30話 高められた無契約の力
「青い魔力……! やはりあなたは人の身を捨てるに相応しい!!
見せてみろ葉山颯馬! お前の、人間の可能性を!」
「うるせぇよ」
一瞬でアリストルの懐深くまで接近し、腹に一発殴りつけて重撃を入れる。
自然と殴りつけた拳に魔力が乗り、アリストルの鳩尾を捉えた__。
かに思えたが、片手でガッチリと颯馬の拳を握るようにガードしている。
「……!」
「いい重さだ。さぁ、もっと撃ってくるがいい」
颯馬を挑発するように力の違いを見せてくる。
バチンと響く破裂音にも似た衝撃が、ラボ跡地の芝生を波立たせる。
一撃を防がれた颯馬は、そのまま左膝をアリストルの顎下目掛けて振り上げたが、これも拳を受け止めた腕で防がれる。
「君の力は確かに素晴らしい。
だが、まだまだ直線的過ぎて何をするのか丸わかりだぞ!」
颯馬の足を捕まえて高笑いをしながら、グルグルと振り回して何十メートルも先にある瓦礫の溜まり場に投げつける。
「ハハハハハハハ!!!
もっと、もっと力を見せてみろ!!」
轟音と共に打ち付けられ、人工的に小さなクレーターができる。
しかし、青い魔力がゆらゆらと颯馬の身体から溢れるのはまだ顕在。
額から流れ落ちる血の流れは、青い魔力によって吹き飛ばされて瞬間的に治癒が終了する。
(殺す。ラフィアを血だらけにして、リーナまで手にかけたこの天使だけは、絶対に許さねぇ)
颯馬の殺意に呼応するように、青い魔力は再び勢いを増していく。
瓦礫を蹴るように直線的な軌道でアリストルへと飛び掛かると、少しつまらなさそうに
「言っただろう? 君の攻撃は直線的過ぎると」
万全の体制で再びカウンターを狙うが、二人の距離が無くなる寸前、颯馬の身体がアリストルの目の前から消える。
「……!!」
空中で消えた颯馬を見失い左右に目配せをした瞬間、渾身のドロップキックがアリストルの顔面を捉えた。
今度はアリストルが吹き飛ばされ、地面を数メートルだけ転がった。
「中々……やるじゃないか……! ハハハ」
アリストルが仰向けになり、自らの気高い血が口を拭うと裾に付着している。
不敵な笑みを浮かべ、無重力を思わせるような不自然な軌道で起き上がった。
(効いていないのか……?)
颯馬の渾身。まさに全身全霊の本気で地平線の彼方までぶっ飛ばすつもりで放ったはずの蹴りは、僅か数メートルの後退という結果を見せたのみ。
内側の悪魔との契約は今のところまだしていない。にも関わらず溢れ出てくる悪魔特有の色を模した魔力を見て、ここから更に契約を結んだ場合どうなってしまうのか。
(もうこれ以上……! ラフィアを失うくらいなら、悪魔と……!)
青い魔力が一瞬消える。
それから存在感が一気に増した颯馬を見て、まだ強くなるのかと自然体で待ち構えていた最初と比べて、アリストルは手に一本の魔力で出来た剣を握り、天使特有の感覚を開いた。
すると、魔力感知の感覚を開いたアリストルが気づく。気づいてしまった。
以前ラフィアに内側の悪魔を抜き取られて力を失ったはずのシエルから、微弱な魔力が放出されていたのを。
だが同時に颯馬もアリストルの変化に気づいた。自分から標的が変わったような、向けられる意識の質が変わったのを。
(おかしい、俺を捕まえるようなへばりつく意識が消えた……?
ならラフィア? いや、違う……!!)
アリストルの目線はまだ颯馬に向けられたまま。なのに自分を見ていない。
そんな違和感からラフィアを見たが、それも意識の埒外。
(このクソ野郎の狙いは一度適合者として完成した……!)
慌ててシエルへ向き守らねばならないと一歩を踏み出したが、視線をアリストルから切った瞬間、シエルの首を既に捕まえていた。
まるで場面を切り替えたようなアリストルの速度に、颯馬はついていけなかった。
「ガハッ……ぐっ……」
苦しみの声を上げて足をジタバタさせながら片手で楽々と掴んでいるアリストルの腕に爪を立てながらシエルが抵抗する。
しかし、魔力の乗っていない攻撃にも満たない悪あがきは、更にアリストルの力を強めるのみ。
力なく気を失ったシエルを、まるで物を掴んでいるかのように乱雑に掴み、翼を羽ばたかせて上空へ急上昇する。
「さぁ、天界の封印を解こうじゃないか」




