った。ロブラント王国が在った北の地に戻り、国を再建するのだと言い残して。
ポルネイラが金に意地汚い傭兵だったのは、国を再建するための資金集めという隠された目的もあったらしい。
「……僕も、この町を出ることにするかな。どうせ自分がやりたい事もないから、お願いされたのを受けて、彼らの国の再建を手伝うのもいいかもしれない。協力の報酬金を受け取ってくれなかった事もあるし──」
オージスとポルネイラの両者は、共にロアンからの報酬を辞退した。
ロアンが重症を負ったため、その治療費が高くなる事も配慮してくれたのかもしれなかったが──
(最初から、受け取らないつもりだったって気もするな……)
虐殺竜さえ倒せればよい──ロアンも、彼らも、それは同じだったのかもしれない。
そして、ロアンはゆっくりと立ち上がった。
「またここに来る事もあると思うけれど……ひとまず、さよならだね」
最後に犠牲者たちへの長い黙祷を捧げ、彼はそびえ立つ墓石に背を向けた。
ロアンの後姿を優しく見送るように、春風を受けて揺れる献花──
振り返り、墓地から立ち去ろうと歩き始めたロアンの前から、見知った人間がやってきた。
「クライスター……?」
孤児院時代からの友人にして、店の常連客でもある。歳も近い青年だ。今日もいつものように愛用のバンダナで長髪をまとめている。虐殺竜との戦いでは、『撃竜砲』での狙撃を見事に命中させた。
「やっぱりここだったな、ロアン。退院してからずっと店に居たのに、今日はいなかったからさ」
「ああ、虐殺竜を倒したし、墓参りをね」
「そうか……」
「………………」
「………………」
しばし、無言で向かい合っていた。
「何か、用があって来たんじゃ?」
ロアンは、難しい顔で黙り込んだクライスターに訊いた。
「ああ……まあ。ロアンさ、変な事とか、考えてないよな?」
「変なこと? なんだいそれは」
「いや……仇も討てたから、家族とかの後を追う、みたいな事とか……」
どうやらクライスターは、ロアンが目的を果たした今、後を追って死ぬという事を心配しているようだった。
「なるほどね……」
確かに、考えたりもした事ではあった。むしろそれは当然だろう。
「変な事、か。『変な事』じゃあないと思うけどね、僕は」
「なっ、やっぱりロアン、おまえ……!」
クライスターが息を呑んだ。
「早とちりしないでくれよ。僕は後を追って自殺したりしないから」
「じゃ、じゃあ……?」
「僕にとってはね、仇を討った今、後を追って自殺するのが当たり前の『普通の事』で、それをしないで生きることこそが『変な事』なんだよ。クライスターとか、普通の人とは逆でね。全て、狂ってしまってるんだよ、あの時から。それが僕だ。で、僕は『変な事』をする事にした」
「…………」
ロアンから告げられた事にクライスターは言葉を失い、俯いてしばし黙考していた。そしてロアンは、良い機会だと思い、もう一つの隠し事も告げる事にした。
「クライスター、君にも感謝してる。協力してくれてありがとう。今だから、本当の事を言うけど、僕は打算で君と仲良くしてただけだ。店に来てくれていた他の狩人の人や、誰とでもそうだ。愛想良く、仲良くしておけば、協力者は得やすくなるからね。『人間』も、僕が虐殺竜を倒すという目的のための、手段。武器。そういうものでしかなかった。僕はそんな風にしか考えていなかった。というか、そんな風にしか他人を見られなくてね。異常なのは、自分でもよく理解してるけれど。愛想が尽きたなら、もう僕に関わらなくてもいいよ」
いつもの爽やかな笑顔で、淡々と言葉を連ねた。
目的を果たした今、もう人間という名の武器、『協力者』も不要だった。欲しかったのは、人との触れ合いではなく、他人の力だ。自分に無い力。ずっと、それだけだったのだ。
