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36話 シエル救出作戦

 破壊された天界の入り口である空間のひび割れが見えてくる。

 ラフィアと颯馬は身体をお互いに強く抱き寄せ、封印のその先へと進む。


 世界が白く明滅を始め、視界が光でしばらくの間塗りつぶされた。

 空気はある。天界の門を潜り抜けると、眼下に天界の風景が広がっていた。


「ラフィア」


「はい。ここが私の生まれた天界になります」


「随分と小せぇ所だな」


「私がいた頃は天使の数がまだいましたから、数に合わせて空間が広かったのでしょう。

 しかし天界に天使がいなくなった関係で規模がここまで小さくなったのかもしれません」


 ラフィアは千年前に自分がよくいた硝子床を遠目から見つけて少しだけホッとする。

 まだ自分のいた痕跡が、今もなお残っていると安心したから。


 天界に到着してからは、どこからか水を吸った土を掘り起こした時に感じる匂いが鼻をついた。若干の肌寒さから、下界と比べても温度が低いのだろう。

 吐く息が白くなる一歩手前くらいの体感温度は、緊張と共に余計に寒く感じた。


 すぐに颯馬は頭を戦闘モードに切り替え、冷静に天界の環境を頭に叩き込んでいく。

 颯馬は天界の現状をあるがまま受け入れていたが、ラフィアは天界の取り巻く地形の変化に戸惑いを隠せなかった。

 唇を少しだけ結び、自然と歯が食いしばられる。


 かつて自分のいた場所がまだ残っていたとはいえ、規模の縮小だけでなく白い石柱が等間隔に美しく並んでいたはずの中庭部分が途中で折れ、倒れて繋がっている天井まで激しく損傷している。


 最高神に謁見する中央大広間も、今となっては瓦礫の山だ。こうなっては最高神のお力を借りることも難しいだろう。


 崩壊現象はラフィアが封印の儀を発動したと同時に、アリストルが起こした召喚の儀によって、悪魔ゾルダートが並行世界からラフィアと颯馬のいた世界へ集められた。


 それと同時に天界から締め出された天使達はまだ下界から戻ってきていない。封印が解かれたことに気づいていない者が殆ど。


 来るかわからない援軍に期待しても仕方ないどころか、アリストルの側についてしまう可能性も大いにある。


 ラフィアは颯馬と二人でやるしかない。

 天界の地面に颯馬を降ろし、改めて周囲の状況を確かめるように辺りを見回す。


「ここも随分と変わってしまいましたね」


 颯馬もまた足下が途中で抜けてしまわないか心配になりつつも、大理石のような硬くて滑らかな地面に降り立つ。

 所々石柱の破片が地面に転がっているが、問題はないと恐る恐るながらも慣れていった。


 歩く度にカツカツという硬い音がが響く。

 二人の目的地は魔力反応からアリストルに与えられている私室。


 やはりというべきか、入り口だけは綺麗に保存されており、重厚な造りは圧倒的な雰囲気を放っている。


 もう隠れる必要が無くなったのだろう。

 中には巨大な魔力が一つだけ、寧ろラフィアにはアリストルが誘っているようにも思えるほど堂々たる圧を感じた。


 まるでドライアイスの煙が中から這い出てくるような魔力が常時流れてくる様子は、二人を萎縮させる。


「颯馬、覚悟は出来ていますか」


「いつでも行ける」


 颯馬の力強い返事は、言葉をかけたラフィアを逆に安心させた。

 一瞬だけ微笑んでからすぐに表情を引き締め、一緒に両開きの扉を押し込んで行く。


 玉座に腰掛けるアリストルがゆっくりと二人を見下ろし、ローブをなびかせながら立ち上がる。


「ようこそ私の天界へ。その表情から……」


「神剣・刹那!!

 アリストル! 覚悟!!」


 言葉を遮るように、必殺の専用武器を呼び出して一直線に正面からラフィアが突っ込んで行く。




 事前に二人は役割を分担していた。


『私がアリストルへ神剣を持って引き付けます。颯馬はその隙に!』


『おう、シエルを助けに行く。囚われのお姫様を救出しに行こうぜ』




 アリストルはついた埃を払いながら、やれやれと呆れながらも魔力を高めた。


「せっかちな天使だ。折角千年以上の長き月日を費やしたのですから、もう少しこの時を楽しもうじゃありませんか?」


 アリストルの標的が完全にラフィアへ切り替わった瞬間に、颯馬は部屋の外周に沿って音を消しながらシエルの下へと駆け寄る。


 二人の戦いの最中、シエルが白装束の衣装に着替えさせられた状態で、磔にされて手首や足首に撃ち込まれている太い釘を抜いていく。


 途中シエルの血で手が滑りながらも、全ての釘を引き抜き、大事そうに抱えて一番遠くまで運んでからゆっくりと降ろした時、颯馬は気づいた。


「おいまさか……。おい!!」

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