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33話 過去編 アリストル、魂の変質

 アリストルが咄嗟についた嘘。この時は最高神から何の命令も受けていない。

 なぜラフィアに対して嘘をついたのか自分でもよくわかっていなかった。


 しかし、後々になって気づく。アリストルがラフィアに対して何か特別な感情を抱いていることに。今はただ、よくわからない面白い天使を見ていたい。それだけの感情。




 ラフィアが大天使になってから、ある報告が統括天使であるアリストルに入る。


悪魔ゾルダートの発生数が増えてきている。ですか……」


 報告書にはある日を境に悪魔ゾルダートの発生数の推移が上昇していると記載されている。時期はおおよそラフィアが大天使になってから程なくしてから。


 可能性は一つしかなかった。

 感受性の高い天使が、高潔な魂を持つとされるラフィアに対してある種の悲鳴を上げているのだ。


 「私はダメな天使だ……。もっとラフィア様のようにならなけば」と。


 すぐにアリストルは最高神に報告を入れ、改善案をいくつか提案する。しかし、最高神からは静観せよという一言の指令のみ。


 確かに今まで何度か悪魔ゾルダートの発生率の上昇が報告として上がってくることはあった。


 だが、天界自体の価値観の変化があったことは考えずに、静観せよと一辺倒の判断は如何なものかとアリストルは疑問に感じ、一つの考えへと至る。


(最高神は神として本当に機能を果たしているのだろうか?


 何があっても天使が地上へ干渉する時は、一定数以上の悪魔ゾルダートが発生した場合に限られる。

 これは裏を返せば、天界の内情には最高神は一切感知しないのではないか?)


 この前吐いたラフィアへの嘘が頭をよぎる。


(自分は今、冷静に天界の平穏を、秩序を考えて行動しているはずだ)


 アリストルは自身の心の変化にズレを感じ始めて戸惑っていた。

 このズレこそが最終的に凶行へと向かって行く火種となる。


 世界は何事もバランスで成り立っている。

 しかしバランスが取れなくなった世界が現れた時に、天使が介入して事態の悪化を防いでいる。


 では、無数にある並行世界で無数に発生する悪魔ゾルダートが増え、派遣される天使が足りなくなった場合はどうなるのか。


 天使の数よりも並行世界の数は多い。

 仮に並行世界全てに悪魔ゾルダートが大量に発生した時。

 天使の数が足りなくなった時。

 または変異体とも呼ばれる悪魔ゾルダートが理由なく偶然現れた時。


 その世界を担当していた天使が敗北して命を落としてしまったら、更に天使の絶対数が少なくなりながらも、新しい天使が天界から修正に駆り出されてしまう。


 そこで心に疲弊が蓄積していき、天使が悪魔ゾルダートの発生原因である、後悔という念を抱いて戻ってきてしまう。

 敵が多くなれば多くなるほど、強くなっていけば強くなるほど、負のスパイラル的に修正を失敗していく天使が多くなる。


 ラフィアもアリストルも、そんな現実が訪れるとは全く予想していなかった。

 気づいた時にはもう修正不可能なレベルにまで事態が悪化する。


 そしてアリストルもまた、精神の核が疲弊していく天使達を見て変質していってしまった。


(もし、今の状態でラフィアさんが地上に降りたら、もしかしたら氷の女王としての鋼のメンタルを崩せるかもしれない。


 未だに見たことのないラフィアさんから生まれる悪魔ゾルダートが見られるかもしれない……!)


 アリストルは天使の数が減ってしまった現状を打開するという名目で、悪魔ゾルダートの発生から下界へ転移する仕組みを、与えられた専用武器を応用して弄ることに成功する。


 これはある種の天界規定に抵触する禁忌だ。


『世界を救うために世界を犠牲にしてはならない』という禁忌を。


 アリストルは悪魔ゾルダートを発生させた後に行動範囲を誘導するため、魔力で精製した石碑を下界に置いた。

 すると、狙い通り悪魔ゾルダート達がゆっくり、しかし着実に偏りを見せ始めた。


 アリストルはこの施策を評価され、一時的に天使の負担を軽減させた統括として周りから賛辞された。

 ここまでやっても最高神からは何も命令が下されない。この時に最高神はもうただの傍観者だとアリストルは気づく。


 そこからは下界の世界を使った実験を繰り返し、管理する並行世界を一つずつ破滅させて減らす。

 天使にもまた負担を忘れずにかけつつも根強い支持を集め、天界を事実上掌握した。


 心が悪魔に変質してしまったアリストルが、いつもと同じ下界が見渡せる透明なガラス板に座るラフィアへ声をかける。


「ラフィアさん」


 いつしか真っ黒な深いクマが常に浮かび上がっているアリストルを見たラフィアが素っ気なく返事を返す。


「アリストル。何の用ですか」


「冷たい声だ。あなたにこうして声をかける物好きは私くらいでしょうに」


「それは……。時にアリストル。一つ確認したいことがあります」

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