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41話 最後の契約

 相棒の名を呼ぶ。

 ラフィアからは窺い知れないが、颯馬の表情はこの時薄く笑っていた。


「ラフィア。一つ謝んなきゃいけねぇことがある」


「何ですかこんな時に……!」


「ラフィア」


「聞きたくありません!

 そんな……! だってあなたがそこまでしなくたって! 嫌です!

 こんなところで!!」


 颯馬がこれから言おうとしていることを聞きたくなかった。

 今生の別れを匂わせる相棒の言葉は、ラフィアにとって半身を失うほどの喪失感を伴うものだった。


「ありがとなラフィア。俺はアンタに会えて、一緒に色んな所行って。

 まぁあれだ。感謝してんだ。

 だからありがとう。


 そんですまん__。俺はここでこのバケモンを止める」


「颯馬……!!

 どうしてあなたがここまでしなくちゃいけないの!! お願い! 死んじゃ嫌!!」


 普段の澄ました顔、口調、そして声質からは想像できない子供のような駄々を思わず言ってしまう。


 例え颯馬を困らせることになっても、ラフィアが孤独に頑張っていた千年よりも、颯馬と過ごしたこの一年にも満たない期間。

 かけがえの無い得たばかりの絆を失いたくなかった。


 一度だけ颯馬がラフィアへ振り返る。

 そして少しだけ笑ってから、大きな背中を見せて決意を口にする。


「内側の悪魔! 聞こえているか!!」


『なんだ?』


「俺の身体、全部やる! なんでもやってやる! だから力を!!

 俺に今ここで、アイツを止める力を寄越せ!!」


『……! フハハ……! アハハハハハ!!!!

 愛する者の為に命をかける!

 素晴らしい自己犠牲だ!


 だが、それではつまらん。

 つまらんぞ葉山颯馬!!

 俺が求めるのはただ一つ。お前が持つその気高い魂。魂という極上の馳走を貰い受ける。いいな?』


「はっ! 今更何を取られたって構わねぇ。

 全部やるって言ったろ。さっさとしやがれ」


『ククク、契約成立だ。

 お前の魂はさぞ甘く美味だろう!

 さぁ、さっさとあの生まれたての赤子を殺すがいい』


 颯馬の身体から紫色の魔力が噴き上がり、そして瞳の色もまた紫紺へと変わる。


「行くぞ、魔神ゾルダート」


 完全に封印の儀から身体を乗り出した魔神を睨む。絶対に勝たなきゃならない戦い。


 オレンジ色の目がラフィア以上の魔力を放つ颯馬を捕食対象として認識する。

 全身から触手の腕が大量に出現。颯馬を捕まえようと伸ばしてくる。


 ラフィアに追い詰められた時に獲得した自我を感じる攻撃を仕掛けてくる。


 全ての腕が颯馬に向かうのではなく、颯馬を包み込むようにドーム上に展開される。

 逃げ場を無くしてから締め上げようとする魔神ゾルダートの表情が笑みで歪む。


「あっ、あっはっはっは!!

 お前おわり! もうおしまい!

 いただきます!!」


(好都合……! 下手に逃げられるよりかよっぽどマシだ!!)


 と覚悟を決めた颯馬が大理石の地面を抉り、大きく一歩を踏み出す。


 契約前よりももう一段階高められた速さと攻撃の重さ。

 二つを掛け合わされた渾身のドロップキックが魔神の腕を貫いて頭を吹き飛ばした。


 頭を吹き飛ばしたにも関わらず、魔神ゾルダートの声が響く。


「むだ、無駄。攻撃、効かない」


 最初の再生と同じく頭部がウネウネと蠢き、頭が元に戻っていく。


「あぁ、知ってるよ!!

 だがな、再生してる時のお前は無防備だろ!!」


 空中を面で捉えて颯馬が空気を蹴って勢いを反転させる。


 そして再び距離を詰め切って蹴り上げる。

 数十センチだけ魔神ゾルダートが空中に浮く。

 蹴り上げる。蹴り上げる。ひたすらに蹴り上げる。


「ああぁぁぁああ!!」


 蹴り上げた右足が、肉と骨が耐えきれない力で何度も酷使されて少しずつ欠損していく。

 もう蹴りが使えなくなった右足を、魔力で義足を作り上げ、上へ、もっと上へ。


 鉄と鉄を撃ち合うような音が響き、天を衝かんばかりに打ち上げる。

 そして魔神ゾルダートを追い越して全身全霊の踵落としを叩き込んだ。


「落ちろぉぉおおおおお!!!!」


 目が充血を通り越して血が滲み出ながらも、颯馬は命を燃やして、心を燃やして一つの流星となって墜落していく。


 ラフィアの体制がよろけるほど、轟音と共に地面が揺れる。


「颯馬!!」


 ラフィアが駆け寄るが、そこにはもう颯馬の魔力反応はどこにもない。

 失ってしまった。かけがえのない相棒を。

 片翼をもがれたような心の虚無感はもう取り返しがつかない。


 今までのラフィアなら、反射的に感覚を閉じようとしていただろう。

 だが、最後まで命を燃やし尽くした颯馬の勇姿に泥を塗ることだけはしたくなかった。


 目からは声にならない涙が止めどなく溢れてくる。それが今までの感謝なのか、力が足りなかった自身への再びの後悔なのかはラフィア自身わからない。


 それでも、それでも。

 まだ破壊しきれなかった魔神にトドメを刺すのはラフィアでなければならない。


 そう覚悟を決めた瞳には、もう涙は浮かんでいなかった。


「ありがとう。颯馬!!

 私はもう、迷わない!!」


 決意を胸に刻み、神剣に力を込めた時、温かな光がラフィアに降り注いだ。


『大天使ラフィア。天界を統べるに相応しい者よ。この声が聞こえていますかい?』

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