ロアンには、長い付き合いの友人を裏切ったという罪悪感などは無く、これで縁が切れても、何も感じることが無い。幼き頃の経験で壊れ、狂った心は、肉体の傷のように再生はしてくれないのだ。
「そのことは、大体分かっていたさ」
クライスターは顔を上げると、真摯な眼差しでロアンを見返して言う。
「そうだったのか……? 分かっていて付き合ってくれてたなら、なおさら感謝しないといけないね」
ロアンは少し驚かされたが、笑顔のまま返す。
今更どうでもよいことだった。クライスターが、その事に気づいていようがいまいが。ただ、協力してくれた事への感謝の気持ちだけは、本物だった。
「おまえがそういう奴になっちまったのは、おまえのせいじゃないんだ。俺は裏切られたとも思わないし、縁を切ろうとも思わないぜ。これまでと同じだろ」
「……クライスター、君も相当変わり者だよ。まあ、孤児院なんかで育った人間は、みんなどこか、普通に家族と幸せに育った人間とは、違うところがあるんだろうな。で……普通なら、友達からそんな言葉を受けると、感動したり、心を動かされるんだろうけど、僕は何も思わない。何も思わない事に、申し訳ないとさえ、思わない。思えるような人間になりたいとかいう願望も、全く無い」
「いいんだよ、別に。ロアンはそういう奴、そうだとわかってて、俺はダチだと思ってるから」
「……まあ、そう言ってくれるなら、これまで通りかな? そんな事も、どうでもいいと思ってるんだけど」
「ああ、俺は気にしないから。で、これからどうすんだ?」
クライスターは、本当に全然気にしていない様子で、ロアンに訊いてくる。
正直、ロアンは意外だった。クライスターはもう少し『普通』寄りの人間だと思っていたのである。
(こんな事を言う僕と、気にせず付き合えるとはね。クライスターもどこか狂っているのか。方向性が違ってると、おかしい者同士でもなかなか気づき難いのかな……)
爽やかな笑顔の仮面を被ったまま、ロアンは内心で思うのだった。
「ロアン……?」
「あ、ああ。そうだね、体力が回復したら、町を出ようかと考えてるよ」
「シェワールを? どっか行くのか。俺としては、店を今まで通り続けて欲しかったんだけどなあ」
「入院している間に、オージスたちが国の再建を目指すって話を聞いてね。で、できたら僕にも協力して欲しいとか、それとなく匂わせてたから。虐殺竜を倒すような武器を作る技術……だけでなく、色々と作れる技術があるからかな」
「そうか……。利用したから、今度は利用されてみるってか」
「そんなところだね。報酬も受け取ってもらえなかったし。それに、虐殺竜に滅ぼされた国、というのもあるから。虐殺竜の被害に遭った人への協力──仇討ちの後の『事後処理』みたいなのをしてから死ぬのも、いいかなってね」
「まあ、おまえが変な事を考えてなくて安心したぜ。あ、こっちが『変な事』なのか。おまえにとっては。ややこしいな」
「そういうことだね」
クライスターは笑い、ロアンもいつも通りの笑顔で笑う。
『普通』の人間からかけ離れた思考回路を持つ二人の、奇妙な談笑。
その後、「他のロアンの常連客たちと退院祝いの食事会をしたい」とクライスターが誘ってくると、ロアンは愛想良く承諾した。
これまでと同じ付き合い。続ける意義を見出せないが、無理に断つ必要性も感じない。
ついに仇を討ったという達成感はあるが、他には何も思わない。感じない。空漠とした心。
虐殺竜を倒した。しかし演劇や小説などように、終幕となる事もない。
まだ続いていく日常。続いていってしまう日常──
復讐者としての役割を終えたロアンはただ、町を出る時まで、束の間の平穏を甘受するだけだった。
◆ ◆ ◆
降り掛かる火の粉は、払わなければいけない──
襲ってきた野盗の最後の一人を斬り伏せると、ポルネイラは浅くため息をついた。
「ついてないわね……。シェワール市を出て早々、山賊に襲われるなんて」
腰の鞘に剣を納めて視線を移すと、オージスもまた無傷で、大剣を納めるところだった。
