あなたの漢字ゲシュタルト、崩壊させませんか?
☆説明、注意書きの文体で進みます。
☆長い文章はわざとです。
☆人名ともとれる字を用いていますが、特定の個人をさしているものではありません。現実のものとは無関係です。
あなたの漢字ゲシュタルト、崩壊させませんか?
はじめに。
日頃使わないような難しい漢字を覚えるとき、無闇に覚えようとしないでください。
おおよそしくじって、答えを見て絶望されても迷惑です。
そうならないよう、新しい漢字の書き方を提案します。
崩壊する字はたくさんあるようですが、
ここではさほど難しくない「類」という漢字を書いてみましょう。
どうせなら「医者」の「医」の旧漢字でも書けば、ちょっとかっこいいと思います。
むしろ、犇く(読みは「ひしめく」)なんて簡単じゃないか、
と思われる方も大変多くいらっしゃることでしょう。
昨日の晩に「魚類」であるアジの塩焼きを食べたと推測するのはたやすく、
そもそも「犇」なんて「三匹の牛です」と説明する以外の
ボキャブラリーを求められても困ります。
「森」で散々「木が三つ」と言い尽くしています。
それに、彼らの胃袋が四つ存在している時点で、
ごまかしがきかないのをここは空気を読んで黙っておきませんか。
それが大人への一歩になるのです。
まず、読みから入りましょう。
音読み(おんよみ)は「ルイ」、訓読み(くんよみ)は「たぐい」です。
汚い字で書くと、「ハノイ」と「たらり」に見えてしまうので注意してください。
ベトナムの首都や語彙力があるのは大変結構ですが、
テストでしくじるリスクが高くなります。
先生の大らかさにプレッシャーをかけないであげてください。
ところで字がきれいだと、褒められるかもしれないし、
ラブレターを書いたときにうっかり名前を描くのを忘れても、
女の子がわかってくれるかもしれません。
下駄箱に蓋が付いていた例がなかったり、
蓋が付いても名札の位置を間違えてしまったりしたことのある方は
過度な期待をしないようにしてください。
完璧だと思った、その瞬間にこそ落とし穴が潜んでいます。
では、忘れかけつつある本来の目的を思い出しましょう。
「類」この字を三つのエリアに分けます。
「パーツ」と呼びたい方はそうでもかまいませんが、
「パンツ」でしたら全力で否定させていただきます。
さて、既に分けましたでしょうか?
「米」(こめ)「大」(だい)「頁」(おおがい)です。
ジグソーパズルがお好きな方は、ばらばらにしてセルフ漢字クイズしてもいいですが、
似た字の「数」と間違えて漢字練習しても責任はとれません。
あくまで自己責任で行ってください。
テストとは45分孤独との闘いなのです。
人名にもありますように米は「よね」や「まい」、大は「ひろ」「たい」などと
読んでもいいし、「頁」は本の「ページ」の方が分かりやすいでしょう。
えっ……ページの他の読みが見あたらないよ?
「よね」や「だい」にはいろいろあるのに、
「ページ」を一人きりにするなんて残酷なことができない純愛体質の
あなたは、「ページ」に「図書館が大好きな少年」という設定を加えてみましょう。
いろいろ想像できたら大成功です。
それから発音は「平時」と一緒です。
前述通り、この字は人名にも使えるので、どうせならここは飛躍して、
当初は「よね」をとりあっていた、「ひろ」と「ページ」のもとへ、
「ルイ」を登場させて仲裁したら、丸く収まるのではないでしょうか。
間違えやすい漢字を、自らが優しく包み込むのです。
ケンカでギスギスしているこんなときこそ、
あなたの漢字ゲシュタルト、大いに崩壊させませんか。
ブロックごとに分けられない漢字も存在します。
たとえば「主」という字です。
音読みは「シュ」「ス」、訓読みは「あるじ」「おも」です。
音読みと訓読みの違いについては繰り返し説明する気はありませんが、
「好きな子だから意地悪するのねッ」という、
表記的にも痛々しい勘違いをしないようご注意願います。
「主」には「人」をくっつけて覚えます。
王に「点」をつける、と説明すればいいじゃないか…そんな風に思われましたでしょうか。
しかし、書き順を変えてしまうのは推奨しません。
「玉」になってしまうリスクを回避できる勇者なら止めはしませんが、
ここでは避けさせていただきます。
「宝」にしてしまったら、「うかんむり」を解説しなければなりません。
たとえ「玉」には「宝」の意味があるにしても、
「うかんむり」の意味を尋ねられたらおしまいです。
マスターがキングを通り越してボールになってしまう恐怖におののくのは勘弁して下さい。
電話口で「花崗岩」(かこうがん)の字を尋ねられ、「山の下に岡という字を…」と
説明し、「山の下に丘」と書かれる高度な間違いに耐える、
そんな虚しい時間を過ごすことになるでしょう。
毎晩宿題のカンニング(もとい垂れ流し)でこちらが怒られるのは理不尽です。
相手が「岡」の字を知らなかったため、無限のループから抜け出すことができず、
あのもどかしさに耐える皆々様を想像しただけで心が苦しくなります。
更に、「王の上にテン」では、上に哺乳類を乗せてしまう危険性もありますので、
この表現は用いないことを再度ご了承願います。
残念ながら、「主人」になってもいきなり結婚できる訳ではないので、
