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9話 平行線を辿るお互いの正義

「私はラフィア。皆さんをここから出すために来ました。さぁ、怖い人が来る前に、ここから逃げ出しましょう。みんなで」


「ラフィア? 絵本で出てくる天使様と同じお名前だー!」


 人間の保育所を感じさせるような内装は、一種の不気味さを演出しており、壁にはラフィアと思われる天使の絵が何個も飾ってあった。


 優しく微笑みかけながら、少しだけ声に魔力を意識して乗せる。

 すると、何人かは近くによっては来るが、さすがと言うべきか魔力耐性の高い子供達が多い。


 半数以上はまだ戸惑ってラフィアに近づいてこない。


(ここ以外の世界を知らない子供達が集められているのですね。だから警戒をしている子が殆ど……

 もう少しだけ、魔力を込めた声をかける他ありませんか)


 申し訳ない気持ちになりながらも、もう一度声をかけようとした時、天井に取り付けられたスピーカーから甲斐田の声が聞こえてくる。


 その声を聞いて、喜びを露わにする少年少女達。最初にラフィアがかけた声の効力もすぐに失われて我に返っている。


「あ! パパだ!」


「最近会えなくて寂しいよぉ……」


 子供達が甲斐田を慕っているのがよく分かる。

 だが、甲斐田自身が与えているのは愛情ではなく、愛玩という感情。


『やぁ、こんにちはみんな。久しぶりだね。

 ラフィア様はさっきぶりですかね?

 どうしてこんな凶行に出られたのかは予想がつきます。


 ですがそううまくいきますかね?

 これから彼ら彼女達には最終試験を受けて頂きます』


「どういうつもりですか」


『どういうつもり、とは?』


「こんな道具のように箱に閉じ込めて、この子達の未来を奪う権利はあなたにはないと言っているのです!」


『全く見当違いのことを仰いますね。

 ここに集められているのは悪魔ゾルダートによって親兄弟を奪われ、故郷を奪われた犠牲者達の生き残り。


 あなたが取りこぼした人類の一部を、私が再び救い上げる。

 そして全てを奪った憎き仇を討つ機会を、再び与えてあげているのです。

 これは救済ですよ! 天使ラフィア!」


「それは違う!! 

 そんなこと、子供が望むように幼い時に教育。

 いいえ、洗脳しているだけではありませんか!」


「おやおや、手厳しいですね。

 ですが以上は平行線を辿るのみ。

 あなたとの対話はこれで終わりにしましょう。


 さぁ、二人目の誕生を祝おうじゃないか。

 最終試験を開始しろ』


 ラフィアは近くの子供達を両手で抱き寄せて、強く身構えたが、部屋のありとあらゆる所から青白い煙が噴き出てくる。


(何かのガス……! この感じは悪魔ゾルダートと同じ魔力が込められているガスを撒いている!)


 すぐに周りの子供達に息を止めるように、魔力を込めた声で指示しようとしたが、最初にラフィアへ駆け寄ってきていた子供達が既に咳き込み始める。


「息を止めて!!」


 徐々に立つことも叶わなくなり、床に倒れ込み、白い泡をブクブクと噴きながら呼吸を止めて行く。


(お願い! 早く止まって!)


 ラフィアの力ならこの部屋ごと完全に吹き飛ばすこともできる。

 だが、碌な魔力防御も出来ない内にラフィアの攻撃の余波を浴びれば、間違いなく致命傷は避けられない。


 いくら悪魔ゾルダートを打倒する力を持っていても、使い方を誤れば止めることの出来ない兵器に他ならない。


 庇護対象がこんなに近くにいた状態で、本来の力を発揮しては来た意味がない。

 ただ泡を噴いて中毒症状を起こし、絶命する幼い子供達を見守ることしかできないと思ったが、ダメだとしても回復魔法を反射的に使ってしまう。


「待って……、ヒーリング!

 お願い。戻ってきて!」


 天使のみに許された魔法をかけるが、解毒には効果がなく意識は戻ってこない。

 瞳から涙が溢れると同時に、ラフィアは目の色が煌びやかな金を強く発色するようになり、スピーカーを強く睨む。


 スピーカーの接続先にいる、ガスを流した研究員が目から血の涙を流して意識を失い、倒れた拍子でボタンが押されてガスが止まった。


 しかし、ガスが止まったとしてもただ一人を除いて、およそ全員が死亡。もしくは虫の息だ。

 死んでしまった子供を労るようにゆっくりと下ろし、残る最後の子供に歩み寄る。


「あなたは大丈夫なのですか?」


「ええ、まぁ。大丈夫ですよ、ラフィア様」


 安心しつつも、すぐ表情を引き締め直して言葉をかけた。


「見ての通り、あなた方が父と呼んでいる甲斐田は子供達を使い潰している。

 このままではあなたも死ぬまで兵隊として終わりのない戦いに駆り出されてしまいます。


 さぁ、一緒に参りましょう。

 ここを早く出なければ」


「大丈夫ですよ。ラフィア様。

 この最終試験は、私の耐性を確認するため。

 この子達は出来損ない。資源を食い潰すだけでこれ以上生きて行く価値はない。

 彼なりの救済なんですよ」


「なんてことを! いくら洗脳が行き届いていてもそれだけは間違っている!

 命の選別など人の身には大いに余りある行為です!」


「安心して下さい。

 すぐにあなたも千年の枷から解放して差し上げますから」


「何を言って……!」


 ドスン___。


 ラフィアの腹には青色を放つ魔力光で出来た剣が深く突き刺さっていた。

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― 新着の感想 ―
颯馬とラフィアの出会うシーン、素敵でした。颯馬の良さが出ていますよね。普通だったら萎縮しちゃうのに、何ら変わらない態度がよかったです。ラフィアは真面目なんですね。続きもかなり気になります。
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