「ついてないのは、俺たちを狙ってしまった野盗の方とも言えますが」
言いながら、辺りの地面に倒れ伏す野盗の数を改めて数える。全部で六人。全員が、既に絶命していた。
山賊たちは短剣や斧や鈍器で武装していたが、まともな訓練を積んでいるような者は一人もおらず、二人の足元にも及ばなかった。
オージスもポルネイラも、襲ってくる悪漢にかける情けなどは持っていない。この手の人間は、情けをかけて生かしても、逆恨みで再び襲ってくる可能性が高い。その事を、経験から悟っていた。
「はは、そうとも言えるけどね。って、敬語は使わなくていいって、何度も言ってるじゃない」
「そう言われましても……」
オージスは、ロブラント王国で仕えていた兵士だった。自分が仕えていた王族──元エステリカ王女を相手に、敬語を使うなというほうが難しい。
「とりあえず、場所変えよ。死体が転がってるところで野宿なんて、したくないからね」
「そうですね」
夕方の林道で馬車を留め、野宿の準備をしようという時、山賊たちは襲ってきたのだった。
二人は疲れてきている馬をもう一歩きさせ、野宿の場所を移すことにした。
「ロアンは、大丈夫でしょうか」
荷台で寛ぐポルネイラに、御者台で馬を操っているオージスが訊いてきた。
虐殺竜を倒した後、負わされた傷で入院しているロアンを何度か二人で見舞った。その時のロアンが、魂が抜けたような様子だったため、オージスは心配しているのだろう。また、オージスを庇って受けた傷だったということもあるのだろう。
「あぁー……。彼、なんか後を追って逝きそうな雰囲気だったねー」
「…………エステリカ様は、心配ではないのですか? 短い付き合いとは言え、共に虐殺竜を倒した仲間です」
「まあね。でも、大丈夫だよ、彼は」
「……と、言いますと?」
「確かに、抜け殻みたいになっちゃってたけど。でも彼には、『良い仲間』が居るみたいだったからね。独りじゃないから、たぶん大丈夫。あんなすごい武器作ったりして、頼りにもされてるし」
「…………」
「わたしは、ずっと独りだったけれど」
「エステリカ様……」
「ぶっちゃけ、オージスに出会えて良かったよ。一人のままだったら、王国再復興とか、諦めてたかも」
「俺も、まさか王女様が生きておられるとは思っていませんでしたから……。それも有名な『剣の妖精』があなただったとは」
「でも、思ってたのとキャラ違ってたでしょ、わたし」
ポルネイラは自嘲めいた笑みを浮かべる。御者台で前を向いたままのオージスからは見えないが。
「それは……ずっとお一人で、ご身分も隠して、苦労されたようで……」
「隠すと言うか、滅んだ国の王族なんて、身分も糞も無いじゃん、ってところだけどね」
「…………」
「再復興ができたとしても、別に女王とかになりたいとも思わないしなー。もっと剣を極めたいというか」
「そ、それはさすがに困りますよ」
「いいじゃん、別に。あ、そうだ。オージスが王になったらどう? 貫禄あるし」
「なっ……ふ、ふざけないでください……!」
「うんうん、軽くなってきたね」
「…………」
「ほんと、堅苦しいのは苦手なのよね。オージス、硬すぎるから、もう身分とか王女だとか、気にしないで話して欲しいんだけど」
「それは……難しいです」
「これもまた難題だなー」
オージスの困惑する声を聞きながら、楽しげに笑うポルネイラ。やはり一人旅よりも、話し相手がいる旅の方が良いものだった。
林に囲まれた大通りの脇。既に日は落ちている。新月のため月明かりも無く、夜の闇は深い。
場所を移し再びおこした焚き火の側で、足を投げ出して座り込むポルネイラ。
交代で、一人が見張り、一人が眠る事になり、先に見張るのがポルネイラだった。オージスの方は傍らに留まる馬車の中に入り、積み込まれた荷物に紛れて横になったところだ。
「…………」
