表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/44

44話 最終回 二人の時間

「よっ……!」


 誰もいない日本の山岳地帯の中腹で、一人の少年が薪を斧で割っている。

 額に滲んだ汗を首にかけられたタオルで拭いながら一息つく。


(こんくらいで足りるか……?)


 山積みにされた薪を見上げながら、少年の元へやってくる赤いハーフロングの少女が歩いて向かってくる。

 背後には丸太で出来た木製のペンションにも似た、決して大きくはない家が一つ。


「お疲れ様。そろそろ終わった?」


「あぁ、今終わった所。

 それにしてもラフィアのその話し方、どうにも慣れねぇんだよな」


「し、仕方ないじゃないですか!

 こうして会話で距離を取るのはもう止めたいのですよ! あっ……、止めたいの!!」


「いいんじゃねぇの? そっちの方が俺も話しやすくて助かるし」


「じゃあ茶々入れないでよ。もう」


 ラフィアが少し大袈裟に頬を赤くしながらそっぽを向いて憤慨している。


(初めて会ったより感情が随分と豊かになったな)


 変化に気づいて少し優しい笑みを浮かべる。

 すると、ラフィアがもう一度グイグイ距離を詰めて顔を近づけながら感情を発散する。


「また変なタイミングで笑って!

 もしかして馬鹿にしてる?」


「してないしてない。ちょっと嬉しくなっただけさ」


 ラフィアは何か不満気だが気持ちを切り替え、積み上がった薪を見上げる。


「それにしても、ちょっと頑張りすぎじゃない?」


「運動になるからいいのいいの。これくらいやらないと汗もかけないしよ」


「やっぱり魂を転写した時に何か……。いや、颯馬の魂自体が人より強いのかな……?」


 ぶつぶつと独り言を言っているラフィアを無視して、颯馬が薪をテキパキと家の中へ運んで行く。


「ほら、ちゃっちゃと済ませちゃおうぜ。

 そろそろに夕方だしよ。

 晩飯、作るの手伝うぜ」


「それは私の持ち分!

 仕事取らないで欲しいのだけど!」


「真面目だなぁ」


 二人が家へ入っていく。

 全ての悪魔ゾルダートの討伐が結果的に完了してから数年後。

 ラフィアと颯馬は東京の街を復興する仕事を手伝いながら、閉まっていたシャッターがぽつりぽつりと開け始めたタイミングで住処を探し始めた。


 こうしてどこかわからない山の一角で生活を始めてから家を建て、二人だけで暮らしている。


 近くには鹿や熊、川に行けば魚を取り、野菜は復興の手伝いをしたお礼にもらった種を蒔いて育てている。


 文明レベルはやっと人らしい生活を手に入れ始めた頃。夜になり照明は蝋燭と月と星灯りを頼りに慎ましく生活をしていた。


 ラフィアはその気になれば、天使の座を捨てて人間になった今でも様々なツテを使えば最上級の暮らしが出来ただろう。

 本人も最初は颯馬と一緒にその生活をしようとしていた。


 しかし、颯馬がそれを「身の丈に合わなさすぎて無理」と一蹴したことで今は大自然の中で暮らすことを選んだ。

 ラフィアは最初反対していたが、こうして手に入れた誰にも邪魔されない二人きりの時間を楽しんでいる。


「悪いな。俺のわがままでこんな山奥に来て」


「もう、またその話?

 私は結構気に入ってるよ、今の暮らし」


「そう? ならいいんだけどよ。

 やっぱり夜になると電気も通ってねぇし暗いだろ」


「まぁ、それはそうだけど。でもね、誰も見ていないからこそちゃんとあなたと一緒に同じ時間を歩いて行ける。

 私の後援の人に頼ってたら、それこそ今みたいに誰にも気を遣わなくていい生活はできなくなるし」


「ラフィアがいいなら俺はいいけど。

 俺も気を遣って過ごすのだけは無理だしよ」


 少し自虐っぽく笑うと、食べ終わった食器を片付け終わったラフィアが膝の上に乗ってくる。


「なんだよ?」


「ううん、別に。なんか幸せだなって。

 私こそいいの? ずっとあなたの時間をもらっちゃって」


「何言ってんだ、俺にはもうお前しかいないんだよ。他の奴と一緒になったって、絶対上手くいく自信ないからな」


「なんで?」


「当たり前だろ、絶対にラフィアと比べちまう。そんでうまくいかない。

 絶対に昔の女の影が見えて辛い。とか言われるのがオチさ」


「颯馬にはもう私以外の女性とは付き合えないってことね」


「まぁ、そういうこと。言わせんな恥ずかしい」


「いいじゃない。私以外は聞いてないんだから」


 そう言ってラフィアが颯馬を抱き締める。

 颯馬もまたそれに応えて背中に手を回した。


 心臓が跳ねる。

 いつからお互いに意識するようになったのだろうか? 本人達にもそれはわからない。

 だが、ラフィアの背中にあった純白の翼が今はもう無い。

 定命となり老いる道を選択したラフィアに、颯馬は少し引け目を感じていた。


「ねぇ、私達。そろそろさ」


 ラフィアが優しく颯馬の唇にキスをする。

 意味しているのは、こういった経験の無い颯馬でも理解していた。

 だからこそ、一線を超える前にどうしても確かめておきたい。


 颯馬が重い口を開く。


「なぁラフィア、俺も同じ気持ちだ。

 だからその前に一つだけ確認させて欲しい」


「何?」


「本当にこれでよかったのか?」


 意味することをラフィアもすぐに気づく。

 だから怒った。すごく怒る。


「颯馬がいない世界は灰色なの。

 私の力と引き換えに戻って来られるなら、それでいいって前にも言ったよね?

 どうしてそんな寂しいこと言うの?」


「いや、その……。悪い、なんか自分で言うのもアレだけどよ。自信ねぇんだよ。

 ラフィアをこの先ずっと幸せに出来るかどうか」


「ならまずはあなたと私で絆の証を刻んで?

 そしたら私以外にも幸せにしなきゃいけなくなって、気にする時間なんて無くなるんだから」


「そうかもな。もう言わねぇよ。だから……!」


 颯馬がラフィアを抱える。

 とても軽い元天使を、優しくベッドに下ろす。


 蝋燭の灯りは音もなく消え、二人は幸せな時間を過ごし、お互いの命が消えるまでずっと寄り添い暮らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