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40話 赤子の声が次元の狭間から響く

 焦るように、また冷静に指示が通るように、颯馬がラフィアに叫ぶ。


「ラフィア! 一気に畳み掛ける!

 頭が再生し切る前にやつを叩く!」


 ラフィアも頷いて、また神剣・刹那を携えながら斬撃を連続で放つ。

 颯馬もまた再生中の無防備状態にいた魔神ゾルダートをひたすらに打撃を与えて破壊していく。


 斬撃によって触手の腕をおそよ八割落とし、打撃によって身体の中心部に大小様々な穴を開ける。


 それでも、頭部の再生が終わろうとしていた。

 ラフィアと颯馬が一旦距離を取り直し、無駄な攻撃を繰り返しても意味がないと判断する。


「どうする?

 恐らく奴にはチマチマ攻撃しても全部再生されちまう! もっとデカい攻撃を与える必要があるぞ」


「私に考えがあります。

 私が魔力を高める間、あの魔神を足止めして下さい。出来ますか」


「また無鉄砲なこと企んでるな!

 いいぜ、乗った!」


 ラフィアが瞳を閉じて全魔力を翼に送る。

 増幅回路として機能している翼が悲鳴を上げるように、けたたましく高い音を出して何倍にもなった魔力がラフィアへと還元されていく。


 颯馬は一人で魔神ゾルダートへと突っ込んでいく。延長線上にラフィアがいるため、横へと大きく回り込みながら近づいていく。


 今までずっと隣で見てきたラフィアの魔力制御。颯馬の目は既に肥えていた。


 魔力を任意の場所に集中という、無意識下で一度はアリストルに咎められた魔力の偏り。

 それを意識的に強めていくことに成功する。


 一度全身から魔力の感覚を全て抜き、脱力状態を作ってから颯馬の意識にスイッチが入った。


「いくぞ……!!」


 足に魔力が完全に乗り切り、硬い大理石の地面を抉りながら踏ん張りを効かせて思い切り水平に飛んだ。


 空中で何度も威力を倍加させるために、大きく踏み込みを繰り返して速度を上げていく。


(お前は確かにラフィアから生まれて、アリストルを喰って能力まで得たバケモンだ。

 だが、やっぱお前はここで止めなきゃならねぇ。ラフィアに作戦があるなら、俺はその可能性に全魔力で応えてみせる)


 心では理解していても、颯馬は揺動ではなく仕留め切るつもりで威力を上げながら回し蹴りを放つ。


「オオォォォォォオ!!!」


 全力で蹴られた魔神ゾルダートは、大きく圧力を加えられて膨らんだゴムを潰すように凹み、会心の一撃が入る。


 再生が完了し、魔神ゾルダートのオレンジ色が除く口元から唾液のような液体が漏れ出る。


 数十メートル以上吹き飛ばし、ゴロゴロと転がりながら魔神ゾルダートが派手に転倒した。


(さすが颯馬……!)


「今だ! ラフィア!!」


 攻撃が終わった瞬間を待っていたかのように、ラフィアが両手を魔神ゾルダートに向けて高らかに言い放つ。


「封印の儀、発動!」


 前回に一度だけ天界そのものを封印した儀を、今回は魔神ゾルダートに向けて放つ。


 世界そのものではなく今回はゾルダートに限定され、術の効果範囲を絞ることで術そのものが持つ力を自動的に強めていた。


 次元の裂け目とも呼ばれるものが現れ、魔神ゾルダートが吹き込んでくる風にまとわりつくように吸い込まれていく。


 その時、魔神ゾルダートが始めて苦悶の表情と共に声を発しながら抵抗を見せ、追い詰められて初めての自我を獲得する。


「イヤダ……。モット、マリョク、ホシイ……。

 ヒトリ、イヤダ。サミシイ、オカアサン」


「……っ!! あなたは確かに私の子供です。

 だからこそ親としての責任がある」


「イヤダ、イヤダ……! 

 いやだぁぁぁあああああ!!

 暗い寒い寂しい悲しい苦しいああああああぁぁぁぁああああ!!!!」


 バタンッ!!


 断末魔と共に必死に抵抗を見せていた魔神ゾルダートの気配が完全に消える。

 ラフィアは大きく息を一つ入れて地面へへたり込んだ。

 颯馬の安否を確認せねばと、視界の感覚を強化してフォーカスすると、封印の儀に巻き込まれずにこちらもくたびれた様子でラフィアに力なく手を振っている。


 ホッとする。

 もし魔神ゾルダートの封印に巻き込んで一緒に次元の狭間に放り込んだら、一生出てこれないのは間違いない。


「颯馬……!」


 ラフィアも度重なる魔力行使、神剣・刹那の連続使用と、最後に最も魔力を消費する『封印の儀』を間髪入れずに発動した。


 こちらもまた立つのでやっとどころか、ヒーリングすら発動ができないボロボロの状態。


 力なくパタパタと翼を鳥のように多く振らないと飛ぶことすら叶わない。それでも、一緒になって戦ってくれた颯馬に感謝を伝えたい。

 その一心で飛んでいく。


「よう、お疲れ……」


「ええ、お互いもうクタクタですね」


 呆れたような、精魂尽き果てた二人がお互いに小さく笑い合う。


 終わった。終わったんだと安堵していると、どこかでピシっと何か硝子にヒビの入るような音がする。


 どこかで瓦礫でも倒れたのだろうと二人とも気にしなかったが、次第に音が大きくなっていく。


 ピシ、ピシッ!


 この時初めて異変に気づき笑いを中断する。

 まさか、いやそんなまさか……!


 音の方向を反射的にみると、空間の一部が欠けていた。


「……ッ!」


 バリンッ!!!


 完全に空気が。否、空間に大穴が空いてオレンジ色の巨大な腕が手をかけている。


 自我を獲得した魔神ゾルダートが、封印の儀によって閉ざされたはずの次元狭間から力ずくでこちらに戻ってこようとしていた。


「ああぁあぁぁぁああああああああ!!!!」


 赤子のような悲鳴を響かせながら、魔神ゾルダートが完全に這い出てくる。


 その現実感の無い光景にラフィアは呆然としていたが、颯馬が庇うように前へ出た。


「そう……ま?」

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