耳に入るのは、焚き木が燃えて立てる音と、木の葉が春風に擦れ合うざわめき。そして虫の鳴き声だけ。
人気の無い山林の中の夜。多くの人間は、その闇の中に独りきりという状況に恐怖心を持つものだが、一人旅の多かったポルネイラには、慣れたものである。
考えるべきことは、多かった。これからロブラントをどうやって再建するか。自分が王女だと身を明かして再び王政の国にするのか。自分が王女であることは捨て、あの自由都市シェワールのような、議会政治の国にするのか。それ以前に、どうやって人を集め活気付けていくか。
(ほんと、難儀な話ね……。でも、投げ出す気にもなれないし)
考えるべきことは多い。しかし──
ふと、虐殺竜が最期に言った言葉がよぎる。夜の闇が、あの黒い竜を思い出させたのかもしれない。
「世界意志、か……」
呟くポルネイラ。独り言のつもりだったが──
「虐殺竜の、今際の言葉ですか……?」
馬車の中からオージスの声。まだ眠っていなかったらしい。
「ありゃ? 起きてたんだね、オージス。そう、あいつが言った世界意志……ちょっと気になってね」
「天敵がいなくなった人間を放っておくと、増えすぎて世界の均衡を崩す──ゆえに、奴が人間を殺すことで、世界は安定を得ていた、という話でしたか」
「うん。単なるあいつの妄言かもしれないけど……」
「気になさる必要は無いのでは?」
「…………。でももし、わたしらが言う『神』のような世界意志ってのが本当にあるのなら、虐殺竜の代わりに、どうやって人間を抑制するのかなーって。あいつも、最後までそれは解らないみたいだったけど」
「考えて答えが出せるとは思えませんね、俺には。それに答えが出ても、それが正解か確かめる術もありませんし、それに対して、人間が何かできるわけでも……」
「そうだね。答えを出して、正しくても、間違っていても、どうしようもない事。もうその事はいいかな」
「ええ、そんなことよりもロブラント再建の事を考えませんと」
「それは言われなくてもわかってるよ。喋ってないでさっさと寝とかないと、見張りの時、眠いよ?」
「では、先に休ませてもらいます」
オージスの声はそれが最後で、再び場は夜の静けさに包まれる。
しかしただ焚き火の前でじっと座っているだけというのは、暇である。この辺りは危険な野獣もあまり出ない。再び山賊が襲ってくる事も無いだろうと思えた。
目の前で揺らめく火をおぼろ気に見つめながら、先ほど撃退した山賊たちのことを考えるポルネイラ。
(あいつらがわたしたちを襲ったのは良かったかもね。他の誰かが襲われて被害に遭う事が無くなったってことだし。…………あ)
その時、彼女は閃いてしまった。
傍らに置いてある愛用の剣を見る。山賊たちを殺した武器。
襲ってきた山賊を、返り討ちにした。
人が人を殺した。
(増加し、世界を壊していく人間を抑制──虐殺竜の代わりに人間を減らす方法──世界意志が『神』のような存在であるなら、簡単な事かもしれない。人が人を殺すように……殺しあうように……多くの人々が……)
即ち、戦争。
それは偶然にも、虐殺竜が最期に至った答えと合致していた。
ここニ百年ほどは、虐殺竜という共通の天敵が存在していた事もある為か、人間の国同士での戦争などは起きていない。長く平和が続いてきたのである。
「本当にそうなったら……世界意志の存在を信じるしかないのかな」
正しいかどうかは解らない。そして、神とほぼ同義の世界意志が人間を殺し合わせるというのなら、それを止める方法はない。オージスもさっき言ったように、できることはない。「やめさせたい」と考えても、そんな自分の思考そのものが、世界意志の支配下という事になってしまう。
しかし、世界意志について考えた中で学べたこともあった。
人間が世界の均衡を崩さないようにする方法──それを、自分たち人間も考えていくことはできる。それさえも世界意志の支配下だとしても、考えられないわけではない。
