風浦ちゆきという少女
風浦ちゆきとは、わがままな子猫
風浦ちゆきとは、愛に飢えた小さな子供
風浦ちゆきとは、砂糖の詰まった柔らかな袋
風浦ちゆきとは、錆びて穴の空いたバケツ
風浦ちゆきとは、夏のさざなみ
風浦ちゆきとは、真夜中の大嵐
風浦ちゆきとは、二度とない奇跡
風浦ちゆきとは、ファム・ファタール
風浦ちゆきとは、真綿でできた絞首台
風浦ちゆきとは、大人になれなかった少女
風浦ちゆきとは、片翼のないことり
風浦ちゆきとは、
風浦ちゆきとは
冷蔵庫の中の機械人形。
病気になりそうなほど陽光が照りつける夏の日、弥いのりはいらいらしながら芝生を踏んづけたり、小石を蹴ったりしていた。ばたばたと騒ぎながら群れている子供たち、道の真ん中で愛をささやきあう外国人の男女、頭が痛くなるような蝉の鳴き声
ぜんぶぜんぶ、はらが立って仕方がなかった。
一方、きらきらと陽の光を反射して輝く波を見つめながら、ひとりの少年が運ぶダンボールに、蠅がたかってぶんぶんと耳障りな音を立てている。箱の中には、愛につかまって食われた少女のバラバラ死体が入っている。その、池野紫苑という名の少年は、その中身を聞かされたうえで、これを海に捨てることに同意した。彼は弥いのりの傀儡だった。
紫苑はいのりに恋していた。
いのりは紫苑を駒としか見ていないのに。
弥いのりの冷凍庫の中では、未だ風浦ちゆきが眠っている。
箱の中の少女だったもの、間宮麗も、風浦ちゆきも、みんないのりに食われた。麗は、腹の中を(本当のはらわたではなく、気持ちのこと)ぜんぶぜんぶちゆきに食い尽くされた後だった。
麗はいのりが散々甚振って殺した。
ちゆきは、ヘリウムと酸素マスクで、比較的穏やかに殺された。
綺麗に体が残っているのは、いのりがちゆきを想っていたから。自分のものにしたかったから。
いのりはこれに関していっさい罪の意識を持っていなかった。
永遠に愛されるのだから、ちゆきはもう寂しくなくていい。麗はちゆきというしがらみから解き放たれた。
これほど幸福なことを、コソコソと隠さなければならないことが腹立たしかった。
私は、自分の手で2人の「子ども」を幸せにして、ひとりの馬鹿な少年にばかげた夢を見せてやった。
賞賛に値するとさえ思っていた。けれど、世間のばかはこれを知ったらいのりを非難する、それに正気を疑うだろうし、きっとばれたらいのりは裁判にかけられる。
だから、言わなかった。
いのりをこうしたのは、ちゆきだったのだけれど。




