38話 幸せな最後と相棒
ラフィアの身体からとてつもない魔力が体外へ放出され、とめどなく溢れて止まらない。
オレンジ色の光は一層強さを増していく。
歯がいじめにしていた変異体もいつしか颯馬を解放し、アリストルと同じように片膝をついて頭を下げた。
「ようこそ、天界へ。これであなたも立派な天使になれましたね」
顕現した悪魔はアメリカで見た大型の個体よりも十倍以上は大きい。
ラフィアから生まれた悪魔は、巨大な魔力を周囲に放つと共に、縮小した天界を元の大きさ以上に領域を拡張させた。
引き換えに地形を更地へと変えていく。
床は自重により深く抉れ、柱は全て薙ぎ倒される。オレンジ色の縦に入った模様は、川の流れを思わせるような力強い脈動をしていた。
アリストルが立ち上がり、新しく生まれた最大の悪魔を見て感動の言葉を叫ぶ。
「素晴らしい! フフハハハハハハ!!!
素晴らしい力だ!! 最早悪魔と呼ぶのも烏滸がましい!!
まさに神だ!
天使が傅くに相応しい力!
ハーッ、ハッハッハッ!!
この千年以上に渡る目標が! 理想が!
今ここに体現したのだ!
祝え!! 私達の子供の誕生を!!
ラフィア!!!!」
大きな影が大口を開けてアリストルに迫る。
ガブリ……ボキッ、ゴリュ……。
尚も続く咀嚼音
そして止まる歓喜の声。
神にも等しい力を持って生まれた悪魔の口から真っ赤な液体が滝のように流れ落ちる。
残った膝下の足も綺麗に齧り付き、そしてまた咀嚼し、音を立てて飲み込んだ。
次の瞬間、ただでさえ大きかった魔力の気配が更なる高みへと昇っていく。
「アリストル……?」
「喰ってんのか……」
現実感が無い。あれだけラフィアの心を煽り、弄んだ統括天使アリストルの目標が達成された瞬間。
こんなにもあっけなく命を悪魔に刈り取られてしまうとは、ある種の幸せなのかもしれない。
最後に幸せの絶頂を迎えた中で逝けたことは、アリストルも本望だった、はずだ。
だが最悪の置き土産だ。
状況は最悪。
未だラフィアは生み出してしまった悪魔の目の前で力なく座り込み、どこか遠くを見つめている放心状態で涙を流している。
アリストルの魂ともいえる魔力の核を喰らい、肥大化しても生みの親であるラフィアをも喰らおうとしていた。
颯馬がラフィアを素早く抱いて走り出す。
未だに残っていた倒れた石柱の影に倒れ込むように隠れ、ラフィアの肩を強く掴んで颯馬が声をかける。
「ラフィア! しっりしろ! おい!」
「颯馬。私は……、取り返しのつかないことを……」
「んなこと今はどうでもいい! やっちまった責任は俺にだってある。
リーナも、シエルも死んだ。確かに取り返しのつかないことだ!
だけどまだ俺がいる!
地獄だってどこだって、一緒に行ってやる! 文字通り最後までな!!
だからもう一度だけ、もう一度だけでいい!! あと一歩を踏み出せよ!!!
ラフィア!!!」
ラフィアの目が丸くなりながら驚く。
流れ落ちる涙は止まり、真っ直ぐに颯馬を見つめる。
ラフィア自身、まさか颯馬がここまで自分のために感情をむき出しにしてくれるとは予想出来なかった。差し伸べられた手を握り返すと引き寄せられて強く抱き合った。
「あなたは私の生きる希望です。ありがとう、颯馬。
もう迷ったりしない。自分の後始末は自分つけます!」
「俺達《二人》で、だろ」
二人は前を向いて、巨大な悪魔を見つめながら覚悟を示し合うように拳を合わせる。
同時に駆け出し、颯馬は青い魔力を迸らせ、ラフィアは神剣・刹那を再び始めから顕現させる。
神にも等しい力を得た悪魔、魔神ゾルダートへ距離を詰めていく。
それを拒むように、魔神ゾルダートの腕がオレンジ色の魔力の流れと共に空中に伸ばされて襲いかかってくる。
腕の数は目視だけでも数十本。
捕まえようとしてくる動きから察するに、二人の魔力を狙っての行動だと直感的にお互いに判断。
颯馬は跳躍と左右へ瞬間的に移動を繰り返し、ラフィアは神剣で襲いかかる腕を切断していく。
颯馬が上空へ大きく飛び上がり一気に近づいた時、魔神ゾルダートの口元が笑みで歪んだ。
「……!! 空中回避できないと思ったか!
甘ぇんだよデカブツ!!」
一斉に伸びてくる腕を空気を蹴りながら、勢いをブーストして回避と接近を同時に行い、更に一層の加速を見せて突っ込んだ。
神速の動きで空中から迫る颯馬を捉えようと、魔神ゾルダートのオレンジ色の眼光がギョロギョロと素早く動く。
「ぶっ飛べぇぇえええ!!」
だが、それでも動きを捉えられなかった颯馬の渾身のドロップキックが顔面に命中し、衝撃派と共に大きく姿勢がぐらついた。
ラフィアは自分がノーマークになったことで一気に足元まで翼を広げ、こちらも肉薄してから飛び上がる。
身体を何度も回転させて遠心力をブースト。
魔神ゾルダートの左腕の付け根目掛けて裂帛の気合いを叫びながら神剣・刹那を振り下ろした。
「はあぁぁあああ!!!」
まるで豆腐を切るが如く、滑らかな切断面を残して斬り落とす。
ファーストアタックはこちらが優勢、相手の攻撃もよく見える。機動力なら圧倒的な差が両者にはあった。
だが、簡単に斬り落とされたはずの左腕の肩がウネウネと蠢き始め、すぐに新しい腕が生え変わった。
「やっぱり普通じゃねぇな!!」
「弱点である頭を重点的に狙いましょう!
今と同じ方法で何度でも!」