無駄な事かもしれない。しかし、意識し、考える事で、世界意志に歩み寄れるかもしれない。
世界を壊さずに、世界の人間以外の住人たちと共に繁栄し続ける方法が、見つかるかもしれない。今思いついた仮説のような戦争を、回避できるかもしれない。ポルネイラはそう思う。
(これまた、難儀な問題すぎるけど……)
人間が平和で豊かに生活できるほど、人間は繁栄し、数を増やし、均衡を崩していってしまう。
人間が人間にとってだけ良い事をすればするほど、それが災厄に近づくのならば。人間が増えすぎて世界の均衡を一定以上に崩すと、抑止力として戦争や災厄が起きるならば。世界意志がそんな世界の仕組みを作ったならば。
物を投げれば地に落ちる。水を火にかけたら沸騰して蒸発する。そんな不変である世界の理と同様の仕組みとして、作ったならば──人に、何ができると言うのだろうか。
ポルネイラはふと、夜空を仰ぎ見る。夜になれば空に星が瞬き、月が満ち欠けするのもまた、世界の理。
(でも、不可避だとしても……先延ばしにする事や、軽減する事くらいは、可能かもしれないよね)
考える事を放棄するよりは、考え、何かをした方が良い。たとえ結果が同じになろうとも。
(世界の人々が、「自分たち人間だけに益があれば良い」という考え方を少しでも変えたりできたなら、とか。どうしても、ある意味で自己否定的というか、人のエゴとの対峙みたいな事になるかな──)
茫洋と広がる星空の無限遠を仰ぎながら、亡国の元王女は黙想し続けるのだった。
(※これはひどい……ので注意。一回やってみたかったんです)
【ザ・スロータードラゴン 悪ふざけ裏話キャラ座談会】
竜「どうもーー、虐殺竜のアペたんでーーすっ! うぇーい!」
ロ「こんちゃーす! ロアンですー」
ポ「何なの、こいつらのキャラの崩壊っぷり……。ポルネイラでーす」
竜「キャラ崩壊してるのは作者のせいだから、気にしちゃいけねぇってこってすよ、姐さん!」
ロ「という訳で、妙なテンションだけど『作者の悪ふざけ裏話対談』をはじめようか!」
ポ「いやはや、やっと終わったねー」
竜「でもこの小説って、前に同人誌に載った時に、一旦終わってると言えるんだよね!」
ロ「その時にページ数とか制限があったから、好きなように加筆修正したってわけだな」
ポ「しかし、何年か経った後だし、今更って感じよね。どういう風の吹き回しだったんだろ?」
竜「あんまり不穏な発言したら、作者に退場させられるから気をつけようね、姐さん!」
ポ「さっきから姐さんって呼び方はなんなのよ、この黒トカゲ」
竜「気にしちゃダメダメだよー!」
ロ「これの前に、もう一つ、掲載された作品も加筆修正してたから、その流れだろうな」
ポ「"配達竜が運ぶもの"、の事だねー」
ロ「あれは、WEBサイトに載せた時も修正してたから、pixiv掲載の時、そこまで大きな修正はしてなかったようだけど」
竜「それに比べて、こっちは加筆修正しまくりんグって感じだったねー!」
ロ「丸々ワンシーンを加えちゃったりしてたなー」
ポ「しっかし、あっちの竜は紳士的で人間と仲良くやってるってのに、こっちの竜は最低って感じよね」
竜「なんだと、このー! 翼爪でチクチクしちゃうぞー!」
ロ「作者はいろんなタイプを書きたかったらしいな。にしても、すごい差がある二作品だけど」
ポ「虐殺竜はわたしがトドメを刺したわけだけど、作者は、竜を殺すところが、書いてて一番心が痛んだらしいよ」
竜「そりゃそうだよ! 嗚呼、可哀想な俺様! 悲劇的な死! ひどいよ姐さん!」
ロ「虐殺竜が人間を殺すシーンは、楽しげにニヤニヤして書いてたみたいだぞ。うう、俺のエルー!」
ポ「俺のって何よ、俺のって」
ロ「エルーが生きてたら、将来は俺と結婚して、幸せな家庭を作って、子供もできて……子供……エルーと子作り。むふふふふ……」