お相手を探している方は別のところをあたって頂くことを強く申し上げます。
左側につけると「住」になります。
非常にしつこいですが、「住」になったからと言って、
お姫様と仲良くウフン☆なことになれるわけではありません。
いきなりいろんなところですっ飛ばして上手く行こうだなんて、
人生ナメると酷い目見ます。
「住」か「往」で迷って悶絶した友の顔は鬼のようでした。
結局ミスってしまったのは、誰にも言わないであげてください。
ところで「そもそも「人」って言ったのに「にんべん」つけるなんて詐欺!」と
思った方に「朗報」です。「良い情報」と書くのならいいのですが、
「良い朗報」とはしないで下さい。
この表現で行きますと「腹痛が痛い」と同義になります。
「頭のいい秀才」だなんてどんだけ大盛りにして、
一般人を再起不能にすれば気が済むのでしょうか。……伝わったのならいいんです。
ところで、にんべんは人が寄り添った姿を現した文字なのです。
フン、俺はいっぺんだって彼女がいたことはないんだ……とひねくれる必要はありません。
実体験に基づいて解説しております。彼女、彼氏だなんて一言も申しあげていません。
寄り添いたい方は、雨の後で木に耳を当ててみましょう。
生命の息吹が感じられ、心が豊かになりますが、
没頭しすぎて辺りの視線を忘れないようご注意ください。
「休」は木に人間がもたれているところ、一本足したら「体」です。
何だか得した気分になれる、そんな前向きな字です。
この字は二つセットで覚えましょう。
「たった一本足した」だけで、変身をとげる様をスラスラと言えたら、
あたかも賢くなったように見えるじゃありませんか。
一発屋でもいい方、楽をして賢くなりたい方にお勧めなのは、「日」です。
この字は一週間の休みの「赤い日」で、
学生にとっては基本ウッハウハな、避けては通れない字です。
音読みは「ニチ」「ジツ」音読みは「ひ」「か」。
「明日」は「す」じゃん!というご指摘は、ご容赦ください。
それは熟字訓といいます。
「カレーライス」の「ライス」を英語にするな!と反発する理論は残念ながら、
多くの方に支持されません。
「カレーご飯」がメニューにないアウェー感を積極的に味わいたい方は
勇気を振り絞ってください。
その結果カレー味の米が出てきたら、あなたの訴えが認められたことになりますが、
みんなは多分がっかりし、冷静な委員長辺りが「カレーピラフね」と駄目押しとなる
正論の突っ込みを入れ、誰も二の句を継がないでしょう。
これは「二つセットにしてそう読める字」……とでも妥協してください。
カレーに相棒を与えてやる。そんな心の広さを求めています。
そう、あたかも夫婦のような字だとご承知おきください。
夫と離婚したら妻でなく、ただの女……。
いいえ、一人の女としてみて下さればいいのです。
さておき、『都道府県 西と南も 仲間に入れて』 と川柳を読みたくなるお気持ちも
重々承知しておりますが、どうぞ地域の地名が頑張っておりますので、
それで勘弁してやってはいただけませんか。
郷里を愛するのもまた心なのです。
この字ではフルサトとは読めませんのであしからず。
夕暮れに思いをはせて疲れないうちに話を「日」に戻しましょう。
一本足せば「旦」(たん)、日の出の意味になります。
年賀状を出すとき「元日」と書けば一日中いつ届いてもOKですが、
「元旦」としてしまうと午前中必着必須希望になりますので、
郵便屋さんを苦しめることになります。葉書には余裕をもって行動させてあげましょう。
また、一年で最初の祝日も「元日」です。
「元旦」だと、午後から平日になるので気をつけましょう。
お母さん辺りに「平日は勉強する約束よね!?」なんて、
うまいこと言われる可能性があります。
そして「日」は、上に伸ばせば「由」(ゆ)、
下に伸ばせば「甲」(こう)になれる万能な字なのです。
書き順を問わないのなら、パートナーに選んでもよいくらいでしょう。
「一」の上に棒を足し、「二」にして終わり……かと思いきや、「三」にした!
小学校の名札で体験する、驚嘆の瞬間の再来となること請け合いです。
さあ、ここまで書きましたら賢い方はもうお気づきのことでしょう。
まだ、サンドイッチを出しておりません。
一と一ではさむ「亘」の字はあなたの心の中にしまっておいて、
いざというときの切り札にお使いください。
ただ、お知り合いにこの字をお使いの方がいらっしゃる方は、要注意です。
「え……、お父さんの名前だけど」と失笑されると、
このサプライズ演出は過去に類を見ない大失敗感が伴います。
こんな時には「旧」(キュウ)をお使いになってみてはいかがでしょうか。
「1日」(いちにち)と書き間違えるような紛らわしい書き方で、
ごまかして点数を良くしようとしたら収拾がつかなくなって、
まさかのハーレム状態で周囲の人々を惑わす自信のある方は、
「Ⅰ」を「アイ」と読ませても結構ですが、意味は通じなくなるかもしれません。
夏休みも終わりに近づいて、漢字の宿題が山積みの時にこそ、
あなたの漢字ゲシュタルト、崩壊させませんか?
読んでくださった方、ありがとうございました。
コメディ…というには登場人物がいない特殊な作品なのですが、
楽しんでいただけたでしょうか?