竜「はいそこ! 卑猥な妄想は無しっ! 尻尾アターック!」
ロ「グヒャッ」
ポ「エルーも、一番最初のシーンで虐殺竜に殺されて、可哀想だったね」
ロ「まったくだよ、この鬼畜トカゲ野郎めっ!」
竜「えっへん! でも作者はあれでも、控えめに表現したらしいんだよね、これが!」
ポ「と言うわけで、このあたりから小説の裏話に入る感じかなー」
ロ「最初の構想だと、ただ殺すだけじゃなくて、犯してから殺す描写を入れたかったらしいな」
ポ「さすがにそれはやりすぎだと思って、自重したわけね」
竜「俺様は人間の雌なんかに、興味ないよ! まあそういう描写があった方が、一部の嗜好の人が喜んだだろうけどさ!」
ロ「ハードすぎて18禁になっちまうよ。さて、次は『撃竜砲』の話にいくぞ」
ポ「ロアンが開発した長距離狙撃ができる、対虐殺竜最終兵器! これは強かったねー」
竜「めちゃくちゃ痛かったんですけどぉっ! まじで! まじで!」
ロ「あれを作るきっかけとなったのは、"モンスターハンター"(以下MH)のヘビィボウガンらしい。作者が愛用していた武器らしいな」
ポ「名前自体も、MHのガンランスの必殺技『龍撃砲』に似てるよね」
ロ「それは全く関係が無くて、偶然だと作者は言い張っていたけどなー」
竜「作者は、あれを小説に書くにあたって、兵器の構造とか仕組み、色々調べりんぐだったね!」
ポ「あまりそっち系の知識は持ってなかったみたいだからね」
ロ「まあ、ちゃんと調べたほうが、説得力やリアリティがある表現で書けるからなー」
ポ「戦車砲とかライフルとか、それらの弾丸について調べたようだね」
竜「ネットで検索ってほんと調べものに便利! うぇーい! ライフル銃ってのは、銃身内に螺旋状の溝を作ってある(ライフリングされている)銃全てを指すのが正しくて、その溝の効果で弾丸に回転を与えてジャイロ効果で飛距離を伸ばしてる事とか、発射火薬の参考には、ニトロセルロースを使った無煙火薬についてだとか、弾丸の参考には、ライフル弾のAP弾とか戦車砲で使われるAPFSDSだとかだねー!」
ロ「その成果か、まあそれなりに専門用語っぽいのも使ってたな」
ポ「まあ、あくまで小説の参考程度だから、そっち系のマニアの人から見たらしょぼい知識だろうけどねー」
竜「わはは! 努力だけは認めてやろうじゃないかー!」
ロ「何様のつもりだよ、おまえは」
竜「オ・レ・サ・マ♪」
ポ「アホはほっといて。ちなみに『撃竜砲』はシングルショット(単発式)で、弾を一発ずつ装填する構造みたいだったねー。あとシングルアクションで、撃鉄も手動で操作。このあたりは単純な仕組みで、あとはとにかく頑強にして、大量の発射火薬で射出速度の向上、つまり威力を高めるように作った感じにした、という設定みたいね」
ロ「うむうむ。我ながら素晴らしい兵器だ! 虐殺竜を確実にしとめるために無理しすぎていて、すぐに壊れてしまうって弱点がある設定なんだけどな」
竜「すぐ壊れるとか、しょぼしょぼって感じなんですけどー! ぷぷぷっ」
ロ「だまれ、それで撃たれて死んだくせにっ!」
竜「ちがうもんねー! 姐さんの剣で頭刺されてなかったら、生きてたかもしれないもんねー!」
ポ「はいはい仲良くしようねー。それじゃ、次。私が持っていた剣『ノルトゥング』について」
ロ「説明しよう! ドイツの英雄叙事詩『ニーベルンゲンの歌』に登場する剣に、『バルムンク』というのがある。この名前は、ゲームなどでもよく使われているから、聞いたことがある人も多いだろうな。で、その『バルムンク』と同じものの別名が、北欧神話の『ヴォルスンガ・サガ』に登場する『グラム』であり、リヒャルト・ワーグナーの楽劇『ニーベルングの指環』で英雄ジークフリートが持つ剣『ノートゥング』だと言われている。作者はこの三つの名前の中の、『ノートゥング』をもじって、『ノルトゥング』という剣にしたというわけだ!」
ポ「説明おつかれさーん。このあたりの知識は、調べなくても元々あったらしいね」
ロ「神話とか好きで、本を読んでいた時代があったらしいからな」
竜「インターネットがまだ無い時代に、図書館でそんな本を借りたりもしてたね! さて、次は俺様『虐殺竜』についてッスよ! うぇーい!」
ポ「え、それに何かネタあったっけ? 作者オリジナルじゃないのー?」
竜「まあ、ほとんどそうなんだけどねー! 『虐殺竜』で検索したら、答えは自ずと分かるんだな、これが!」
ロ「もったいぶらずにさっさと話せ、尻尾踏むぞ」
竜「むう、地味な主人公のクセに生意気だぞー! 『虐殺竜』ってのは、ゾイドのジェノザウラーの異名でもあるのだ! 名付けた後で気づいたらしいけどね! でも大型肉食恐竜っぽい姿とか、黒い色とかは、気づいた後で少し合わせてみたらしいのだ!」
ポ「翼爪も、オリジナルのアイデアとは言っても、なんかバスタークローとかエクスブレイカーを思わせるものがあるよねー。ま、似たようなのはたくさんあるし、こじつけになるけれど」
ロ「好きな人は読んでいて気づくかもしれないが、微妙なところだな」
竜「さらにさらに! 俺様の名前『アペティード』は、イタリア語で『食欲』を意味する『アペティート(Appetito)』が由来なんだよねー!」
ポ「アペティートって、よくイタリア料理店とかの名前にも使われてるわねー」
ロ「本編じゃ、あんまり名前で呼ばれてなかったけどな」
竜「いちいち人間相手に、名を名乗ったりしなかったからさっ!」
ポ「これで裏話とか設定みたいなのは、全部終わったかなー」
竜「あと一つ残ってるんだぜーい!」
ロ「む、なんだ?」
ポ「あー、小説の後日談とか?」
竜「そう、姐さん大正解~!」
ロ「それは、言ってしまっていいのか? 作者の脳内に留めておくという手も」
竜「言っちゃえー! 暴露! 露出! 露出狂!」
ポ「んっと、あの後、ロアンはわたしたちと合流して、一緒にロブラントを再建していく流れになる感じを考えていたんだっけ」
竜「そう、そして見事にロブラントは再復興していくのであーる!」
ポ「あんたが滅ぼした国なわけだけど?」
竜「過去を振り返るな! そこに明日は無い!」
ロ「かっこつけてないで話をすすめろー!」
竜「いててっ! 蹴らないでっ! ロアンめ、あとで内臓を引きずりだして五十音順に並べてやるぞー!」
ポ「で、ロブラントは無事に復興し、わたしは他に生き残ってた王族と結ばれる。ロアンは、技術開発局の局長みたいな肩書きを貰って、良い身分になるっていう感じ」
竜「ああっ! 待って! 俺様が話したいのー! その後は、次の王の時代も平和が続くんだけど、しかーし! そのまた次の王の時代に、ロブラント王国は、ロアンから受け継がれた高度な兵器開発技術を軍事利用し、他国の侵略を開始してしまうのだ! もうロアンとかポルネイラが天寿をまっとうした後の時代だね! そして大規模な世界戦争となって、多くの人間が殺し合う! なんてこったい! 俺様の予想通り!」
ロ「虐殺竜を倒す武器を作るためだけに身につけた俺の技術が、そっち方面に転用されていってしまうって話なわけだな」
ポ「わたしとかが、なんとか戦争とかが起きないようにと考えても、死んでしまった後、そういう考えを受け継がれなかったら、どうしようもないからねー」
ロ「作者らしい、救いの無い展開だなー」
竜「人間なんてそういうもんだから仕方ないさー! リアルでいいじゃないさっ!」
ポ「まあ、脳内だけの話だけどねー」
竜「さて、そろそろお別れの時間だねっ! 次回作、戦乱の世で巡り会うは、最後の竜と、戦争孤児の少女! 滅びゆく種族の哀愁と嘆き! 戦争に巻き込まれ全てを失った少女! 二人が紡ぐ物語とは!?」
ポ「いやいや、そんなの無いからね!」
ロ「と言うわけで──」
一同「ご清覧ありがとうございました!」